テクノロジーで古い業界の生産性を上げ,さらにその先へ株式会社スマテン 代表取締役社長 都築 啓一
儲けでは続かない。「思い」の乗せられるビジネスにようやく出会えた
さきほど,防犯カメラに関わっていた時に,たまたま消防設備の業界を知ったとお話ししました。実は,当初は消防関連の仕事を始めるとは思っていなかったのです。スマテンで私の立ち上げた会社は5社目ですが,それぞれの会社で携わってきたさまざまなビジネスを通じて,常に自分が知らないビジネスをインプットして,その中で思いを乗せられるビジネスを探していました。
その「思い」とは何かといえば,この業界を変えたいとか,この事業で成長したいという思いです。ただ「儲かればいい」という判断基準ではなく,思いを込められるビジネスを探していたのです。もちろん企業ですから儲けなければ継続できませんが,儲けだけでは気持ちが続かず,いずれ息切れしてしまいます。四六時中考えていたいビジネスを探していて,震災でのボランティアも経験したうえでようやく見つけたのが,防災に寄与できる,消防設備の業界だったのです。ここにたどり着くまでに10年以上かかりました。決して早く見つけたとは思いませんが,経営者人生としてやりたいことが見つかったのは幸せなことだと思っています。
聞き手:都築社長はかつてインタビューで物理が得意とのお話をされています。弊社のメディア「O plus E」は物理系出身の読者も多いため,大学時代に学んだことで印象に残っていることや,今のお仕事に生かせていることがあればお話ししていただけますか。
また,弊社の関わる技術分野である画像処理や光エレクトロニクスなどの知見は,現在も防災分野で導入されていると思います。今後,御社のビジネスとどのようにコラボレーションできるかなど,都築社長のお考えをお聞かせください。
都築:まず大学時代の話ですが,当時理工学部に在籍していて,数学や物理が好きでした。特に数学の授業で1問の数式を1時間半くらいかけて解く授業が印象に残っており,一つの数式を掘り下げていくというのは興味をもって取り組めました。今はさすがに,数式を解くのは難しいですが。
また,物理を学ぶことで物事の本質をしっかりと見る力が養われたと感じています。これはビジネスを進めるときに直接的ではないにせよ,いろいろな局面での考え方として私が大切にしているところです。
次に,画像処理技術や光エレクトロニクスなどとのコラボレーションについてお話しします。消防設備や法令点検には当然ハードウェアがあります。将来的には,人手に頼らない点検,遠隔でこれらハードの点検ができるシステム開発が求められていくでしょう。いま思いついただけでも画像処理技術を使った建物の経年劣化予測や,ドローンを使った外壁の点検とそのデータを解析して建物の状況を把握するような技術などが考えられます。少子高齢化が進む中で,われわれの関わる消防設備業界でも当然,職人さんの高齢化対策は避けて通れませんから。そのため研究者の方々と事業家が交わる機会が増えると,掛け算で良い結果が生まれるに違いありません。例えば,技術単体ではなく,それを用いた応用事例をより多く挙げてもらうことで,事業に応用できる可能性が見えてくるでしょう。
今まで私たちはこの業界をよりよくするためにデジタル技術を活用してきました。今後もより発展させるため,みなさまの持つテクノロジーとのコラボレーションは,近い将来必要になると思います。
以上
都築 啓一(つづき けいいち)氏 ご経歴
学生時代にバックパッカーとして世界を旅した後,飲食店を開業。その後大学を中退して飲食店の店舗を経営していた際に東日本大震災が発生し,復興支援ボランティアとして活動する。この時の経験をもとに太陽光発電や福祉関係の企業を起業する。その後消防業界に注目し,この業界のデジタル化の必要性を感じて2018年にスマテンを設立。