セミナーレポート
医用画像処理の現在と未来 診断治療を支える画像処理技術名古屋大学 森 健策
本記事は、画像センシング展2015にて開催された誰にでもわかる特別講演を記事化したものになります。
機械学習がどのように医療分野に生かされるか
最近,3Dプリンターが話題になっていますが,手術の場に3Dプリンターで作った臓器モデルを持ち込み,医師の手術を支援していくという研究を続けています。3Dプリンターで臓器モデルを作るときには画像処理が必要になってきます。私たちは,1991年から病院で撮られるCTやMRIの画像処理に携わってきました。当時はCTの画像からがん部分を見つけ出すという研究をしていました。CTの画像をたくさん撮れば,体の中の三次元的な構築がわかります。内視鏡を仮想的に実現する仮想内視鏡により早期胃がんの診断をするという研究にも携わってきました。最近は,マイクロメーターオーダーのCT画像が撮れるマイクロCTにより,例えば肺の場合,通常の内視鏡では不可能な一つひとつの肺胞の中まで入り込んだ形で見られるというシミュレーションが可能になっています。こうした可視化の他に,私たちが取り組んでいるのが画像認識です。特に,機械学習や人工知能などを利用し,どのようにCTの画像などを認識していくか。90年代から機械学習の研究を進めてきました。今日は,機械学習がどのように医療分野に生かされるか。医療画像を用いた外科支援を例として考えていきたいと思います。
外科医師は,腹腔鏡で撮影された画像を見ながら手術をしていきます。しかし,画像だけ見ても何が見えているのか良くわかりません。カーナビを例にすれば,航空写真を見ているようなものです。航空写真では建物の名前も道路の名前も書いてありません。構造情報がまったくないのです。CTの写真も同様です。内視鏡画像にどんな動脈や静脈が映っているのかを自動的に認識できて初めて真の理解につながります。単なるモノクロ写真のCT画像から解剖の本に載っている解剖図のようなところまで,自動認識ができるかというのが課題となってきます。
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名古屋大学 森 健策
1996年9月 名古屋大学大学院工学研究科情報工学専攻博士課程後期課程進学。1996年10月 日本学術振興会特別研究員(PD)。1997年4月 名古屋大学大学院工学研究科計算理工学専攻助手。 2001年4月 名古屋大学大学院情報科学研究科メディア科学専攻助教授。平成2001年8月 アメリカ合衆国スタンフォード大学医学部脳神経外科客員助教授。2009年10月 名古屋大学・情報連携統括本部・情報戦略室教授。