セミナーレポート

国際画像セミナー特別招待講演 「高速画像処理とその応用」を聞いて東京大学 石川 正俊, 他

本記事は、国際画像機器展2010にて開催された【特別企画】 最新画像処理 鼎談を記事化したものになります。

ロボットは絶対座標で動かさない

北川:石川先生のご講演を聴いて,まず,高速画像処理にアクチュエーターがついていかなければならないと感じました。しかし,速いものが市販にないような気がします。速いアクチュエーターを作るのも先生の研究テーマのうちですか?

石川:1/1000秒の画像処理に対してアクチュエーターの動きは確かに遅過ぎました。ビジュアルフィードバックをかけた場合,ギアのバックラッシュ(注1)機械要素で運動方向に意図的に設けられた隙間のこと。この隙間によって歯車などは自由に動けるが,一方で逆方向の動きでは位置ズレや衝撃が起こる場合がある。により同じ位置に戻らなかったり,超音波モーターなどでは脱調(注2)ステッピングモーターでは,急激な速度変化やモーターに対する過負荷によって,入力パルス信号とモーター回転の同期が失われる場合がある。こうした現象を「脱調」と呼ぶ。が起きたりしました。ダメなモーターを落としていくと,最後には数種類しか残りません。そこで,開発のためにモーターの会社の人に来てもらって,ロボットのモーターは定常回転で利用しないことや,急に動かす力が必要であることなどを説明しました。また,定常回転を考慮した熱設計もやめて欲しいとお願いしました。少し太い導線を使って,突入電流を上げられるようにして欲しいと。あるところまで行ったら溶けるモーターで構わないと言ったのです。だから,うちのハンドは1時間動かし続けるとモーターが溶けてしまいます(笑)。ただ,その結果,重量あたりのトルクは世界最大のものができました。
 うちの研究室では,世の中に良いものがあれば使い,無ければ作るという姿勢です。案外,無いものが多いのですが。

北川:一番最初に先生の研究室に行ったとき,あれだけの加速度を持つアクチュエーターが大変珍らしく,あれこれ見せていただきましたね。現在のモーターは何を使っているのですか?

石川:DCおよびACサーボモーターです。それとバックラッシュ無しのギアとしてハーモニックドライブ。これらの組み合わせしか今は考えられません。

北川:エンコーダー付きでフィードバックができる使い方ですか?

石川:それは良いご質問です。エンコーダーでフィードバックできますし,ビジョンによる直接フィードバックもできます。さらに,それらの二重フィードバックも可能です。また,動作のモニターとしてもエンコーダーが必要です。小型のエンコーダーと,小型のハーモニックドライブ,高出力のアクチュエーター,これらは,われわれがスペックを出して作ってもらったものです。
 ビジュアルフィードバックに関する北川さんのご指摘は,非常に良いポイントを突いていらっしゃる。エンコーダーを用いた位置フィードバック,すなわちロボットの指の位置フィードバックそのものには問題ありません。しかし,相手がいるとなると,相手と自分の位置関係はロボット自身のセンサーでは分かりません。位置フィードバックで用いる位置情報と画像センサーの間に矛盾が生じてしまいます。われわれの研究室では,可能であればロボットを絶対座標系で動かさない方向で考えています。指先の位置の絶対座標精度はエンコーダーの方が高いので,外側のカメラで絶対座標――ワールド座標系のどこにあるか――を求めようとすると,校正が必要になってしまいます。

北川:カスケード制御みたいなことが必要になるわけですね。

石川:それをやっちゃうと,ワールド座標系とカメラ座標系,エンコーダ座標系が全部ズレていますので,ズレをどこかで吸収しなければならなくなります。ところが,カメラによって対象と指の位置関係がすでに分かっていますから,相対座標系で制御すれば,その心配がなくなります。
 そのときの制御の難しさは,相対座標系ではヤコビアンの正確な値が出てこないところです。ところが,ヤコビアンというのはPID制御のパラメーターみたいなものですから,多少ズレていてもどうにかなります。つまり,収束先はピッタリ合うので「これでどうにかしませんか」というのが,今の画像処理を入れたときの特別な扱いですね。

北川:外部のカメラによって指と物体の両方が見えるときは問題ありません。バッティングロボットの場合は,そういう意味で状況が違いますよね? アクチュエーターだけで動かしているのですか?

石川:バッティングロボットにおけるボールの位置は絶対座標系でやってます。

北川:テーマによって制御を変えているわけですか?

石川:「制御を変える」というよりも「切り分けている」と言った方が良さそうです。グローバルに全体を見ているときは絶対座標系で誤差があっても構わない。その方が処理が楽ですから。しかし,ボールが近づいてきて相対関係が重要になったら,相対座標系に切り替えます。見える範囲を狭くして相対関係を重視しているわけです。
 途中は多少ズレていても,どうせ収束先は合っているので,収束先の近傍だけ相対座標系でやるのが良いのです。こういう考え方がロボットの視覚制御の基本的な構成にならないかと,現在考えている最中です。

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東京大学 石川 正俊, 他

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