セミナーレポート
誰にでも分かる,サービス現場でのユーザー特性の画像センシング技術 ~ユーザーの体形,運動,行動センシング~産業技術総合研究所 持丸 正明
本記事は、画像センシング展2011にて開催された特別招待講演を記事化したものになります。
「使用価値」の時代へ
わたしは,ものづくりは今,大きな岐路にあると思っています。今まで皆さんが開発してきた製品は多機能で高性能なことがセールスポイントで,お客さんはそれを手にするのがうれしいといった「性能価値時代」といえるのではないでしょうか(図14)。しかし,次第にお客さんは,「○○GHzのコンピューターを使っているにもかかわらず,キーボード入力が遅い」などと不満を漏らし始めます。そういうお客さんの反応に最初に気が付くのは,それを売っているお店です。そうすると,大手電気店や量販店がプライベートブランドを企画します。一方,メーカーはただの下請けになってしまいます。そのうち,「中国製品の方が安いね」などと言われて,ひたすら価格競争に巻き込まれていきます。これが「交換価値時代」です。「価値はお金で交換する瞬間に決まる」という時代です。 しかし,製品の価値は,製品を使った場面で生まれて来るものです。この「使った」という情報は,大手電気店や量販店でも知りません。一番知っているのは誰か――それは,プリンターであり,靴であり,コンピューターなど製品そのものです。だから,そこから情報を集めれば良いわけです。それらの情報を,顧客にサービスとして提供する形でメーカーが集めることができ,集めたデータを一般化・モデル化・カテゴリー化することができれば,それに対応した物を作ることができます。これが「使用価値」です。これからはそうした使用価値の時代になると考えています。そのためにセンサーは,研究室から店舗へ,そして生活現場へ入っていかなければなりません。生活現場や店舗へ入るために,皆さんはセンサー技術だけではなくて,そのセンサーがどういうデータを集め,どうやってコンテンツ化して,どういうサービスをお客さんに提供できるかという枠組みも一緒に考えなくてはいけません。こうすることによって,センサーの数はたくさん出ますし,さらにコンテンツも手に入れることができるので,これはものすごい競争力になるということです。
われわれのデジタルヒューマン研究というのは,まさしくこのシナリオに乗って進めています。製品やサービスを通じてお客さんの体の特性や生活行動を取り,それをデータバンクに集めてコンテンツ化します。コンテンツ化するということは,個人向けの情報として利用できるだけでなく,統計処理によって一般化して,個人情報を外して再利用できるということです。そして,それらによって新しい製品やサービスを作ります。あるいは,先ほどの日本ユニシスのシステムやコナミのトレッドミルのシステムのように,デジタルヒューマンモデルそのものがサービスの中に組み込まれる場合もあります。それ自身がセンシングをもっと簡単にしたり,もっと新しいサービスを提供するような枠組みを作り,持続的にデータが集まってモデルが更新されていくサイクルを生み出したいと思っています。
まだわれわれは実際の生活にまで十分に入り切っていませんが,これから実施していくモデルと皆さんが作り出すセンサーが,店舗から,そして,日常生活へ入っていくことでしょう。そこで,お客さんの同意を得てサービスを提供しながら,価値につながって,生活が向上していくサイクルが必ずできると考えています。
以上,ご静聴,どうもありがとうございました。
産業技術総合研究所 持丸 正明