OplusE 2012年5月号(第390号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
LED照明
- ■総論
- 産業技術総合研究所(元東芝・元東海大学) 後藤顕也
- ■白色LED用新規セラミック蛍光体
- 京都大学 田部 勢津久
- ■シミュレーションソフトによる照明光学系の最適設計
- サイバネットシステム 杉山 晃
- ■建築計画におけるLED照明による快適性向上と低炭素化
- 三菱地所設計 佐々木 邦治
- ■LED化照明の趣旨と導入例
- 日建設計 海宝 幸一
- ■電球形LEDランプの上手な選び方
- 日本電球工業会 川上 幸二
- ■照明用白色LEDに関連するJIS規格
- O plus E 編集部
連載
- ■【一枚の写真】パルスレーザーを使って機能性高分子ナノワイヤーの作製が可能に
- 物質・材料研究機構 後藤 真宏,佐々木 道子,笠原 章,知京 豊裕,土佐 正弘
- ■【私の発言】パーソナルブランドを磨こう!
- シグマ光機 森 昤二
- ■【第10・光の鉛筆】5 Toraldo di Franciaの超解像2 Woodward とLawson の方法
- 鶴田 匡夫
- ■【波動光学の風景】第82回 84.厚いホログラム
- 東芝 本宮 佳典
- ■【コンピュータイメージフロンティア VFX 映画時評】
- Dr.SPIDER
- ■【研究所シリーズ】産業技術総合研究所 グラフェン加工技術へのフェムト秒レーザー応用―シミュレーションからの探索―
- ナノシステム研究部門 宮本 良之
- ■【ホビーハウス】万華鏡としかけ絵本
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
LED照明産業技術総合研究所(元東芝・元東海大学) 後藤 顕也
家庭,商店,展示物等に使われている白熱電球,蛍光灯,高輝度水銀ランプ等の光源を置き換えるなどにより,LED照明は最近急速に普及してきています。しかし,LED 光源はこれまでの光源とは特性が異なるため,照明の効率を上げたり,照射ムラを減らしたりするには,LEDに適した照明用光学設計が必要です。本特集では高効率白色LED 用セラミック材料技術,光学設計ソフト,建築室内への照明応用,東京スカイツリー等建築外部照明への高度な制御技術,電球形LEDランプの上手な選び方を,それぞれに各界の権威/専門家に執筆していただきました。また,照明用白色LEDに関連するJIS 規格の最新情報も紹介しています。LED 照明に関心のある読者のご参考になるであろうと確信しています。LED 照明の特徴は,①省資源性(白熱電球の1/10,蛍光灯の1/2),②演色性/無有害性(人間の視感度に近い波長範囲の色を出せる,紫外線・赤外線を含まない発光であり有害な水銀を用いていない),③省スペース性(超小型),④制御性(LED 光源は高度な制御があってこそ,その有利性が発揮される),⑤長寿命性(従来の電球の20 倍以上)にあります。
LEDによる白色光の作り方には大きく分けて3 種類あります。1つは,青色LEDチップの光を蛍光体材料に当てて黄色の光を出力し,青色と黄色の混色で白色光を作り出すもの。もう1つは,近紫外LEDチップが出す光を複数の蛍光体材料に当てて混色するもの。最後の1つは,R( 赤色),G(緑色),B(青色)の各LEDを同時に光らせ,混色するものです。赤色LEDと青色LEDが大出力で実現されていますが,残念ながら,大出力の緑色LEDはまだ実現されていません。そこで,現在では,青紫色LED光や近紫外光で発光するLED光を用いて1種,2 種,3 種の蛍光体を励起することにより,白色発光を実現する方法が採用されています。すなわち,RGB3 色LED 方式を除いて考えても,1 個の青色LEDや近紫外LEDによる3 種類の蛍光体励起方式があります。
2005 年以前の白色LEDは発光効率が低かったために消費電力が大となる上に,1 個から得られる光束が少ないので照明機器や器具が大きくなりがちでした。そのために,蛍光灯搭載品を中心とした照明機器/器具市場を切り崩すことはできなかったようです。そこで,白色LEDメーカーは,携帯電話機のバックライト光源などに向けた小出力品の開発を先行させていたようです。しかし,2005 年に入って,発光効率が60lm/Wを超える白色LEDが登場し,2008~2009 年ごろから,発光効率が80lm/W 超や100lm/Wを超える白色LEDが続々と登場しました。その結果,実用時における光の利用効率が一部の蛍光灯の利用効率を上回ってきました。これにより,照明向け白色LEDの実用可能性が一気に高まってきています。それに,明るさ当たりの単価は年々安くなってきています。例えば光束1lmを得るための光源の値段を蛍光灯と比較すると,2005 年の段階でも白色LEDは約100 倍も高かったのですが,LEDメーカーの生産設備の拡充や歩留まりの向上によって,明るさ当たりの単価で蛍光灯の2 倍以内に収まるようになったようです。
