セミナーレポート
遠赤外線カメラと可視カメラを利用した悪条件下における画像取得産業技術総合研究所 東京工業大学 田中 正行
本記事は、国際画像機器展2018にて開催された特別招待講演を記事化したものになります。
勾配ベース画像合成
最後に,一般的な画像処理の話として,画像合成するときに使える技術を紹介します。画像を合成するときの技術にはいろいろなものがありますが,ここでは勾配に基づく処理について説明します。勾配というのはいわゆる微分情報です。微分情報に基づいて処理をすることによって2つの画像を滑らかに合成することができます。また,人間は画素値よりも微分で認識していることが知られています。したがって,画像の微分値を保存するように画像合成することによって,人にとって理解しやすいものになるのではないかというアイデアになっています。例えば,暗いところを走ってきた車の横に人がいる画像があります。テクスチャー画像は可視画像からしか得られないのでテクスチャーは残しますが,走ってきたタイヤや人は温度があるので,そこは遠赤外線画像から持ってきます。これらを微分に基づいて処理をすると,車も人も認識できる合成画像ができます。また,人の顔の入力画像の場合,ここに単純に別の目を重ね合わせると違和感が出ます。しかし,微分を保存する勾配ベース処理で合成すると,自然な感じで見えるようになります。
勾配ベース処理の基本的なフローとしては,入力画像に対してまず勾配抽出(微分)し,勾配操作(マニピュレーション)を再構成(積分)します。そして,画像値調整(後処理)をし,出力画像にします。しかし,画素値の範囲は積分するまでわかりませんので,画素値が0-255の範囲を超えるといったことや,階調が不足したり白飛びしたりするなどのサチュレーションが起こることがあります。そこで,われわれは微分を保存し,かつ値域に収まるような画像を出力する近接勾配法で最適化する手法を提案しています。
われわれの開発したソフトウェアでは,エッジの大きさを強調することもできますし,勾配が小さいときにはゼロにすると,顔の肌をつやつやにすることができます。また,暗いところの微分を明るくする処理をすることで,暗部補正もできます。さらに,クリッピングやサチュレーションされないようにすることもできるようになっています。
産業技術総合研究所 東京工業大学 田中 正行
2003年 東京工業大学博士課程修了 2003年-2004年 アジレント・テクノロジー株式会社 2004年-2008年 東京工業大学研究員 2008年-2017年 東京工業大学准教授 2013年-2014年 スタンフォード大学客員研究員 2017年-現在 産業技術総合研究所主任研究員