あとから見ると無駄な計算でも その答えから「ああそうか」と思うことがある宇都宮大学 オプティクス教育研究センター 特任教授 一般社団法人 日本光学会 会長 黒田 和男
会長を頼まれたのは,投票の結果が出たあと
聞き手:黒田先生は一般社団法人日本光学会の初代会長ですが、日本光学会設立の経緯と今後についてお聞かせください。黒田:日本光学会は応用物理学会の光学懇話会としてスタートしました。その後名称を変え,日本光学会として応用物理学会の下部組織という形でしたが,設立当初から応用物理学会の会員ではなく,日本光学会のみの会員という方も多くいるような状況でした。そうした経緯を踏まえ,会員に独立の是非を問う投票をしたところ,投票の9割,全会員の5割以上が賛成に票を投じ独立することが決まりました。2014年の9月に登記を行い,2015年の1月から一般社団法人日本光学会として活動を開始しています。
実は私自身が会長をやってくれと頼まれたのは,投票の結果が出たあとでした。投票に至る準備段階でどのような議論があったのかは存じ上げていない部分もあるのですが,投票の結果を受けて,物事が一気に進んで行った感じです。
基本の活動は以前の日本光学会の事業を引き継いでいます。機関誌「光学」,英文論文誌Optical Reviewを発行し,年次大会(OPJ)や各種講演会を開催しています。
ただ一般社団法人日本光学会と応用物理学会は別組織になりますので,当時日本光学会の会員の方が,そのまま新しい一般社団法人日本光学会の会員になるわけではありません。もしまだ入会のお手続きをお忘れの方がいらっしゃいましたらあらためて入会の手続きのほどよろしくお願い致します。
事業は引き継ぎましたが,資金の蓄えはなくゼロからの出発でしたので,初年度は赤字を出せない状況でした。そのため,1年目は極力経費を切り詰め,恐る恐る運営をしてきました。1年目は委員会での交通費が出せないとか,会員に大きな犠牲を強いるような運営になってしまいました。
2年目からは少し余裕ができましたので,交通費ぐらいは払えるようになりましたが,まだまだ事務経費が十分に取れていません。本当に最低限,やっと動くぐらいの事務しか置いていない状況です。早急に強化していきたいところです。
学会の役割を充実させたい
黒田:ようやく財政的に少し余裕が見えてきましたので,これからはその次の段階に進めなくてはいけないと思っています。学会は情報交換など研究者同士の交流の場であります。研究成果を話し合い議論する場で,それが第一義なのですが,と同時に幾つか,もう少し違う役割もあると思っています。
まずは教育や啓蒙です。若い人に光学の楽しさを教えるとか,そういう教育啓蒙活動をやりたいと思っています。
それからコンサルティングです。特に中小企業さんで光学を必要としている企業にむけて,分からない問題とかアドバイスを気楽に聞けるような場を用意し,企業と学会をつなぐ橋渡しができればいいかなと思っています。
実際に教えてくださいという話もいくつか来ています。今のところ,具体的な成果は出ていませんが,これから少しずつ活動していきたいと思っています。
安定した運営のために会員を増やしていきたい。独立する前に約1,400名の会員がいましたが,今800名ぐらいです。会員増のためには,新しい分野の方にも積極的にアピールをしていきたい。日本光学会は14の研究グループがありますが,そのうちの1つ「フォトダイナミズム研究グループ」は去年の秋に新たに設立された研究フループです。これは天文の人とバイオの人が結び付いた非常に珍しい研究グループです。一見違うように見えますが,天文では空気の揺らぎ,バイオでは液体由来と,どちらも共通してモヤモヤした媒体の中を通してイメージングをしていますが,どうやってそれを修正してクリアな画像を得るかというところで問題点が一致しているのです。
ただし昨今,応用物理学会はじめどの学会も会員は減ってはいないにせよ大きく増えてはいません。簡単に会員増は見込めません。ですから私たちも今の会員数できちんとやっていけるようなモデルもつくらなければなりません。それが何か明確な答えが出てはいませんが。
最後にもう1つ,学会に期待される役割があります。毎年OPJではOSAの会長にお話をしてもらっているのですが,昨年のOSAの会長が強調していたのは,ロビー活動,つまり政府に強く働き掛けて科学技術政策の策定に関与せよということです。
確かにそれをいわれると,今まではそういうことをやってなかったなと思います。理学系の研究は企業からの資金をあまり期待できないので,政府に働きかけることをやってきました。大型の実験施設,加速器とか最近ですと重力波の検出とかに企業は絶対にお金を出さないでしょうから,国に援助してもらうしかないわけです。
これから少し国に働き掛けるようなことを,日本光学会だけではなく光関係の学会,例えばレーザー学会や応用物理学会と連携して働き掛けていかなければいけないのでしょう。
簡単ではありませんが,学会の将来の機能として考えていかなければいけないと思っています。
<次ページへ続く>
黒田 和男(くろだ・かずお)
1947年 東京都生まれ 1971年 東京大学 工学部 物理工学科卒 1976年 東京大学大学院 工学系研究科博士課程修了 1976年 東京大学生産技術研究所 助手 1983年 東京大学生産技術研究所 助教授 1992年 コロラド大学客員研究員 1993年 東京大学生産技術研究所 教授 2012年 定年退職し,東京大学名誉教授 2012年 宇都宮大学オプティクス教育研究センター特任教授● 研究分野
気体レーザー,フォトリフラクティブ材料とその応用,フェムト秒レーザーの波長変換とその応用,ホログラフィック光メモリー,レーザーディスプレイにおけるスペックル対策など
●主な活動・受賞歴等
SPIE, OSA, JSAPフェロー, 日本光学会会長