OplusE 2011年1月号(第374号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
植物工場と光技術
- ■特集のポイント
- 社会開発研究センター 高辻 正基
- ■完全制御型植物工場の現状
- 社会開発研究センター 高辻 正基
- ■人工光下の植物の光応答反応
- 東京農業大学 雨木 若慶
- ■人工植物栽培におけるLED照明技術
- 東海大学 森 康裕
- ■HEFL照明装置を用いた高機能性野菜の栽培
- 長浜バイオ大学 蔡 晃植
- ■機能性新野菜“ツブリナ”―HEFL照明を用いたアイスプラントの事業化―
- 日本アドバンストアグリ 辻 昭久
- ■モジュール化植物工場
- エスペックミック 中村 謙治
- ■自然と共生するオフィス―パソナグループ本部アーバンファームについて―
- パソナ 板見 さやか
連載
- ■【一枚の写真】内部に電気をためられる太陽電池を開発
― 光強度変化による出力変動を緩和し暗所使用も可能な「蓄電機能付き色素増感太陽電池」― - 東京大学 瀬川 浩司
- ■【私の発言】植物工場の野菜は,安全で”いつでも旬に近い野菜”です
- 社会開発研究センター 高辻 正基
- ■【第9・光の鉛筆】28 指揮装置3 対空砲戦指揮装置
- ニコン 鶴田 匡夫
- ■【波動光学の風景】第66回 68. フレネル回折
- 東芝 本宮 佳典
- ■【コンピュータイメージフロンティア VFX 映画時評】
- Dr.SPIDER
- ■【入試問題に学ぶ光のあれこれ】第22回 光電管を含む電気回路
- 日本大学 柴田 宣
コラム
- ■【ホビーハウス】動き出すカレンダー,雑誌の表紙 ―サンプリング格子とモアレ格子―
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
- ■【非凡なる凡人 私のなかの松下幸之助】最高顧問 中尾哲二郎
- 神尾 健三
■掲示板
■O plus E News
■New Products
■オフサイド
■次号予告
特集のポイント社会開発研究センター 高辻 正基
2009年に,植物工場に対する国の支援が決まったことがきっかけになって,いま植物工場は第三次ブームを迎えて賑わっている。近年の“食の安全・安心”への志向,異常気象の頻発を背景にして,野菜の「安定供給」「品質の均一性」「無農薬」「清潔」を保証する植物工場野菜への関心が企業や消費者の間で高まっている。産官学で研究開発の動きが活発だが,現状ではいくつかの問題が未解決のまま残されている。工場野菜は「コストが高い」「エネルギー多消費」「消費者や流通業者,外食産業者によく知られていない」「独特のシャキシャキ感はあるものの露地物に比べて必ずしも美味しい,栄養価が高いとは言えない」などが挙げられる。これらの問題はいずれ解決されていくと思われるが,一つ根本的な技術的問題がある。それは,現在実用化されている植物工場のほとんどが,光源に蛍光灯を使用している点である。蛍光灯は確かに安くて使いやすい。したがって,現状では最も有力な光源である。しかし,植物は特定の赤色と青色の光,特に特定の赤色光によって良く育つ。生育が良くなるばかりでなく,美味しく栄養価の高い野菜ができる傾向にある。ところが蛍光灯には,この特定の赤色と青色の光の割合が非常に少ない。したがって,現状の工場野菜ははっきり言って,露地物と差別できるほど美味しくはないし,栄養価も高いわけではない。「安定供給」「無農薬」「清潔」の3 点で勝負しているわけだ。
一方,現時点で価格が高いLED は,実用化植物工場において,かつてコスモプラント(株)が作ったシステムでしか使われていない(現在,事業の一部はサンパワ―(株)が引き継いでいる)。しかし,半導体素子の技術進歩は早いので,将来LED を使用した植物工場が普及することが大いに期待されている。というのもLED には植物が好む特定の赤色と青色のものがあり,これを使うと野菜の品質が高まる。つまり生育が良く栄養価の高いものができやすいのである。また,LED は熱線を含まないため野菜に近接して照明できるので空間の節約にもなるし,さらに省エネになることはよく知られている。まだ実用化植物工場の数は少ないものの,これが研究が盛んに行われている理由である。
このような状況下で,植物工場の将来に対して光技術の果たす役割は極めて大きい。それは,安価で高効率,長寿命光源の開発と照明効率の向上を実現するとともに,光質と生育との関係の解明である。どのような波長あるいは波長の組み合わせの光が,つまり,どのような光源が植物(野菜)の生育を促進し,さらに味や栄養価を高めることができるかという課題である。こうしたことが将来,工場野菜の付加価値を高め,高価に販売するための鍵を握るであろう。今回の特集は,最先端の植物工場の紹介とともに,これら照明と生育の問題に対する現状の挑戦を概説していると言える。