セミナーレポート
生体視覚神経系に学んだロボットビジョン開発大阪工業大学 情報科学部 奥野 弘嗣
本記事は、国際画像機器展2019にて開催された特別招待講演を記事化したものになります。
網膜の処理を模擬した3つのシステム
これまで私が開発してきたシステムを紹介します。1つめは「外網膜神経回路網を模擬した情報処理」です。網膜には,光を電気に変える視細胞があり,その後段に局所平均を行う水平細胞があります。そして,視細胞と水平細胞の引き算を取る双極細胞があります。これらを模擬し,まずノイズ除去を行い,引き算を行い,輪郭強調を行います。神経の入力の3つの段階で様々な機能が実装されており,一般的な画像処理の前処理としても便利に使えます。単一のピクセルだけで,輪郭抽出や動き抽出,動き方向などの抽出が簡単にできるようになります。2つめは「明るさ・色恒常性をもった網膜模倣イメージセンサーシステム」です。従来の画像処理システムは,照明の強度や色の影響を大きく受けます。例えば,照明の強度の差がある屋内と屋外の両方を同時に撮影すると,屋内の人の顔が暗くなってしまいます。しかし,自分の目で見るときはそんなことが起きません。このような利点をもった生体視覚系に学んで,明るさ・色恒常性をもったシステムを実現しました。実験では,いろいろな色の物体と,色恒常性をもったイメージセンサー,様々な色の照明ができるLED照明を用いました。その結果,色恒常性があるセンサーの出力は,照明の影響を除去できていることがわかりました。
3つめは,「昆虫視覚系の運動検出モデルに学んだ小型自律飛行体のための自己運動推定システム」です。飛行を行う昆虫は,視野全体における視覚情報の流れ(オプティカル・フロー:OF)を用いて自己運動や周囲情報を把握しています。このOFの取得方法や利用方法を昆虫の神経系から学びドローンに実装しました。入力画像に対して時空間バンドパスフィルターを適用した出力が,画像中でどの程度動いたかを検出することで,簡便に画像中の像の速度を求めます。コンクリート瓦礫中の飛行を模擬した環境における実験により,本システムが自己運動を正しく検知できる結果が得られました。
脳までいかずとも,網膜の処理を模擬するだけで十分に実用的なシステムを作ることができるのです。
大阪工業大学 情報科学部 奥野 弘嗣
2001年 大阪大学工学部を卒業。2003年 同大学大学院工学研究科を修了。関西電力株式会社にて工事設計等に従事した後,2005年 大阪大学大学院工学研究科電気電子情報工学専攻,博士後期課程に入学。2008年 同課程を修了。同年より大阪大学大学院工学研究科,助教として,視覚神経系に学んだ視覚情報処理システムの開発等に従事。2016年より大阪工業大学情報科学部,特任講師として,2018年より同学部,講師として,引き続き同分野の研究を進めている。2013年 日本神経回路学会優秀研究賞受賞。2019年 日本ロボット学会賞受賞。