セミナーレポート
断層撮影にとどまらず,機能や動態が把握可能に藤田保健衛生大学 片田 和広
本記事は、画像センシング展2012にて開催された特別招待講演を記事化したものになります。
1回転0.35秒の320列面検出器CTを開発,利用が拡大
一方,被ばく量を減らすために,従来中心的に取り組まれていたのは検査時間短縮でした。しかし,キセノン検出器から固定検出器への切り替え,回路系のノイズ低減,AEC(自動出力コントロール),オーバーレンジ対策などの被ばく低減技術の採用によって,現在では被ばく量は1980年代の4分の1に減りました。ただし,画像枚数の増加や他のX線検査法の置き換えで,CTの利用機会が増えたことから,さらなる被ばく量低減が求められています。そこで,モデルベース逐次近似法の採用により,今までの半分から4分の1になり,5年後には後で述べるフォトンカウンティングで,さらに10分の1になると期待されています。逐次近似法では,先にある断面像を仮定し,それを線積分することで,仮の投影を得て,実際の投影と比較します。その結果を逆投影し,仮定した断面像を修正,それを繰り返すことで,真の解(原画像)に近づけていきます。その上で,さまざまなモデルを使って精度をさらに上げるのがモデルベース逐次近似法です。この方法の問題点はモデルを入れることで,計算量が激増することで,どこまでモデルを入れるかが課題ですが,コンピューターの性能が向上すれば,被ばく量はさらに減る可能性があります。また,CTは物質の内部が見えるので,当初から産業・学術領域での利用が進んでいました。X線を情報キャリアとした非破壊検査,アルミ合金,プラスチック,カーボン,セラミックスなど非鉄素材の内部欠陥の発見,試作段階の試行錯誤サイクルの短縮,ミイラの内部検査など幅広い分野で使われています。
CTについて,「これだけ画像を撮れるのであれば,もう十分ではないか」という意見が医師の間でもありました。しかし,まだ十分ではありません。写真では顔全体が一度に撮れるのは当たり前ですが,今までのCTは一度に3-4センチ幅でしか撮れません。仕方がないので,ヘリカルスキャンでは補充再構成のアルゴリズムによって,ひとつの画像にしていました。しかし,何秒間もじっとしていないと3-4センチごとにずれてしまい,全く使えません。そこで,ずれが生じないように,1回転だけで撮れるようにしようと,1997年,面検出器CTの開発が始まりました。それが完成し,2007年には320列面検出器CT「東芝Aquilion ONE」市販1号機が藤田保健衛生大学に導入され,1回転0.35秒で16cm幅の撮影ができ,脳や心臓などを一度に検査できるようになりました。
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藤田保健衛生大学 片田 和広
1972年大阪医科大学卒業,名古屋市立大学第二外科,名古屋保健衛生大学脳神経外科を経て,1985年藤田保健衛生大学医学部放射線医学教室助教授,1987年同大衛生学部診療放射線技術学科教授。2001年4月より同大医学部放射線医学教室教授。1975年に国産第1号CTの導入をきっかけとして,現在までCTの開発に従事。専門分野は神経放射線学。ヘリカルスキャンの実用化により日経BP技術賞(1992年),通商産業大臣賞(1993年)受賞。