図1は日亜化学工業(株)における量産品白色LEDの発光効率の推移(パルス発光の製品を含む)です。同社のデータを基に日経エレクトロニクス誌が作成したものです。 最高クラスの演色性を追求しないのであれば,青色LED 光をCe3+: YAG 蛍光体一種類にだけ照射して得られる黄色の蛍光色と元の青色LED 光の混合だけでも,白色を実現できます。また,青色LEDに緑や赤といった2種類の蛍光体を組み合わせる方式や,近紫外のLED 励起で青・黄・赤といった3 種の蛍光体を用いるというような複数蛍光体組み合わせ方式が,より進んでいます。中でも,460nm 光を希土類の5d → 4f 遷移を応用して黄色や緑赤色に変換する蛍光体との組み合わせが,現状で考えられる理想の組み合わせであると言うことができます。換言すれば,このうちの主流は,上に述べたように,青色LEDチップを利用する白色LEDですが,蛍光体材料には,黄色蛍光体を使うもの,黄色蛍光体に赤色蛍光体を加えたもの,緑色蛍光体と赤色蛍光体を組み合わせたものなどを使うものであると理解することができます。
黄色蛍光体を使う場合,青色光の一部が蛍光体に当たって黄色の光を出力し,青色と黄色の混色で白色光を作り出します。この場合,赤色の光が弱いため疑似的な白色光となり,色温度も高いために青白い光(色温度が高い光)になります。この課題解決は,赤色蛍光体も利用することで軽減できます。さらに赤色蛍光体の発光をより強めると,白熱電球に近い光となります(電球色LED)。近紫外LEDチップを利用する白色LEDは,発光スペクトルを自然光に近づけやすくできるようです。
LED 照明の大きな特徴の1つが,熱成分の赤外や人間の目や肌に有害な紫外光の成分を含まない光スペクトルの設計が可能であるという点であります1)。「明るく照らすだけの照明はもう要らない,2012/03/30 大久保聡=日経エレクトロニクス」から引用させていただくと,「3 月6~9 日の4 日間,東京ビッグサイトでLED 照明の展示会『LED Next Stage 2012』が開催され,LED照明関連満載の展示ならびに,国内外の企業が所狭しと新製品を並べ,新提案を披露していました。今,LED電球のみならず,天井灯に使うLEDシーリングライトが飛ぶように売れているなど,LED 照明普及の勢いは弱まる気配がありません。ほんの数年前まで,LED 照明は明るさを何とか稼ぎ出して“ 照明になろう”と必死だったことを考えると,隔世の感があります」2)ということです。
一方,現状の白色LEDは粉末蛍光体をエポキシ等の有機樹脂に分散しているため,200℃に達する高出力青色LEDチップ近傍の劣化や輝度低下が避けられないと言われます。そこで,京都大学の田部勢津久先生に,高効率で,かつ,長寿命の白色LED 用新規セラミック蛍光体についてご報告いただきました。
田部先生は,2004 年にYAG 結晶化ガラス(GC)蛍光体を開発され,ガーネット結晶よりも高い量子効率を実現できる結晶の純度を100%としたのがセラミック蛍光体であることを明言されています。セラミック蛍光体に要求される透光性はYAG;Y3Al5O12などのレーザー用材料に比べるとはるかに低く,むしろ適度な散乱があり,それが白色LEDとしても高効率化に寄与していることが分かってきたそうです。詳しくは本文をご参照ください。
LED 照明にとって次に必要なことは,LED 用途に適合した照明光学設計ではないでしょうか? 光学設計には,シミュレーションソフトが大変有用です。本特集では,「シミュレーションソフトによる照明光学系の最適設計」と題して,サイバネットシステム(株)の杉山晃氏に執筆していただきました。
表面発光LEDではない通常のLEDには球状分布ではなく偏った配光分布特性を持っています。その配光分布を用途に適合するように変換するためには,レンズの使用,リフレクターの形状や位置の決定が必要です。さらに,導光板の一面に配置されるシボやドットのパターンも大事です。本文中では,それらを変更した場合に配光分布や面内での一様性がどのように変化するかをLightToolsで簡単に確認する方法などを解説していただいています。このソフトは米国のOptical ResearchAssociates 社(現Synopsys 社)が開発した照明光学設計用のソフトウエアです。適用例としては,家庭用LED 照明,道路・トンネル照明などの一般照明,バックライト,プロジェクター,自動車(ヘッドランプ,テールランプ,ルームランプ,インパネ)などの設計,迷光やゴースト光の解析などが挙げられます。
