技術者になりたいという子どもを増やしたい静岡大学/兵庫県立大学 寺西 信一
できないと簡単に言ってはいけない
寺西:もう1つの教訓は,「できない」と簡単に言ってはいけないということです。これは何回か経験して教訓となっているのですが,マイクロレンズの開発でも思い知らされました。マイクロレンズ技術は今でこそ当たり前ですが,それが存在する前を考えると大変なことです。特許的には結構古くからあるものなのですが,特許があるからと言って実現が簡単ということではありません。というのも企業では技術者に特許のノルマがあるのですが,ノルマが苦しいときに,このような実現方法がはっきりしない特許を書いたりすることがあるのです。NEC時代に,私の上司の石原さんがマイクロレンズの作り方を考えついて,やってみようということになりました。で,私は「えー」と思ったわけです。それはフォトレジストで四角いパターンを作り,適度にガラス転位点以上に加熱することで角を丸くしレンズに仕上げるというものでした。
紙の上で説明を受けて,「えー」と思ったわけです。結局作業は私がしたのですが,彼の言う通りにしたらそれらしいものができまして,感度も上がったわけです。私は「えー」って言っていましたから自戒の意味もあり,論文の連名には遠慮をしたのですが,その時に,そう簡単に「できない」と言ってはいけないなというのを間近で見ることができましたね。
レジストはそういう用途のための物ではなかったわけですが,彼は頭が柔らかくて,全然違う使い方をしてもいいと考えたのです。レジストも今ではいろいろな用途に使われており,「そんなことできるの?」と言った自分が恥ずかしい限りです。ですが人間の頭というのは,そういう実例を見ることで,初めて柔らかくなっていくと思います。石原さんは私の11歳年上で,工業高校出身の方で,発想の豊かな人でした。彼のような人に出会えたのは非常に幸せでしたね。
根っからの技術者で,問題があると一生懸命考える
寺西:チームとしてうまく機能することも大事です。個人を見るとバラバラで動いているように見えても,大きく見るとちゃんとまとまって動いている組織は凄いことをしていると思います。みんながアイデアを出して,決めるときはみんなが集まって一緒にやるということが大事です。私は中間管理職を長くやってきましたが,自分は技術者だと思っていたので,問題が起こると一緒に考えるわけです。私も一生懸命考えて,誰かがいいアイデアを出すと「それはすごいな」とか「すごい技術者だ」と感心します。逆にみんなから何も出てこずに,自分がいいアイデアを出すと,最初はうれしい。でも自分だけが特別な情報を持っていて,みんなにちゃんと知らしめていなかったのではないかという反省もします。
根っからの技術者なので,問題があると「なにくそ」と思って一生懸命考えますね。
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寺西 信一(てらにし・のぶかず)
1978年 東京大学理学系大学院物理学専攻修士課程修了 1978年 日本電気株式会入社,イメージセンサーとカメラの開発に従事 2000年 松下電器産業(現:パナソニック)株式会社入社,イメージセンサーの開発・マーケティングに従事 2013年 同社定年退職 2013年 国立大学法人静岡大学 電子工学研究所特任教授(現在に至る),低ノイズ化及びフォトカウンティングイメージセンサーの開発,新機能イメージセンサーの開発 2013年 公立大学法人兵庫県立大学 高度産業科学技術研究所特任教授(現在に至る),X線イメージセンサーの開発 2013年 International Image Sensor Society President(現在に至る)。●職務内容
イメージセンサーの開発
●主な受賞歴等
1993年 全国発明表彰経済団体連合会会長発明賞 1997年 科学技術庁長官賞研究功績者 2000年 映像情報メディア学会丹羽高柳賞業績賞 2003年 映像情報メディア学会フェロー 2010年 IEEE Fellow 2010年 英国王立写真協会進歩賞,および名誉フェロー 2011年 米国写真協会進歩賞 2013年 映像情報メディア学会丹羽高柳賞功績賞 2013年 山崎貞一賞 2013年 IEEE EDS J.J.Ebers賞 2017年 エリザベス女王工学賞