OplusE 2010年9月号(第370号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
限界に挑戦する最新リソグラフィー
- ■特集のポイント
- OplusE編集部
- ■液浸露光装置 S620D ― ダブルパターニング世代の新プラットホーム
- Streamlign ―:ニコン 河野 博高,柴崎 祐一
- ■マイクロミラーを用いたプログラマブル照明“FlexRay”
- エーエスエムエル・ジャパン 宮崎 順二
- ■EUV リソグラフィー
- 半導体先端テクノロジーズ 田中 裕之
- ■対称性による収差低減が生きるキヤノンの液晶露光装置
- キヤノン 大竹 雅裕
- ■NuTera™ HD7000
- モレキュラー・インプリンツ 高津 紀彦
- ■Hp32nm 以細を実現する最先端電子ビームマスク描画装置EBM-7000
- ニューフレアテクノロジー 上久保 貴司
- ■光学系の結像限界を引き出すソース・マスク・オプティマイゼーション
- ルネサス エレクトロニクス 内山 貴之,吉持 一幸
- ■マスク検査技術 ―極限の検査で見えてくる光学系の不思議―
- トプコン 高田 聡
- ■次世代リソグラフィーの実現を左右するプロセス技術
- JSR 木村 徹
- ■露光装置の性能を最大限活用するAPC/AEC
- ニコン 鈴木 一明
連載
- ■【一枚の写真】軟X線レーザー干渉計で見るナノスケールの表面形状変化
- 日本原子力研究開発機構 河内 哲哉
- ■【私の発言】弱小メーカーのとるべき戦略を考え抜く幸運に恵まれました(前編)
- モレキュラー・インプリンツ・インク 溝上 裕夫
- ■【第9・光の鉛筆】26 測距儀1 Barr & Stroud
- ニコン 鶴田 匡夫
- ■【波動光学の風景】第62回 64. グリーンの定理
- 東芝 本宮 佳典
- ■【コンピュータイメージフロンティア VFX 映画時評】
- Dr.SPIDER
- ■【入試問題に学ぶ光のあれこれ】第18回 宇宙背景放射中の光圧
- 日本大学 柴田 宣
コラム
- ■【ホビーハウス】食べ物が拡大レンズに
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
- ■【非凡なる凡人 私のなかの松下幸之助】ビデオディスク戦国時代
- 神尾 健三
■掲示板
■O plus E News
■New Products
■オフサイド
■次号予告
特集のポイントOplusE編集部
2007年からの不況の影響を受けて,半導体産業は長い冬眠状態のようであった。しかしながら,昨年ごろから韓国・台湾勢を中心として好転の動きが見えてきて,今年の2 月末に開催された「SPIE Advanced Lithography」のコンファレンスでも新規の内容の発表がいくつか見受けられた。さらに夏以降,露光装置を中心として設備投資が活発となってきている。 そこで,本誌でも2007年9月号以来ということでリソグラフィー関連の特集を企画し,本号の特集として最新動向の紹介を行うこととする。特集名を『限界に挑戦する最新リソグラフィー』として10 件の記事の記載を装置メーカーを中心にお願いした。まず,(株)ニコンの河野氏,柴崎氏に「液浸露光装置S620D」なる題目の記事をお願いした。
この記事においては,ニコンの最新の装置である「S620D」に関して技術的な紹介をしていただいた。副題に記載されている「ダブルパターニング世代の新プラットホーム:Streamlign」に関しては,①高重ね合わせ精度を達成するための「バード・アイ・コントロール」と呼ばれる高い計測再現性を持つレーザーエンコーダーによるステージ制御システム,②五眼アライメント顕微鏡とオートフォーカスシステムを用いる「ストリーム・アライメント」と呼ぶウエハー計測シーケンス,③短納期・容易なメンテナンスを可能にするための「モジュール化構造」といった革新的な3 つの大きな特徴について記載いただいた。
この装置のターゲットスペックは,重ね合わせ精度2nm,スループット毎時200 枚以上であり,22nm L/S(ライン& スペース)の露光結果も示されている。次に,エーエスエムエル・ジャパン(株)の宮崎氏には「マイクロミラーを用いたプログラマブル照明“FlexRay”」なる題目の記事をお願いした。
半導体露光装置の解像力を向上する方法として,「超解像技術」と呼ばれる技術が広く用いられている。その一つに,投影レンズの瞳面における光強度分布に工夫を凝らした変形照明技術がある。露光装置における照明形状は,当初円形の通常照明が使用されていたが,輪帯照明,二眼照明(ダイポール照明),四眼照明などの変形照明が用いられるようになった。これらの照明形状を露光装置上で照明エネルギーの損失なく形成する方法として,ASML の装置では“FlexRay”と呼ぶマイクロミラーを用いたプログラマブル照明系を搭載している。
