【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

工学を学ぶメリットは分析して思考する力をもてることであり どんな分野にも応用できるニューサウスウェールズ大学 Scott Tyo

自分のアイデアが使われるなら良いアイデアだということである

聞き手:これまで研究してきて成果が出ないなどの理由で自信を喪失されたり,苦悩されたご経験がありましたら,そのエピソードをお聞かせください。また,こうした状況をどのように乗り越えてきましたか。

タイヨ:私は2つあると思いました。1つは,一般的な言い方をすると,研究では時々起こることです。それは自分の考えを別の誰かが使って,ほかの人々が自分の過去にした仕事を引用しないで同じ成果を発表したときです。自分の仕事が盗まれているのではないかと思うことがあるので,私はいつもこれらの状況を見極めようとしました。彼らは私と似たようなアイデアを持っているか,あるいは彼らが実際に私の仕事を見たことがあり,それが彼らが進む特定の方向に影響を与えたのではないかと思いました。
 今では,そのことはそれほど大きな問題ではなくなりました。誰かが私のアイデアを盗んだとしたら,それは良いことだと思います。なぜなら,私のアイデアは良いアイデアだったということだからです。利用されているなら成功したのだと考えます。しかし,若い同僚は,そういうことが起こると非常にイライラします。それは研究エンジニアとして,何がモチベーションであるかを決めなければならないということです。新しい知識を生み出し,それを可能な限り広く普及させることが,主なモチベーションであるなら,アイデアのいくつかについて評価を失うことを,それほど心配することはありません。もしあなたのモチベーションがお金を稼ぐことや名声を得ることであるならば,盗られたという気持ちも強くなるでしょう。これは,若手技術者が業界市場で現在直面している不安の1つです。
 もうひとつは,ベンチャービジネスへ参入したことです。私は10年ほど前ニューメキシコ大学にいたときに,同僚のビジネスパートナーと一緒にベンチャービジネスを始めました。私達はかなり成功しました。6,7年の間でビジネスを続けるために十分なお金を稼いでいましたが,最終的には終わりを迎えました。楽しい時間はたくさんありましたが,緊張もたくさんありました。ビジネス上のトラブルが要因で,大学の同僚だった彼と私は,もう友達ではありません。その中で,私が学んだ非常に重要な教訓は,ビジネスをやるときの立ち位置を明確にすることです。役割とは何か,そして誰が決定を下すのかを決める必要があります。私たちが抱えていた問題の1つは,意思決定権限が明確に述べられておらず,誰もが意見を述べる権利があると思ったことでした。それは不協和音をもたらし,人々がビジネスから離れることにつながりました。私はそこから多くのことを学びました。授業を受けなくてもMBAを取得したような気がします。私はただその経験で充実していましたが,とても疲れました。多くの時間とエネルギーを必要としました。ただ,機会があればまたやりたいと思っています。一度経験したことがあるので,今度は今までとはまったく違った見方をすることができます。
 ここでのメリットの1つは,私たちのパートナーはビジネスマンであり,私たちがしないようなことをもたらすのが本当に良いビジネスマンであるという価値を学びました。あなたがすぐれたパートナーを見つけたいとき,それは重要な点です。私はベンチャーをまたやるつもりですが,適切なパートナーを持つことが条件であると理解しています。
 ビジネスをやることは成長体験でした。研究には期限はありません。四半期の利益幅を満たさなくとも,問題ではありません。しかし,ビジネスでは,製品をリリースしたいので決断をしなければなりません。私たちは装置の信頼性とその種の細かいことについて学びました。研究側から見れば,自分がやろうとしていることがどのように機能するかを理解するのに役立つかとは,まったく異なる見方でした。なので,私はもう一度ビジネスをやりたいと思っています。やるときには,条件は厳密にしなければならず,パートナーも適切にしなければならないと思います。このことが最も重要なことでしょう。

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Scott Tyo

Scott Tyo(すこっと・たいよ)

ペンシルベニア大学で電気工学を専攻 米国空軍勤務。ニューメキシコ大学,アリゾナ大学 オプトサイエンス教授 現在:オーストラリア ニューサウスウェールズ大学教授
●研究分野
偏光計測,リモートセンシング

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