照明用LEDの光学特性には,材質と表面特性の2 種類があります。LightToolsにはLEDライブラリーが添付されていまして,8 社,500 種類以上のLEDモデルが用意されているそうです。ライブラリーに含まれている光源には全光束,配光分布,スペクトル分布が適切に設定されています。ニアフィールドデータをまとめたRadiant Sourceライブラリーを利用したり,光源を実測したりすることでも取得できます。
本文には照度分布と配光分布のシミュレーション結果例も記載されています。受光器フィルターでは,例えば,特定の面に当たった,または当たらなかった光線をフィルタリングすることができます。これにより,特定の面が,どのように結果に影響するのかを簡単に分析できます。その他にも,受光面への入射角度で光線をフィルタリングしたり,入射波長で光線をフィルタリングしたりするなど,合計20 種類のフィルターが用意されていて,これらを組み合わせて使用することができるようです。「シミュレーションの実行」,「結果のフィードバック」,「設計パラメーターの変更」,というサイクルを繰り返す必要がありますが,これに対してはLightToolsの汎用的で強力な最適化機能を利用することで,このサイクルを自動化でき,その結果,開発工数の低減,開発期間の短縮を実現することができるようです。
建築におけるLED 照明を(株)三菱地所設計の佐々木邦治氏に執筆していただきました。建築物における窓は,室内と室外をつないで光や風を取り入れる重要な要素であり,構造計画と併せてどのように開口部を設けるか,そしてそこからいかにして光を取り入れるかが,建築の歴史の上でも重要なテーマの1つであったようです。昼光利用と人工照明の関係,LED 照明を活用して省エネルギーを実現する照明システムの運用実績などはLED 照明をこれから取り入れようとされる方にとって役に立つものと思います。
窓は古代の建築において,唯一の光の導入口でありましたが,近代になり照明・空調の技術が発達し個別に設計が進められるようになっています。そして,これからの時代は再び建築・照明・空調が光と熱と風をキーワードとして連携して環境を形成する時代に入ったのではないかと感じておられるそうで,その中でLED 照明の果たす役割は大きく,今後のさらなる発展に期待したいと思います。
次に,(株)日建設計の海宝幸一氏には,建物と照明の関係から,LEDの特徴を活かした照明の実例を挙げていただきました。多灯化による繊細な展示空間の演出をホキ美術館での例で示しています。また,執務空間におけるタスクアンドアンビエント照明を沖縄科学技術大学院大学での実例で,街灯,水中照明のLED 化の実例を皇居外苑街灯LED 化プロジェクトで,そして,大型投光器による繊細な照明演出の例として,東京スカイツリーライトアップを分かりやすい実例で示しています。カラー写真を多用して各種照明技術を詳しく,かつ,興味深く述べていただいています。
LED 照明の特徴は,「長寿命」,「超小型」,「高い制御性」の3 点のキャッチフレーズに集約できるようです。それぞれの特徴は,単独で,あるいは組み合わされることにより圧倒的なメリットを生み出すようです。超小型であるLED 光源は,これまでの照明器具のスケールと比較してより自由度の高い器具レイアウトが可能であることは大きな特徴でしょう。 家庭用からオフィスビルの基準照明まで,あらゆる分野で既存の照明器具の置き換えが行われています。明るさも,光色も,照度分布すらも自由に制御できる状況が整いつつあるようです。しかし,不足しているのは制御のための理論のようです。これまでの照明設計に用いられていた照度基準では不足と言われています。人間の生理,心理,自然光の変動,空間用途の変化などにきめ細かく対応できる高度な制御システムが必要不可欠と言われています。
照明計画の目的は,必要な場所に,必要な光を,必要なだけ照射する,という行為と言えるようです。つまり,「器具の配置」ではなく,「光の配置」であると言えましょう。LED 光源は長寿命,高効率という特性をもっていますが,これを活かすためには,これまでの照明器具や照明の考え方を見直すことも必要となってくると説いておられます。従来の照明器具がLEDに変わるに当たって,どのようなメリットがあり,それを活かすためには何が必要なのかを,前述のように,実例を交えて解説しています。すでに述べましたように,高い制御性の活用技術が特に重要であるようです。
