OplusE 2012年4月号(第389号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
多波光応用技術
- ■総論
- 新潟大学 佐々木 修己
- ■MEMS光学素子を用いた3次元形状計測技術
- 山形県工業技術センター 渡部 善幸,高橋 義行
- ■産業用OCT技術とその応用
- 千葉大学 椎名 達雄
- ■光周波数コムの発生と干渉計測への応用
- 新潟大学*,東京農工大学**,崔 森悦*,柏木 謙**,黒川 隆志**
- ■白色光を用いる波数走査干渉計による薄膜形状計測
- 新潟大学 佐々木 修己
- ■空間的多波光を用いたデジタルホログラフィー
- 京都工芸繊維大学*,久保田ホログラム工房**,神戸大学***,粟辻 安浩*,角江 崇*,田原 樹*,藤井 基史*,夏 鵬*,裏 升吾*,西尾 謙三*,久保田 敏弘*,**,的場 修***
- ■テラヘルツ・カラースキャナー
- 徳島大学 安井 武史
連載
- ■【一枚の写真】生体の複雑な階層構造を模倣したナノシステム材料の可能性
- 産業技術総合研究所 越崎 直人
- ■【私の発言】“汽水”には面白そうなテーマが集まる
- 電気通信大学 武田 光夫
- ■【第10・光の鉛筆】4 Toraldo di Franciaの超解像1 Schelkunoffのアンテナ理論
- 鶴田 匡夫
- ■【波動光学の風景】第81回 83.ホログラム
- 東芝 本宮 佳典
- ■【コンピュータイメージフロンティア VFX 映画時評】
- Dr.SPIDER
- ■【研究所シリーズ】情報通信研究機構 ナノテクノロジーによる光周波数資源の開拓―高精度・波長可変量子ドット光源技術―
- 光ネットワーク研究所 光通信基盤研究室 山本 直克
- ■【ホビーハウス】ステレオ写真の本(94)2012年のカレンダー
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
多波光応用技術新潟大学 工学部電気電子工学科*
埼玉医科大学 保健医療学部医用生体工学科**
佐々木 修己*, 吉澤 徹
光は計測や通信への応用をはじめとして非常に多くの分野で利用されているが,それは光が有する優れた特性に基づいている。そしてこうした特性は光の持ついくつかのパラメーターで示されたり,原理的に解析したりすることができる。初歩的な立場にあっては,まず光の波長(周波数),振幅(強度),位相や偏光性などが挙げられ,例えば干渉現象が論じられたりする。干渉計測に関しても単一波長だけではなく,白色光干渉にみられるような多波長での計測がポピュラーとなっている。このように光のいくつかのパラメーターを組み合わせることによって,それまでの手法における弱点を補ったり,適用範囲を拡大したり,場合によれば新たな技術を生み出したりすることが可能となる。そこで本特集号においては多波長技術に限らず,いくつかの光を組み合わせて利用するという観点から(いささか議論を要する表現ではあろうが),あえて「多波光応用技術」というタイトルの下に最近の研究をまとめることとした。まず,干渉計測に関しては,電子・機械部品の微小化,高密度化に伴い数mmの広い測定範囲にわたってナノオーダの精度でそれらの形状を測定する必要性が高まっており,多くの波長の光を用いる多波長干渉技術の発展が期待されている。最も基本的な多波長干渉法は2つの波長を用いる場合であり,波長による干渉信号の位相の変化を検出することで測定範囲を拡大している。さらに,生体組織やガラス,プラスチック,薄膜などのように複数の反射面を有する物体の形状を測定することも重要となっており,古くからの白色干渉技術が活用されている1)。最近の多波長干渉によってもこれらの物体の形状測定が可能であり,複数の波長の走査方法・信号処理方法の工夫によって特徴ある多波長干渉技術が開発されつつある。近年,特に注目すべき形状測定技術として光コム光源による距離測定があり,従来の干渉信号とは異なり,異なる光周波数間で発生するビート信号を利用する測定法である。距離の測定範囲が5m,測定精度が1μmの測定器が世に出ている2)。ビート信号が最低でも500kHz 程度であるため,フォトダイオードによる1 点測定にならざるを得ないが,最近進歩している光ビームスキャン技術を活用し,面測定も可能となっている。今後,この光コム距離計測技術と多波長干渉技術が相補的に融合されれば,真に広範囲・高精度な光形状計測技術が生まれてくると思われる。
