画像センシングの最前線
ドローンのビジネス活用に関する展望小林啓倫
3. ドローン1兆円市場へ向けて
ではドローン市場が順調に飛び立ち、数兆円もの規模に達するためには、どのような課題をクリアしなければならないのだろうか。 ドローンを業務で活用する際に、最終的な価値を生み出すまでに必要なステップを「企画」「準備」「運用」「後処理」の4段階に分け、それぞれの内容を考えてみよう(図2参照)。 まず「企画」だが、これはドローン活用の全体像を描くステップだ。簡単に思えるかもしれないが、ドローンをビジネスに用いる上での「ベストプラクティス」的なノウハウはまだ存在しないため、すべてを一から検討しなければならない。また最近ドローンをめぐる事故が相次いだことで、関連法規の見直しが相次いでおり、いま何が可能か・将来何が許可されるかを見極めるのにも時間がかかる。場合によっては関連省庁との交渉も必要になるだろう。こうした負担を解消するには、早期のルール明確化と、事業者を支援するコンサルティングサービスの普及が求められる。 次に「準備」は、機体やパイロットなど、実際の運用開始に向けて必要な要素を揃えるステップになる。これも単純にパーツを集めるだけで十分に思われるかもしれないが、続く運用のステップで安全を保つためには、機体の整備やパイロット育成など配慮すべき課題が多い。また発展途上にあるドローン活用では、機体や関連部品を個別に開発しなければならない場合もある。したがって自動車と同じように、整備や修理を担当する事業者や、「教習所」のようなサービス、あるいは機体開発の際にテストフライトが行える「試験飛行場」のような施設の登場が期待されている。 必要な機材と人員が揃ったら、いよいよ「運用」だ。ドローンとパイロットがいれば必要最低限のことはできるが、安全と効率を保つためには、支援システムがあることが望ましい。実際に研究の最前線では、1人のパイロットが複数のドローンを同時に操作することや、全自動で飛行ルートを設定してドローンを制御することを可能にするプラットフォームが開発されている。また複数の事業者が同じ空域でドローンを飛ばすような事態になっても、関係者間を調整して空の混雑を回避するような、「ドローン用航空管制システム」を整備することも検討されている。こうしたインフラが整うまでには時間が必要だが、整備されればドローンのビジネス活用に向け大きな追い風となるだろう。 最後は「後処理」である。これは先ほど述べたような、ドローンが行った行為に付加価値をつける(集めたデータを加工して望ましい情報にするなど)ステップだ。ドローンの運用そのものには直接関係しないが、ここでどのような価値が生み出せるかによって、ドローンを活用するサービスへの需要が大きく左右される。逆にこのステップに特化して、ドローンは市販の汎用機で済ませたり、あるいはドローン運用を他の業者に委託したりという動きまで見られる。これから最も高度化や発展が見込まれる分野だ。 このように業務でドローンが日常的に使われるようになるには、機体とパイロットだけでなく、それを補うさまざまな要素が必要になる。そうした補完する製品やサービス自体が、大きなビジネスへと発展することも考えられるだろう。実際に米国の業界団体であるAUVSI(国際無人機協会)では、こうした派生サービスによるドローンの「経済効果」を、2015年から25年までの累計で820億ドル(約10兆円)と見積もっている。ここまで視野を広げれば、ドローン・ビジネスに賭けてみるというのも決して悪くない選択だ。 ライト兄弟がライトフライヤー号の初飛行に成功したのは1903年だったが、現在も運航を続けているような主要航空会社が登場を始めたのは、1920年代に入ってからのことだ。そして2013年の時点で、全世界での航空運送事業者の売上高は年間60兆円にまで達している(IATAの調べによる)。ドローンのビジネス活用が模索され始めたのはここ10年ほどで、まだまだ未開拓の領域が大きい。市場が見えないのはリスクではなく、逆に開拓のチャンスであると捉えるフロンティア精神を持つ人々にとっては、ドローン・ビジネスは挑戦しがいのある世界となるだろう。 (以上)小林啓倫
株式会社日立コンサルティング シニアコンサルタント。1973年東京生まれ。筑波大学大学院修了後、国内システムエンジニアリング企業にてITコンサルタントとしてキャリアを積む。米バブソン大学にてMBAを取得後、外資系コンサルティング企業、国内ベンチャー企業を経て、2005年から現職。著書に『ドローン・ビジネスの衝撃』(朝日新聞出版)、『今こそ読みたいマクルーハン』(マイナビ出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(草思社)、『データ・アナリティクス3.0』(日経BP)など多数。