【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

決められたことではなく自分の思いどおりにやり手品の種を探してほしい東北大学名誉教授 清野 慧

みんながアクセスできる幾何学の基準を打ち出したい

聞き手:これまでの研究テーマに関してお話しいただけますでしょうか。

清野:私がこの分野に入ったときに,渡辺真先生から勧められて読んで印象に残った本の中に、そのころ米国の超精密機械をリードしていた,Moore special Tool comp.社のWayne R. Mooreさんの「Foundations of mechanical accuracy」 がありました。そこで,精密測定をどのように正確に行うかの方法で,定盤の作り方で3面合わせをするのにびっくりして(笑),これは面白いと感動しました。そのときの感動がずっと頭の中にあったので,あるときに変位センサーの校正を,基準なしでできないだろうかと思いました。おそらく,3面合わせがヒントになっていて,2つの同じタイプの変位センサーで相互に校正しようと思ったのです。基準にする側は,少し変位(2倍程度)を拡大して入力して,その基準を使うと,自分の誤差は半分になるのです。測定範囲が不足するのは,ゼロ点をずらしてカバーします。その立場を入れ替えて校正した結果を使って,もう一回やっていくと,もともとは分からなかったのが計算でぐるぐると収束するのですね。
 「おまえ,何でそんなことを考えついたんだ?」って言われたりしました(笑)。それで,今も,基準なしで,機械の基本的な真円とか真直とかを測るような仕事をしています。ものづくりの会社は,正しく測れないと製品が造れないのです。それで,真円度測定機,形状測定機というものを,ずいぶん高いお金を出して買っています。だから,私は「自分たちでやりなさい」って言って,やり方を一生懸命教えています。測定機のメーカーさんには,こんなことを言ったら怒られますが(笑)。
 今,ロータリーエンコーダーの校正法が産総研(産業技術総合研究所)から提示されていますが,ものすごく特殊な装置を使う方法です。そこで私が「こういう方法でもできるよね」とお教えして,納得してくれるメーカーさんにはその方法で校正をしています。もちろん校正に関してはトレーサビリティの法律がありますから,それにのっとっています。
 私は直線と平面と真円の測定の基準はハードで与えられているのはおかしいと思っています。みんながアクセスできる幾何学の基準で「こうやったらできます」というのを打ち出したいのです。今,国際標準の基本単位は,物理定数で決めようという動きがありますが形状の基準を幾何学的な決め方をして欲しいと切に願っています。真円の測り方は企業でちゃんとできます。とても面白いです。あと,平面は,干渉計の校正をできるようにして,水準器を外部基準にして組み合わせて算数をちょこちょこっとやるとできます(笑)。これも面白いですよ。
 東北大学の機械系の学生たちは,ものを作るのはきちっとできるようになります。私が辞めるまでは,何かものづくりの経験をしないといけないようにしていました。研究室に工作機械が置いてあり,学生実験や卒業研究の部品を自分で作らせるための技官がいて,はんだごてで回路や,旋盤で機械部品を作るなど,一番基本となるものづくりを経験させるということが,私の研究室の特徴だったと思います。
 今の学生も企業の若い技術者も,両方ともものづくり経験がない点で共通しています。私は今,企業のお手伝いで精密測定の講義をしていますが,企業の若い技術者は,ものづくりの経験がないのです。彼らが何か「作りました」と言っているのは,全部買って組み合わせてシステムを作っているだけです。技術者としてやっていくのに,ものづくりの経験があるのとないのとでは全然違います。そのことに,興味を持たせるのも難しいことです。例えば,私の研究室の卒業研究は,電磁ノイズが一番小さい夜中にデータを取るということをしていましたが,これも経験がないと分からないことです。
 一番反省しているのは,企業の生産現場にいる人たちはものすごく忙しいのです。だから,英語の論文を読む暇がありません。私たちは英語の論文で評価されてきましたから,それは本当に悔しいです。
 実際に読んでいないと身に付かない部分もあると思います。そこで私は,英語の論文を書いたら,学会誌には,日本語に訳したのを載せるのがいいのではないかと提案しています。私たちの母国語は日本語ですから理解もしやすいですし。
 だから,英語での講義も止めてほしいですね。お母さんたちが英語を大事だと思ってしまって,小さいころから英語を教育,触れさせるというのがはやっていますが,あれは一番よくないと思っています。母国語の基礎がきちんとできあがるまでは,別の言葉を教えては駄目だと思います。私が気に入っている本で,『日本語はなぜ美しいのか』(著:黒川 伊保子 集英社新書刊)という本がありますが,そこにも,そのように書いてあります。
 ただ,海外で評価されるためには,英語を勉強して,会話や討論できるようにしていかないといけない,というのもあります。益川敏英先生が,『朝日新聞』の対談で「もうすぐ自動翻訳機ができるよ」話していらっしゃいましたが,とても期待しています(笑)。

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清野 慧

清野 慧(きよの さとし)

1943年 京都府生まれ
1967年 京都大学工学部精密工学科卒業
1972年 同大学大学院博士課程期間満了退学
学位論文 REDUCTION OF VIBRATION AND NOISE OF SPUR AND HELICAL
GEARS 工学博士(京都大学)1975年11月25日
1972年 東北大学工学部助手
1993年 同大学教授
2007年 東北大学名誉教授
●研究分野
機械工学,生産工学・加工学,精密計測,光応用計測
●主な活動・受賞歴等
1998年 精密工学会高城賞 精密工学会賞(Award of JSPE)
2001年 精密工学会賞(Award of JSPE)
2003年 精密工学会沼田記念論文賞
2004年 精密工学会賞(Award of JSPE)
精密工学会フェロー

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