セミナーレポート
自動運転をめぐる法整備の最新動向明治大学専門職大学院法務研究科 自動運転社会総合研究所所長 中山 幸二
本記事は、国際画像機器展2018にて開催された特別招待講演を記事化したものになります。
現行法の体系
自動車の運転と交通に関わる現行法の構造として,道路交通に関する主な現行法の規律としては,道路の構造を定めている「道路法」があります。そして,自動運転と最も絡むのが「道路交通法」です。自動車の定義と種類,車両と歩行者の交通方法,運転者の義務,運転免許,罰則などを定めています。自動運転の技術に絡むのが「道路運送車両法」です。道路運送車両の保安基準などが定められており,この基準に適合しない車両は市場に出すことができません。さらに,無人タクシーの場合,新しい旅客運送業になることから「道路運送法」が関わってきます。一方で,交通事故が起きた場合に誰が責任を負うのかという問題があります。交通事故に関する法的責任には,刑事責任と民事責任があります。刑事責任は刑事法の適用で,刑罰(懲役・罰金)が科せられます。民事責任は民事法で損害賠償が課せられ,民法や自動車損害賠償保障法,国家賠償法など多くの法律があり,多重的に責任を負う構造になっています。自動運転ではこれまで人間が行っていた認知,判断,操作をシステムが行うようになります。工学的には,ドライバー主権(責任)から,システム主権(責任)へと移行すると考えられています。道路交通に関する法規制や,交通事故をめぐる法的責任については,検討,見直しが必要になってきます。
私は2015年に未来の法の試案を発表しました。法律上の人格=法的責任主体として,民事法上の自然人や法人に加え,人工的な第3の責任主体があってもいいのではないかというロボット法学の生成の考え方です。自動運転車を認可登録し,責任財産を設定し,事故が起きたときは責任財産から賠償します。最近,法哲学の世界では,ロボット・AIに法的主体性・人格を認める議論が盛んになっています。また,刑法学の世界でも,ロボットの処罰可能性を巡る議論や答責性についての議論が盛んになり,これを認める積極説から消極説,さらには中間説まで出てきています。中間説では,私と同じような電子的人格概念を導入するという意見も発表されています。
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明治大学専門職大学院法務研究科 自動運転社会総合研究所所長 中山 幸二
1979年 早稲田大学法学部卒・1986年同大学院法学研究科博士課程単位取得満期退学 1986年 神奈川大学法学部専任講師,助教授,教授を経て,明治大学法学部教授 2004年より大学院法務研究科専任教授(現在に至る)日本民事訴訟法学会理事,仲裁ADR法学会理事・事務局長,法科大学院協会事務局長を歴任