OplusE 2010年6月号(第367号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
感性・技能を測る画像センシング
- ■特集のポイント
- 慶應義塾大学 青木 義満
- ■総論:「感性・技能を測る画像センシング」その解題と展望
- 中京大学 輿水 大和
- ■視覚感性の工学的なモデル化と画像の自動分類・検索への応用
- 中央大学 加藤 俊一
- ■音と画像のマルチモーダルインタラクション
- 関西学院大学 長田 典子
- ■『おいしい』を測る画像処理技術
- 岐阜大学 加藤 邦人
- ■熟練作業員の動作/視線計測を基礎とした検査システム開発の試み
- 中京大学 舟橋 琢磨
- ■色ムラやシミを人のように評価する外観検査技術
- 香川大学 秦 清治
- ■バーチャルトレーニングと OJT を融合した技能伝承
- 埼玉大学 綿貫 啓一
- ■ロボットカメラ制御のためのカメラマンの撮影テクニック機械学習
- NHK 放送技術研究所 奥田 誠,井上 誠喜,藤井 真人
- ■画像認識技術のスポーツ中継番組への応用
- NHK 放送技術研究所 高橋 正樹
- ■競泳競技での勝利を支える画像技術
- スポーツアナリスト 河合 正治
- ■蛍狩りカメラを用いたアスリートの運動解析の試み
- 中京大学 藤原 孝幸
連載
- ■【一枚の写真】新原理を用いたメタルベース高速光スキャナー
- 産業技術総合研究所 明渡 純
- ■【私の発言】研究を登山に例えたならば,山の裏側には別のもっと楽なルートがあるかもしれません。
- 東北大学名誉教授 山本 正樹
- ■【第9・光の鉛筆】23 プラネタリウム5 第二次大戦後のZeiss社とモリソンのプラネタリウム
- ニコン 鶴田 匡夫
- ■【波動光学の風景】第59回 61. 球座標
- 東芝 本宮 佳典
- ■【新 Engineering シリーズ】3. Sagnac干渉計
- アリゾナ大学 Masud Mansuripur 訳:辻内 順平
- ■【コンピュータイメージフロンティア VFX 映画時評】
- Dr.SPIDER
- ■【入試問題に学ぶ光のあれこれ】第15回 マイケルソン干渉計
- 日本大学 柴田 宣
コラム
- ■【ホビーハウス】3次元物体の計測と表示はかなり違う
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
- ■【非凡なる凡人 私のなかの松下幸之助】コーヒーブレイク
- 神尾 健三
■掲示板
■O plus E News
■New Products
■オフサイド
■次号予告
特集のポイント慶應義塾大学 青木 義満
従来の工学技術は,性能と効率を重視したものづくりを目指しながら発展してきたが,現在では真のゆとりと豊かさのある質の高い生活を提供するという,人間の根源的な要求に応えるための技術が重視されるようになってきた。このような要求に応えるため,人の感覚・感性を計測,理解する技術,感性センシング技術が盛んに研究され,系内に人間を含むようなシステムの設計・開発に役立てられつつある。また,産業,芸術分野等においては,優れた技能をどのように次世代に伝承していくかという,技能伝承の問題が取り上げられている。ここでも,専門家のスキルを計測,定量化,それを解釈し,分かりやすく表現する手法が要求されている。人の感覚やスキルといった曖昧な非物質的事物を計測し,解釈するためには,従来の自動化,効率化を重視した技術的アプローチとは異なる枠組みが必要であると考えられる。本特集では,人の感性・技能を計測,解釈,表現するための画像センシング技術,および情報処理技術に焦点を当て,最新の研究事例を通してその最新動向を探るとともに,この分野における研究開発の奥深さ,困難さ,現状における技術課題を明らかにしたい。また,同時に感性・技能センシングの今後の発展性を感じていただければ幸いである。
1.総論
精密工学会画像応用技術専門委員会等の活動で,感性・技能センシングに関する新しい潮流の中心で活躍されている中京大学/輿水大和先生に,総論の執筆をお願いした。まず,感性・技能の画像センシングに潜む課題の本質とは何かを解題していただいている。また,画像センシング技術の立脚すべき学問的基盤(物質科学とココロ科学)に触れながら,感性・技能を扱う画像センシングにおける具体的な論点,アプローチをいくつかの典型的事例を交えて深く掘り下げていただいた。特集全体を通した議題を呈示するにとどまらず,感性・技能といった非物質的事象を相手に日々取り組んでいる研究者,またその動向を知りたいという読者への熱く,深いメッセージが含まれている。ぜひ熟読していただきたい。2.感性を測る画像センシング