本記事では,この“FlexRay”に関して紹介をしていただいた。コンピューターを用いて最適化されたFreeForm 照明が重要となる中,このFreeForm照明をコンピューターからのデータでプログラムできるFlexRay照明は,さらなる微細化を実現し,かつ開発期間も短縮できる非常に有効な技術であると述べられている。
三番目に(株)半導体先端テクノロジーズの田中氏に「EUV リソグラフィー」なる題目の記事をお願いした。
この記事においては,極端紫外光EUV(ExtremeUltra Violet,波長13.5nm)を使ったEUV リソグラフィーのこれまでの技術開発と合わせて,EUV 光源と露光装置,レジスト材料とプロセスパターン補正技術,デバイス試作,マスク技術に関して最新の開発動向と課題について紹介していただいた。現在の最大の関心事は,「量産に必要な関連技術はいつ揃えられるのか」という点であり,2012~2013年にリリース予定の量産用露光機は,Hp(Half pitch)20nm 前後の本格量産に耐えるスループット・性能を有すると期待され,この時期に向けて,レジスト材料,マスク関連設備等の関連技術を整備していけば,EUV リソグラフィーも半導体の量産で使用されると述べられている。
四番目にキヤノン(株)液晶機器事業部の大竹氏に「対称性による収差低減が生きるキヤノンの液晶露光装置」なる題目の記事をお願いした。
この記事においては,液晶モニター等のフラットパネルディスプレイ用露光装置である「MPAsp-H750」に関して記載していただいた。この装置は第8 世代と呼ばれる2,200mm Å 2,500mm サイズの基板へのパターン転写を可能とするものである。
この装置のマスクパターンと基板上の光学像を結像させる投影光学系には,等倍反射光学系を使用している。この等倍反射光学には,古くはPerkin-Elmer 社製の装置に搭載されたOffner型,Ultratech 社製の装置に搭載されたDyson 型がある。キヤノン社製の装置においても,Offner 型に比較して像面幅を拡大したSuzuki 型(とここで勝手に呼ぶこととする。この詳細は1985 年の光学論文賞を受賞した論文等を参照いただきたい)を搭載してきた。
本記事で紹介する装置には,非球面化したフィールドレンズを配置し,「瞳の球面収差」を削減することでメリジオナルの像面湾曲をサジタルの像面湾曲と一致させ,像面幅を100mm以上が可能となる等倍反射光学を搭載している。 五番目にモレキュラー・インプリンツ社の高津氏に「NuTeraTM HD7000」なる題目の記事をお願いした。
この記事においては,米国MII(Molecular Imprints,Inc. )の最新の装置である「NuTeraTM HD7000」に関して技術的な紹介をしていただいた。この装置では,光ナノインプリント技術を使用して,HDD(Hard DiskDrive)の大容量化のためのDTR(DiscreteTrack Recording)パターンを形成する。2.5インチディスクの両面に,Hp50nm のDTR のパターンを毎時300枚のスループットで形成するといった解像力,生産性の両方において,驚異の性能を可能としている装置である。今回,DTRで実証したMIIのオリジナル技術であるJ-FIL(Jet and Flash Imprint Lithography)プロセスは,より微細なパターンまで拡張性があり,次世代のBPM(Bit Patterned Media)にも適用されるだろうと述べている。
六番目に(株)ニューフレアテクノロジーの上久保氏に「Hp32nm 以細を実現する最先端電子ビームマスク描画装置EBM-7000」なる題目の記事をお願いした。
この装置の主な3 つの特徴である①微細なパターンを高精度に解像するため新たに設計した低収差の電子光学系(従来のEBM-6000に比べ,さらなる高分解能化を実現),②微細化に伴うパターン数増加による描画時間の増大を抑制するために200A/cm2 の高電流密度化,③データ処理においては,大容量データを高速に処理するために分散処理システムの構築(0.1nmのアドレスサイズでデータ処理速度は最大500MB/secを達成)に関して記載いただいた。
この装置のパターン解像性に関しては,化学増幅型のポジティブレジスト(レジスト膜厚50nm)を用いて1:1のL/Sパターンで20nm近傍まで確認でき,Hp32nm世代に必要な解像性を優に達成していることが確認された。
