【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

技術者になりたいという子どもを増やしたい静岡大学/兵庫県立大学 寺西 信一

メーカーにいて恵まれたこと

寺西:論文を書くこととものづくりとの違いは,論文は「いいところ」を強調することが多いのかなと思います。それに対してものづくりでは,どうしようもない駄目なところがあるとものになりませんから,そこを何とか持ち上げるということだと思います。ただ,一緒に仕事をしている人に「ここがおかしい」とズバリ欠点を指摘したりするのは,なかなかつらいものがあります。でも,それが必要なのです。もっとも,そのような部分は論文にすることはあまりありません。うまくいけば特許を出したりはしました。
 メーカーにいるというのはいろんなことに恵まれています。どこかに抜けがないかという部分を見ないといけないので,システマチックに仕事をやるということを勉強させてもらいました。何でも記録をして「こういう失敗があった」とか「こういう項目も測定する必要がある」といったことを周知徹底するということが非常に大事だと学びました。さらにはチームプレイの大切さですね。

失敗はあって当たり前で,何を学ぶかが重要

聞き手:研究・開発プロセスにおいて,自信を喪失されたり試行錯誤して苦悩された苦いご経験がありましたら,ぜひそのエピソードをお聞かせください。

寺西:失敗は糧になると思っています。別に失敗したいわけではないですが,失敗のほうが成功よりはるかに多いです。仕事をしていれば失敗するのは当たり前で,何もしないと失敗しないように思われますが,それは何もしないという失敗で,目立たないだけです。何より失敗に気が付かないのが問題で,まず自分が失敗しているんだということに気が付くことが重要です。  人間は自分の我を守りたいから,失敗を認めないという場合もありますし,意識がそこにいっていないから,失敗に気が付いていないということもあります。その回数を減らさないといけません。  それは好奇心とか注意力とかいろんなことで補えると思うのですが,難しいところです。失敗はあって当たり前なので,失敗から何を学ぶか,失敗後の処置をどうするかが重要で,これは1人1人違っていて,それを個性と言うのだと思うのです。  開発のプロセスというのは失敗そのものです。失敗で自信を喪失したり苦悩したりするというのは,そう割り切ってしまえば苦しくないと思います。もっとも経営者からすると,いったいいつできるのだという感じで苦しいかもしれないですが(笑)。  失敗しているというのは前進していることだと思います。ですからその後の処置,そこから次に何をするかを,失敗の分析をして行動を起こすかが重要なのです。そのためにも失敗を隠さない,失敗を自分のものだけにしない,みんなに言うことが大切です。よく失敗ほど早く報告しろと言われますがその通りです。  してはいけない失敗もあります。それは安全に関わることです。これは看過できません。対策を徹底的に決めて,関係各位への報告も欠かせません。  一言で失敗と言ってもいろいろと種類があります。真剣にやって起きる失敗,抜けていて起こる失敗,例えば手順書に書いてある通りやらなくて失敗するとか。あと「あいつ,あれをやっちゃったよな」というのを繰り返し言われるような失敗もあります。「駄目じゃないか」と言われるだけの失敗ならいくらでもやればいいと思います。同じ失敗を繰り返してもいいということではありませんよ。どんな失敗をしたかではなく失敗の後,気が付かない,処置をしないというのが一番の問題になるのです。  失敗に限らず,素晴らしいアイデアは至るところにあります。ただ泥水の中にあっては見えません。ですから,手探りで探してみようという気になることが大事なのです。これは先駆者の皆さんもおっしゃっていますが,いかに通り過ぎるものをきちんと見つけられるかということです。失敗から何を学ぶかというのは,その人その人の強さだと思いますが,失敗して申し訳ないという気持ちがあるだけでも,次は一生懸命になりますから,そういった意味でも失敗は糧になると思います。  ただ,あまりにも馬鹿げた失敗をすると,さきほども言ったように,何回でも,それこそ宴会のたびに言われることがあります。誰かが別の失敗したときは,あいつもやったよなとか。でもそれを成功に結びつくようにしていけばいいのです。あれのおかげで成功したのだと言えればいいのですから。

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寺西 信一

寺西 信一(てらにし・のぶかず)

1978年 東京大学理学系大学院物理学専攻修士課程修了 1978年 日本電気株式会入社,イメージセンサーとカメラの開発に従事 2000年 松下電器産業(現:パナソニック)株式会社入社,イメージセンサーの開発・マーケティングに従事 2013年 同社定年退職 2013年 国立大学法人静岡大学 電子工学研究所特任教授(現在に至る),低ノイズ化及びフォトカウンティングイメージセンサーの開発,新機能イメージセンサーの開発 2013年 公立大学法人兵庫県立大学 高度産業科学技術研究所特任教授(現在に至る),X線イメージセンサーの開発 2013年 International Image Sensor Society President(現在に至る)。
●職務内容
イメージセンサーの開発
●主な受賞歴等
1993年 全国発明表彰経済団体連合会会長発明賞 1997年 科学技術庁長官賞研究功績者 2000年 映像情報メディア学会丹羽高柳賞業績賞 2003年 映像情報メディア学会フェロー 2010年 IEEE Fellow 2010年 英国王立写真協会進歩賞,および名誉フェロー 2011年 米国写真協会進歩賞 2013年 映像情報メディア学会丹羽高柳賞功績賞 2013年 山崎貞一賞 2013年 IEEE EDS J.J.Ebers賞 2017年 エリザベス女王工学賞

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