セミナーレポート

脳と人工知能理化学研究所 栄誉研究員 甘利 俊一

本記事は、画像センシング展2018にて開催された招待講演を記事化したものになります。

日本の人工知能の進むべき道

 私は数理科学が専門ですが,数理脳科学を探求してきています。脳の素晴らしい仕組みを数理の力で解明したいのです。脳は基本原理をどう実現したのか。進化によるランダムサーチを行い,突然変異でその原理を実現するような構造を見つけた種が栄え,できなかったものは滅びました。そのときに,古いものはそのまま保存し,改良すると同時に,新しいものを付け加えていきました。これを繰り返してきたのです。脳は設計としてみるとごちゃごちゃしているのですが,その中に非常にうまい原理を巧妙に取り込んでいます。数理の単純な基本モデルをもとに,どう情報処理ができるかを明らかにして,それを積み重ね,その立場から本物の脳を調べていくようなやり方が有力なのではないかというのが,私の主張です。人工知能は,同じ原理を脳とは違う仕方で実現すればいいのです。ここに,脳と人工知能との接点が出てくるわけです。
 心を持ったロボットは作れるのでしょうか。人の心の動きを理解し,ロボットが心を持つように見えても,それは心を持っていることとは違います。われわれの心は種の保存の必要からできてきたものですから,非常に不条理なものです。喜んだり,悲しんだり,恋愛などで悩んだりして,ただ一度のかけがえのない人生を送っています。しかし,ロボットは,心は理解しても,心の故に不条理の振る舞いをするということはありえません。理性的,論理的に振る舞えばいいからです。
 人工知能が社会に定着していくに際して,人工知能は安全なのか,人間を支配しないか,暴走しないかと,いろいろなことが言われています。また,人工知能に仕事を奪われるという失業問題や格差の拡大をどう防ぐのかといった社会への影響も考えていく必要があります。われわれに求められているのは,将来どういう社会を築いていくのかということです。文明は脆弱です。日本の進むべき道は,超大国ではありません。物量作戦では中国には勝てません。文化的で人々に尊敬される文化国家です。それをどのように築いていくべきかです。これからの人工知能と社会のあり方を考えていくことが重要になっているのです。

理化学研究所 栄誉研究員 甘利 俊一

数理工学を専攻する研究者である。情報幾何など,情報の数理を扱う数学理論を提唱する一方,脳の仕組みを数理の立場で明らかにする,数理脳科学の建設に励んでいる。東京大学工学部,同大学院で数理工学を専攻,九州大学助教授,東京大学助教授,教授を経て,現在同名誉教授。理化学研究所の脳科学総合研究センターのセンター長を5年間勤め,現在は理化学研究所の栄誉研究員。電子情報通信学会会長,国際神経回路網学会会長などを務め,文化功労者,日本学士院賞,IEEEピオーレ賞,神経回路網パイオニア賞,Gabor賞など多数を受賞。囲碁6段,テニスやスキーを楽しむ。日本棋院の囲碁大使。

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