日本電球工業会の川上幸二氏には,一般照明用電球(白熱電球)を電球形LEDランプに取り換えたときに「暗くなった」,「部屋の雰囲気が変わってしまった」等などの問題も生じているのですが,これは,消費者に電球形LEDランプの性能や特性が十分理解されていないためであると考えられると述べられています。
JIS C 8156によれば,電球形LEDランプの定義は,「E形(E26,E17,E11),B 形およびGX53 口金を備え,LED 単体またはLEDモジュール,およびそれが安定に点灯動作するために必要な付加装置を組み合わせ一体となったもので,機能を損なわずに恒久的に分解できないものということになっているそうです。市販されている代表的な商品を,対応する主な白熱電球との関係から区分され,図示されています。電球形LEDランプの光源色は,JIS Z 9112を準用し,赤みを帯びた電球色から青みを帯びた昼光色までの5つに区分されているようです。電球色は白熱電球に似た光色で,照度が低いときには“ 落ち着き”を,照度が高まるにしたがって“ 活気”から“ 暑苦しい”に変化するようです。昼光色は,逆に照度が低いと“ 陰気”“ 寒々とした” 印象になり,照度が高まるにしたがって“ 開放的な雰囲気”から“さわやかな雰囲気”の感じになるようです。
演色性とは,ランプによって照明されたものの色の再現性を意味しています。“ 基準の光”からどの程度ずれて見えるかで評価されるようです。基準の光として白熱電球を100としています。家庭では,肌色の見え方が健康状態をはかる1つのバロメーターです。また食事などを楽しむ際にも演色性は重要です。一般にはRa ≧ 80の値が推奨されているようです。
明るさは人の感覚量ですが,ランプから放射される全光束(ルーメン:lm)が関係しているといわれています。光束が1.5~2 倍増加すると,人間は1つ明るくなったと感じるようです。 配光とは,地球の中心にランプを置いたときに,緯度・経緯の各方向への光の強さ(光度=光束/立体角)を示したもので,光の広がり具合を表しています。電球形LEDランプの準全般配光は,ランプを垂直に点灯したときに,多くの光が下方向に向かっていて,上方への光は白熱電球や全般配光形よりも少ないことなどがポイントです。
電球形LEDランプは長寿命ではあるものの,寿命とともに光束が低下(一般に寿命末期で初期値の70%)します。また,ほこりやちりなどによっても光束が減少します。明るさを維持し,電力を有効に使うためには,年1 回以上の定期的な清掃を行うことが重要と川上氏は説いています。近年は,節電・省エネルギーを背景にLED 照明が注目を浴びていますが,省エネルギーは,照明の量的な面(全光束,照度,効率など)ばかりでなく,光色,演色性,室の雰囲気などの質的な面を低下・犠牲にすることなく達成されるべきであると川上氏は主張されています。住宅などで電球形LEDランプを使用する際の上手な選び方と使い分け方を解説する際に豊富な添付資料を付けていただきましたので,きっと読者の皆さまにも得るところが大きいものと思われます。
特集の最後に,照明用白色LEDに関するJIS(日本工業規格)の最新動向を紹介します。JISなどの工業規格では,発行される前の60 日間にわたって事前に公表する制度が運用されています。これは,WTO/TBT 協定に基づくものですが,JIS 規格ではこれを管轄する審議会であるJISC(日本工業規格調査会)のWebサイトに掲載されています。また,JIS 規格案に関する情報を表にして添付しています。JIS 規格はメーカーにもユーザーにも有用な情報ですので,活用されることをお勧めしたいと思います。
参考文献
- 日経エレクトロニクス特別編集版:「LEDテクニカルターム2010-2011」,日経BP 社,2010 年5 月発行(2010)
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/WORD/20100722/184375/ - 日経エレクトロニクス(大久保聡):“ 明るく照らすだけの照明はもう要らない”,日経BP 社,「Tech-On!」2012年3月30日掲載(2012)http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20120330/210450/