制約のないものはない。 制約を楽しむ気持ちを持ち,最適化を求め過ぎず,スピードを大切にして欲しい東京大学大学院 廣瀬 通孝
今は製造技術というよりは運用技術の重要性が高まっている
聞き手:VRの研究を進め,人々の生活に浸透させていくために重要だとお考えのことはありますか?廣瀬:今後,企業間コンソーシアムの役割が増えるでしょう。私もURCF(超臨場感コミュニケーションフォーラム)の会長をしていますが,そういう模型組織です。URCFは,高い臨場感を有する情報メディアを実現するための技術開発や情報交換,異分野交流を目的として,2007年3月に設立されました。現在はあるテクノロジーがあったときに,それをどう試していくかが非常に重要になってきています。URCFの中にはいろいろなフィールドを持つ企業が入っています。フィールドを持っているということ自身が,これからの情報技術やアカデミアにおいて重要な役割を果たすと申し上げたいです。
いろいろな企業の方たちとお話しさせていただいていると,おもしろいことを言うのは現場を持っている人たちです。昔は,シーズを持っている人たちが夢を語っていました。例えば,「こういうロケットがあれば宇宙に行けるんですよ」という話をするのです。でも,宇宙に行って何をするかといった話は,あまり語られていませんでした。こういう人たちは,ロケットを打ち上げた時点で目標が達成されるのです。ある意味,技術者にとって幸せな時代だったのかもしれません。
現在はコンテンツの時代と言われているように,製造技術よりも運用技術の重要性が上がってきています。先のロケットの話でも,打ち上げてから何をやるのかが重要になってきています。おもしろい知識というのは,作った技術を試しているうちに出てくるものです。しかし,技術を使って何をするのという問いかけはメーカーからは出てきません。使う側が知識を知り始め,力関係が変わり始めているのです。
とはいうものの,いきなり利用の現場に触れるのは様々な困難がともないます。われわれの研究室では,2000年に入ってから博物館に出入りするようになりました。デジタルミュージアムのプロジェクトです。エンターテインメントよりもう少しシリアスな部分で使える分野を探した結果,博物館があったのです。博物館に行く人たちは知的水準が高く,ある種のセレクテッド・パーソンでもあるわけです。新しい技術が最初に登場するのは学会です。そこには専門家が来ますから,新技術に対する理解があります。それよりは一般的な場として,博物館や企業が実際の現場で使える応用技術を探すための展示会があり,最終的な一般的社会として家庭があります。いろいろな場があるわけで,そうした様々な使用者たちに加わってもらいながら研究を進める場所を作っていくことが必要で,これからの研究の方法論になるのではないかと思っています。
<次ページへ続く>
廣瀬 通孝(ひろせ・みちたか)
1977年 東京大学工学部産業機械工学科卒業 1979年 同大学大学院修士課程修了 1982年 同大学大学院博士課程修了 同年 東京大学工学部産業機械工学科専任講師 1983年 同大学助教授 1999年 同大学大学院工学系研究科機械情報工学専攻教授 同年 同大学先端科学技術研究センター教授 2006年 同大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻教授,現在に至る。●研究分野
システム工学,ヒューマンインターフェイス,バーチャルリアリティ
●主な活動・受賞歴等
日本バーチャルリアリティ学会特別顧問 東京テクノフォーラムゴールドメダル賞,電気通信普及財団賞などを授賞。主な著書は,『技術はどこまで人間に近づくか』(PHP研究所),『バーチャル・リアリティー』(産業図書),『バーチャルリアリティー』(オーム社),『電脳都市の誕生』(PHP研究所)など。