本特集では,さらに多くの波を効果的に用いるイメージング計測技術として,デジタルホログラフィーとテラヘルツ(THz)波を取り上げている。デジタルホログラフィーを原理的に考えると,1つの測定対象点からの波を,多くの観測点において振幅と位相を検出し,検出した波を計算機内で測定対象の反射点付近に逆伝搬させ,寄せ集めている。この逆伝搬処理によって測定対象点を特定あるいは測定対象点での光位相を検出する技術であることから,デジタルホログラフィーは多波光技術と見なすことができる。従来のレンズによる結像では不十分な場合にデジタルホログラフィーが活用される。また,観測点での波の位相を干渉によって検出するために位相が90 度異なる干渉縞を並列的に発生させる偏光技術,直交偏光した2つの光に対する測定対象のイメージング計測,RGB3色の光でのイメージング計測などの多波光技術もデジタルホログラフィーで用いられている。光の波長より長いTHz 波は物体内部を透過するため,新しい波として注目されており,この場合も多くの波長のTHz 波を用いることにより物体の特徴を内部透視イメージングで鮮明にとらえることができる。
本特集で扱っている光干渉技術についてこれらの関係を明確にするために,光干渉の原理的側面を解説しながら各記事の内容について以下に述べる。まず,図1に示すように1つの波長λを用いた干渉計が出発点である。1つの波長の光が2つに分けられ,基準となる参照ミラーと測定対象からの光が再び重ね合わされて干渉信号が生じる。測定対象の位置により,干渉する2つの光の伝搬距離が異なり,この伝搬距離の差を光路差Lと呼ぶ。干渉信号はS(L)=cos[(2π/λ)L]となり,L=0のとき最大値となり,光路差の増加に対し正弦波状に変化し,L=λで再び最大値となる。このことから,測定できる光路差の範囲は1 波長以下となる。この狭い測定範囲を拡大するために,複数の波長を用いる干渉法が登場する。古くから用いられている干渉法として白色光を光源とする白色干渉計があるが,最近は光源としてスーパールミネッセンスダイオード(SLD)が用いられるようになり,低コヒーレンス干渉計とも呼ばれる。白色干渉計では,図2に示すように白色光源が持っている連続した多くの波長が用いられ,同じ波長の光同士が干渉する。すなわち図1において,波長λが異なる多くの値をとり,これらの干渉信号のすべてはL=0で最大値となっている。この状態で異なる周期の多くの正弦波が重ね合わされることから,図2に示すように,L=0で鋭い最大値を持つ干渉信号S(L)が得られる。この特性から,白色干渉法では参照ミラーに変位を与え,L=0となる位置を探すことによって測定対象の反射面位置を求める。また,干渉信号は中心波長λcを周期とする正弦波波形に振幅変化が与えられたかたちとなっており,L=0では周期λcの正弦波の位相すなわち干渉信号の位相が0である。このことを利用すると,非常に正確にL=0の位置を求めることができる。白色干渉法では複数の反射面がある場合でも,それらの反射面位置を検出できるため応用範囲は広く,光コヒーレンス断層映像法(OCT)にも用いられておりタイムドメイン(TD)OCTと呼ばれている。参照ミラーの平行移動で行っていた従来の光路差の走査を,独創的な方法で高速かつ簡便に行うことのできる安価でポータブルなOCTについての研究が“産業用OCT技術とその応用” である。
次に,図2の白色光源の連続光スペクトルのうち,周波数間隔Δfでとびとびの多くの光を干渉計の光源として用いたらどうなるであろうか。この光源をコム光源と呼び,その光周波数スペクトルを図3に示す。ここでは,波長λの代わりに光速をcとして周波数f =c/λを用いる。この光コム干渉計の場合も,図1の干渉信号から図2の干渉信号を導き出したように,多くの異なる周期λ=c/fmの正弦波を重ね合わせた信号を考えれば良い。ただし重要な点は,多くの異なる周期λはとびとびの値であるため,光路差L=0以外のあるLの値のところで多くの正弦波の位相がすべて等しくなる現象が起きる3)。