その時点では反論できない厳しい指摘だとしても, そこでやめてしまっては,チャンスはつかめない東京工業大学 山口 雅浩
結論に至った理由の理由まで考えて欲しい
聞き手:工学を学ぶ学生や若手技術者に向けて,伝えたいことはありますか。山口:若い頃にはいろいろなことを思いつきます。企業の人たちとも話す機会があると思います。そこで,「あなたの研究は面白いけど,商売にならない」とか「実用面ではもっと別のポイントが大事で,実際には使えない」と言われることもあると思います。確かに,大学にいるとコストや量産化,メンテナンス体制などあまり意識しないことも多いので,そのような議論はとても有用です。しかし,それを素直に聞いて,納得してはいけません。最近,海外から新しい技術が入ってきて話題になったり投資を集めたりしているものがあります。そういうものを見て,ずいぶん前に知り合いの研究者が取り組んでいた方式や,自分が考えていた技術とほとんど同じものがけっこうあります。もし研究をやめていなければ,こちらが先だったかもしれないのです。ですから,人生や研究の先輩から,「使えない」「役に立たない」などと言われ,さらに,そこで反論が思いつかず,研究の意義を見失ってしまうことがあるかもしれません。確かにその時点では,自分が反論できないような厳しい指摘だとしても,信念をもって進めていることをそこでやめてしまっては,世界の誰もやっていないことを先導できるチャンスを逃してしまうことになるのです。それは,自分自身を振り返っての反省でもあります。 あと,私が学生にいつも伝えているのは,例えばある結果または結論が得られていたとして,なぜその結論になったのかをできるだけ深く考えるようにして欲しいということです。学生には,その結論を出した理由の説明をしてもらったら,さらに,その理由の理由を質問します。なぜそういう考えになるのかと,何回か繰り返して考えてみると,自分の気がついていなかった本当の理由が見つかることがあります。学生との議論の中でのそのような発見は自分としても楽しみの1つですが,学生には,自分自身で実践して,そのような発見ができるようになってもらいたいと思っています。
簡易的な構成による動画分光イメージング
山口 雅浩(やまぐち・まさひろ)
1989年 東京工業大学総合理工学研究科物理情報工学専攻修士修了 1989年 同 像情報工学研究施設 助手 1994-1995年 アリゾナ大学医学部放射線科訪問研究員 1996年 東京工業大学 工学部附属像情報工学研究施設 助教授 2011年 同学術国際情報センター 教授 現在,東京工業大学 工学院 教授,情報通信系担当,副学院長 博士(工学)●研究分野
光学,画像工学,ホログラフィー,分光イメージング,病理画像解析
●主な活動・受賞歴等
1999-2006年 通信・放送機構(2004年~(独)情報通信研究機構)赤坂ナチュラルビジョンリサーチセンター・サブリーダ兼務 2011-2017年 CIE(国際照明委員会)TC8-07 Multispectral Imaging 技術委員会主査,現在,日本光学会理事,Optical Review 編集委員長,CIE第8部会国内委員会委員長
2010年 Society for Imaging Science and Technology Charles E. Ives Journal Award(論文賞)受賞
2010年 平成22年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)受賞