七番目にルネサスエレクトロニクス(株)の内山氏,吉持氏に「光学系の結像限界を引き出すソース・マスク・オプティマイゼーション」なる題目の記事をお願いした。
この記事では,ソース(Source:光源)・マスク(Mask:パターン原版,レチクルとも呼ばれる)・オプティマイゼーションに関して,露光機の複雑な照明形状(光源形状)を可能にするフリーフォーム照明,および補助パターンを含む複雑なフリーフォームマスクを用いて,両者を同時に最適化することにより,複数の複雑な二次元パターンのプロセスウィンドウを確保し,微細化を実現する技術として説明している。この技術は2 回以上のマルチパターニングが必要な世代においても露光回数をより少なくすることができ,コストを抑えるために有効であるとし,今回は40,28nmノードのロジックデバイスにおける本技術適用の有効性をシミュレーションおよび露光実験により検証した結果について記載していただいた。
八番目に(株)トプコン研究開発センターのたか田氏に「マスク検査技術」なる題目の記事をお願いした。
副題として,本誌・編集部からの薦めで「極限の検査で見えてくる光学系の不思議」とした。このように副題としたのは,マスク面上で大きさ50nm以下といった微小な物体を拡大観察して,その大きさ,形状を計測することは極めて難しく,このように光学系の解像限界,あるいはそれ以上に細かい欠陥検査を行おうとすると,従来気づいていなかった光学系の不思議に直面するためである。この事例として,マスク検査用の検出光学系において,照明光学系の配置(離散性)によりゴースト像が発生することを紹介した(通常ゴースト像の原因は結像光学系にあると考えるので不思議と思う)。
半導体露光装置の照明光学系には,フライアイ(ハエの目)と呼ぶものが使用されている。このフライアイを構成する複数の要素レンズの周期にゴーストの分布が関係し,ゴースト像のコントラストとフライアイ要素レンズ数との関係の式を導いた。さらに,マスク上にランダムに発生する欠陥パターンの位置情報を,より高い分解能で検出する目的で,結像面において偏光変化を検出する方法を考察してみた。この欠陥検査方法の有効性について,数値計算により検証した結果に関しても紹介していただいた。
九番目の記事として,JSR(株)精密電子研究所の木村氏に「次世代リソグラフィーの実現を左右するプロセス技術」なる題目でお願いした。
この記事では,これまでリソグラフィーによる微細化技術の流れはArF 液浸露光技術以降,ダブルパターニング(DP:Double Patterning)技術,EUV(ExtremeUltra Violet)露光技術,ナノインプリントリソグラフィー(NIL:Nanoimprint Lithography)技術,さらにはダイレクトセルフアセンブリー(DSA:Direct Self-Assembly)などに分類,研究されてきたことを紹介している。それぞれのリソグラフィー技術の実現性は,そこに用いるプロセス技術の完成度に大きく左右されるとし,この記事の中では,技術発展の時間的な流れに沿って,各リソグラフィー技術のプロセス技術の紹介を行った。
最後に,(株)ニコンコアテクノロジーセンター研究開発本部の鈴木氏に「露光装置の性能を最大限活用するAPC/AEC」なる題目の記事をお願いした。
APC(Advanced Process Control)やAEC(Advanced Equipment Control)のループを効率良く回すことが,歩留まり向上に非常に重要になってきているとの認識である。両方に「Advanced」と付くのは,これまでの補正・制御方法より,半導体(メモリー,CPU 等)の高性能化,低価格化の恩恵を受けて,製造,検査装置の大量の履歴・計測データの取得および解析が高速に可能となったことで,露光装置の最適パラメーター値が決定されるという「進化」した制御の実現による。
この記事では鈴木氏が所属されるニコンの技術の紹介だけでなく,KLA-Tencor,Applied Materials,NuflareTechnologies,ASML,キヤノンと多くの会社の技術も紹介,引用されている。
ウエハーの計測データの解析処理結果からの露光装置の補正制御へのフィードバックを主軸に,APC/AECを解説し,今後のより厳しい精度管理に対応するため,この種の技術は半導体工場内の自動化システムとリンクして有機的に運用されていくであろうとまとめている。
リソグラフィー関連の技術は,半導体パターンの微細化要求に対応する重要な技術であり,これまで,いろいろな技術が導入され,使用されてきた。本誌においては,今後も適時,特集化して紹介していくつもりである。