できない技術はない。必ずできるという強い信念をもって取り組む姿勢が大事九州大学大学院 安達 千波矢
2つの分野にチャレンジして欲しい
聞き手:これから活躍を目指す若手研究者や技術者,学生に向けて,メッセージをお願いします。安達:私は,基本的にできない技術はないと思っています。必ずできるという強い信念をもって取り組む姿勢が大事です。もちろん,時間がかかるかもしれませんが,絶対できると思ってやり続けているとできるのです。できないと思ってやっていると,頭が無理だと考えるので,できなくなってしまいます。でも,できると思ってやっていると,できる方法を考え,いろいろ積み重ねるので,いつの間にかできてしまうのです。もちろん,50年,100年もかかるものは基礎学問ならいいですが,エンジニアリングで生きていこうと思ったら,そこまでは生きられません。ですから,10年,20年くらいでものになる技術に取り組む必要があるので,そこは折り合いが必要です。
私自身は,学部は物理で大学院では化学を専攻しました。物質を実際に合成していくのは料理と同じで,鍋の中にいろんなもの入れて混ぜて熱をかけて反応させて,そこから精製をしていきます。実際に実験をして,物ができて光るという現象はすごい楽しいです。しかも,99.9%なのか,99.99%なのか,99.999%なのかでまったく光り方も違います。その感覚は,机に座って物理の勉強している人にはわかりません。実際に実験室で実験をし,自分で物質を作ってみると, なるほどこれは99.999%なのだとわかるのです。物理の理論の土台は大切ですが,実験室の実験台の上でものを見ることも大切です。物理と化学それぞれはまったく違う世界で,お互いがお互いをリスペクトして,良さを理解することが求められます。私自身は両方を体験してきたので,卒論で入ってきた学生には,化学と物理の両方を経験したほうがいいよと言っています。早いうちに両方をやり始めるのが,バリアもないですからやりやすいです。ただし,人によって,数式が得意とか,実験が好きなどといった好き嫌いや向き不向きもあります。ですから,それぞれ自分の一番好きなところをやっていって,足りないところはコラボレーションで補う感じでもいいと思っています。
私自身のこれからの目標としては,1つはTADFの派生技術としての熱電があります。熱は究極のゴミです。TADFは熱を吸い取る仕組みですから,空間熱をエネルギーとして利用できる技術に興味をもっています。また,分子レベルにアクセスする技術も進んできましたので,最初に話をした分子レベルでのデバイスの実現も夢ではないと思っています。
それから,ちょっと変わったところでは,TADFのバイオセンシングへの応用があります。渡り鳥というのは北と南を認識する器官があり実際に移動していきますが, 実はそれはTADFの原理を使っているのです。電気励起下では一重項と三重項励起状態の比率が25%と75%と言いましたが,地磁気の影響を受けてその比率が変わり,それを鳥は感知して飛ぶ方向を判断しているのです。人間はTADFの原理をやっと見つけましたが,鳥はもう数万年前にすでにその原理を取り込んでいたのです。やはり生物のほうが先に進んでいるようです。そんなところにも,TADFの技術を応用していけたらと考えています。
青色有機EL素子の連続駆動耐久試験装置
安達 千波矢(あだち・ちはや)
1991年 九州大学大学院総合理工学研究科材料開発工学専攻博士課程修了(工学博士) 1991年 株式会社リコー化成品技術研究所研究員 1996年 信州大学繊維学部機能高分子学科助手 1999年 プリンストン大学Center for Photonics and Optoelectronic Materials研究員 2001年 千歳科学技術大学光科学部物質光科学科 助教授 2004年 千歳科学技術大学光科学部物質光科学科教授 2005年 九州大学未来化学創造センター教授 2010年 九州大学応用化学部門 教授(兼任:最先端有機光エレクトロニクス研究センター センター長 未来化学創造センター教授)主幹教授●専門分野
有機光エレクトロニクス,有機半導体デバイス物性,有機光物理化学