異なる分野の連携が難しいのは目指すものが違うから東海大学 山口 滋
産官学連携の仕方が変わってきている
山口:最近の産官学連携の取り組みとして,連携の仕方が変わってきているということがあります。昔は一つの研究室と企業の一部署が結び付いていました。ある研究室に対して,企業の方がアプローチをかけ,研究契約を結ぶのがごくごく普通のやり方でした。これからは企業同士が連携をするように企業と大学が包括の契約を結ぶように考えています。トップから実務レベルまで,どんな事業戦略を目指すかということを考えて連携をしていくのです。技術はデバイスコンポーネントですから,企業がこういう開発をしたいと考えた時に,それに必要な技術を大学にある複数の研究室と連携をして仕上げていく。これが私たちが目指している連携です。
もちろん旧来の1企業と1研究室の対応もあってしかるべきだと思います。しかし,大企業でも中央研究所が無くなっていることを考えれば,大学を中央研究所の替わりとなるような連携をしていく必要があると思っています。
単なる研究推進だけではなく,企業や官に,大学で学生と教員が挙げた成果物をトップセールスをかけていき,そこに研究費を導入するというような,透明性を維持しながら,組織対組織で対応ができるような形の産学連携を始めようとしています。
これには相乗効果がもう一つあります。1研究室と1企業でやっていると,研究が行き詰まった場合に埋もれてそこで終わりになってしまいます。ところが包括的な連携であればその事業がだめになっても,ほかの事業で日の目が見られるようにできるのです。トップ同士がつながっていれば,あれはどうなった?ここではだめでした。なら,次はこっちでやればいいのではないか?というように,パイプが残るようにするのが新たな研究の連携であり,それを目指しています。
例えばレーザーでも同じことで,1つの研究室が,企業と共同で論文を書く,特許を出すのではなくて,あるレーザーを使っている,あるいは使いたい部隊に対して,3つぐらいの研究室がシステム的なものを供給して,そこで使い方の特許を出していくという。
実はこれは東海大学だけが目指しているのではなく,多くの大学が目指していています。JST主催の展示会,「イノベーション・ジャパン2016 ~大学見本市&ビジネスマッチング~」の併設展示で,「産学連携パートナーシップ創造展」というものがありましたが,国立大学が17,私学からは東海大,立命館,芝浦工大の3大学が選ばれ展示をしていました。
どう連携のための横串を指すか
聞き手:産官学の連携において苦労されることをお聞かせください。山口:異なる分野の連携が難しいのは,医学が目指すものと理工学が目指すものが違うからだと思います。理工学の先生は,ものつくりに走りがちですが,医学の先生は患者が治る方向に行かなくてはいけない。つまり,ものはできて当たり前の話で,そこから先も大事なんだと常に言うわけです。でもそこがなかなか理工学の先生に理解できないし,医学の現場のそのスピードに追いつけない。
科学技術も人柄でして,お互いにお互いを譲らず双方が主張し合うと,当然連携にならないのです。その辺がやはり学問をずっとやっている人たちの難点ではないかと私は見ています。特に理工学の先生には,自分は長く深くやってきたと「技術分野が一番」という発想がございまして,片や一方のお医者さんには,患者のためを思ってやっているのに,なぜ分からないとおっしゃる。両方の言い分をうなずいたり崩したりしながら,お互いに握手する場,しっかりとした横串をどう通すかかが,医工連携がうまくいくかの要です。
最近,グローバル化ということがいわれていますが,医学の言語と,理工学の言語は,おそらく違う,言語学から違うのだと思います。その違いからみんなけんかをしている,仲よくなれるはずがないと。そこを最後に結ぶのは哲学だと思うのですが,これがまたいい加減なものでして,これが横串をなかなか刺せない原因だったりします。
連携のために恨みを買ってでも,相手の鼻をへし折ってでも横串を刺して,言うことを聞かせるようにするということをやるべきか否かの判断,それが難しいところです。
刺さなければ絶対に進まない。ただ,やる気を失うまで刺してしまうと,やっぱり進まないから,双方のプライドは残さなければいけないというさじ加減が非常に難しい。こればっかりはいつまでたっても試行錯誤の繰り返しです。同じような力加減で刺したつもりでも,両方ともやる気になったケースもあれば,やっぱり二手に分かれたというケースもあったりで,それこそ人柄を見ながら,どこで,どこまで融合させようかというところは非常に難しいところです。お互いに一生懸命やっているのですが,求めるものの形が違う。もし同じであっても,アプローチの仕方が違うと,これはなかなか横串を刺そうにも刺せなくなってしまいます。だから,お互いが納得するような別の形,別のアプローチを示したりしながら,うまく言い含めるのが私の役割だと思っていますが,ここがなかなか悩みの種です。
同じことはレーザーの実験でもよくありました。最後の目標が決まっていても,学生さん,それから先生方の間ですらアプローチの仕方が違うだけで暗礁に乗り上げていました。また,例えばレーザーの制御について企業さんとやりとりをするのですが,企業の研究者のスピードに対して,私たちのスピードとが全然違う部分があるわけです。
大学では慎重にいろいろなデータを蓄えて,段階を踏まえて進んで行くのに対して,企業ではあくまでも利益が重要で,基礎データは,パッパッとポイントをとればいい,八艘飛びをしても,最後うまくいっているところへ行けばいいという考えだと思います。 <次ページへ続く>
山口 滋(やまぐち・しげる)
1981年 慶應義塾大学工学部卒業 1983年 慶應義塾大学大学院理工学研究科修士課程電気工学専攻修了 1983年 石川島播磨重工業㈱入社 航空宇宙事業本部光プロジェクト部にて高出力炭酸ガスレーザーの研究開発 1989年 米国ライス大学量子工学研究所交換研究員,高出力エキシマレーザーの研究 1991年 石川島播磨重工業㈱に復帰 レーザー精密加工装置の開発,レーザー計測機器の開発に従事(電力,製鉄会社等に製品納入) 1993年 博士(工学)(慶應義塾大学)取得 1997年4月 東海大学理学部物理学科助教授 レーザー共振器の理論解析,レーザー計測・レーザー診断・微量物質検出の研究に従事 2003年4月 東海大学理学部物理学科教授 2005年4月 同大学院理学研究科物理学専攻主任教授 2006年4月 同理学部物理学科主任教授 2011年4月 同大学院総合理工学研究科研究科長 2015年4月 同研究推進部部長 及び産官学連携センター所長兼務●研究分野
物理学一般,物理計測・光学,分離・精製・検出法