この結果,光路差L=0付近は白色干渉計の場合と同様な干渉信号S(L)となるが,干渉信号の包絡線すなわち干渉信号の振幅の最大点がL=0の他に,pを整数とするとLP=pc/Δfの位置に現れる。この位置をp次の振幅最大点と呼ぶ。従って,光コムの周波数間隔Δfを変化させることによって振幅最大点を自由に動かすことができ,ガラス板などの表面位置を測定する場合,白色干渉計のように参照ミラーを走査する必要がなくなる。これに関する研究が,“光周波数コムの発生と干渉計測への応用” であり,「コム間隔掃引干渉法」と名付けられている。白色干渉法と同様に光コム干渉計の干渉信号S(L)の位相はλc=c/fcの光路差変化で2πだけ変化し,振幅最大点での位相はαP=2π(LP/λc)=2πp( fc/Δf)となる。L0=0ではα0=0であるが,他の振幅最大点では異なった値となっている。この干渉信号の位相特性を活用すれば,多波長干渉技術のさらなる発展が期待される。
白色干渉計と光コム干渉計では同時に多くの波長を用いて干渉信号を生じさせているが,多くの波長を時間的にあるいは空間的に順番に発生させ,それぞれの波長の干渉信号を順次検出する方法が波長走査干渉法である。この場合,波長の表現を用いるよりは,波長の逆数である波数σ=1/λ,あるいは周波数f=cσを用いた方が便利である。多くの波長を時間的に発生させる場合は,干渉信号は図1の波数σ が時間的にσ=σ0+Δσ(t)と変化することになるので,S(t, L)=cos[2πσ0L+Δσ(t)L]となる。この干渉信号には,図1の干渉計と同様に2πσ0L=(2π/λ0)Lの項が含まれているので,光路差Lを数nmの正確さで求めることができ,かつΔσ(t)Lの値から光波長以上の大きな光路差のおおまかな値を数百nm 程度の精度で求めることができる。光路差に関するこれらの値を組み合わせることで,いわゆる縞次数が正確に求められ,光波長以上の光路差の測定が可能となる。波数走査Δσ(t)のかたちとしては直線状と正弦波状があり,これらの走査を用いた膜形状計測の研究が“白色光を用いる波数走査干渉計による薄膜形状計測” である。そこでは,検出される干渉信号は薄膜の両面から生じる複数の干渉信号の和となっており,これらの複数の干渉信号を区別する方法が重要となる。多くの波長を空間的に発生させる方法として,SLD 光源の光を回折格子で回折させる方法がある。この場合は空間座標をx,bを定数とすると空間的な直線状波数走査はΔσ(x)=bxとなり,干渉信号はS(x, L)=cos[2πσ0 L+bLx]と周波数bL/2πの正弦波となる。この干渉信号をxについてフーリエ変換すれば,干渉信号の周波数が求まり,光路差Lがおおまかな値で得られる。測定対象が複数の反射面を持つ場合は,複数の干渉信号の周波数はそれぞれの反射面の光路差Lに応じて異なるため,フーリエ変換によって複数の干渉信号を区別できる。この波数走査を用いた光コヒーレンス断層映像法がフーリエドメイン(FD)OCTあるいはスペクトルドメイン(SD)OCTと呼ばれている。通常は回折格子で回折された異なる波数の光を1次元CCDイメージセンサーで検出するが,逆に回折格子を回転させ時間的に異なる波数の光をフォトダイオードで1点検出する方法が,“MEMS 光学素子を用いた3 次元形状計測技術” で述べられている。この研究では,MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術により回転回折格子,スキャナーミラーを作り出しており,ポータブルな形状測定器を実現している。
精密計測あるいはイメージング計測において,複数の異なる波を,波長(周波数),時間,空間,偏光について,どのように用いればどのような新しい計測が生まれてくるかについて,本特集が少しでも役立つことを期待している。
参考文献
- 北川克一:“ 光干渉法による3 次元計測”,計測と制御, 第50巻, 第2 号,pp.97~104 (2011)
- 今井一宏,興梠元伸:“ 飛行時間(TOF)計測の性能を飛躍的に向上させる光コム干渉技術”, 計測と制御, 第50 巻, 第2 号,pp.112~117 (2011)
- 佐々木修己:“ 白色干渉法から離散型多波長干渉法への発展”,光アライアンス,3 月号, pp.24~27 (2010)