中央大学/加藤俊一先生には,人の視覚感性を工学的にモデル化するアプローチと画像分類・検索への応用について執筆いただいた。感性モデルを物理・生理・心理・認知の異なるレベルで階層的に扱うアプローチは,画像のみならず,広く人の感性を工学的に扱う上で参考になるものであろう。関西学院大学/長田典子先生には,感性を測る基盤技術の例として,複数の感覚(特に視覚と聴覚)の相互作用に焦点を当てた事例を紹介していただいている。感覚混合の一つである「共感覚」の仕組みを脳機能イメージングから解明しようとする取り組みと,共感覚をメディアコンテンツ創出へと活用しようとする動きに注目していただきたい。
岐阜大学/加藤邦人先生には,「おいしい」を測る画像処理技術について執筆いただいた。食べ物のおいしさは複数の感覚器官で得た情報の複合によって得られる感性量であるため,定量的にとらえるのが最も困難なものの一つであるが,ここでは,食品の物性に関わる構造,調理の画像解析という新しい切り口で,感性量としての「おいしさ」を定量化する興味深い試みを紹介いただいている。
3.プロの技能を測る画像センシング
中京大学/舟橋琢磨先生には,工場の熟練作業員の「匠たくみの技」を,身体動作と注視点の計測に基づく解析によって解明,モデリングする試みを紹介いただいた。画像計測によるデータ蓄積とノウハウのヒアリングといった定量・定性的解析を着実に行い,検査に必要な技能を解明している。さらに,作業員の動作をロボットとして機械化しており,「匠の技」の計測,解釈,表現の流れを実現した貴重な事例である。香川大学/秦清治先生には,色ムラや色彩に関する外観欠陥検査において活用される,人の視覚感性に基づくシミュレーターについて執筆いただいた。人間の感覚特性はセンサー類の特性とは異なるため,欠陥認識の基準については検査機器や対象ごとに細かく設定を行う必要があったが,この課題を人の視覚感性の評価,解釈の点からのアプローチで解決しようとしている。
埼玉大学/綿貫啓一先生には,ものづくりにおける「2007 年問題」を背景に,技術文書,映像,職場内訓練(OJT:On-the-Job Training)などの技能伝承や人材育成法,また,VR(Virtual Reality),マルチメディア,ロボット技術などを駆使した場の共有による製造知識の獲得と人材育成について執筆いただいた。また,NIRS(Near-Infrared Spectroscopy)を用いてバーチャルトレーニング過程を脳科学的に分析する新しい試みについても触れていただいた。
NHK 放送技術研究所/奥田誠氏らには,TV 放送におけるカメラマンの「匠の技」,カメラワークを学習により取得,モデル化し,ロボットカメラへ実装する話題を提供いただいた。ロボットが自動撮影したコンテンツが違和感なく,実放送に用いられる時代の到来を予感させる内容である。
4.スポーツ技能計測解析,競技支援
NHK 放送技術研究所/高橋正樹氏には,実際のスポーツ中継で応用可能な画像認識,情報提示技術について,さまざまなスポーツでの適用事例を交えて紹介いただいた。映像中から視聴者に“魅せる”ための情報を自動抽出し,実映像に付加するシステムを時間的制約のある中で実現している。スポーツアナリスト/河合正治氏には,競泳競技での北島康介選手の活躍を支えた,ビデオ画像の解析を基盤にした「速く泳ぐためのエンジニアリング技術」について執筆いただいた。アスリートの競技における繊細な技能を支える科学的な知識,それを駆使した戦略立案に,映像解析技術が大きな役割を果たしたという実例を,体験談も交えて紹介いただいた迫力ある内容である。
中京大学/藤原孝幸先生には,スポーツ競技における運動動作の画像センシング事例として,「蛍狩りカメラ」という新しいカメラを用いて,アスリートの運動軌跡を3次元的に取得し,運動解析に用いる手法を紹介いただいた。多くの著名アスリートを抱える中京大において,ハンマー投げやフィギュアスケートなどで重要となる回転動作における体軸の推定や,動作の滑らかさ指標からの運動動作の評価をアスリートたちと共に実施している。
以上,本特集はさまざまな立場から,「感性・技能センシング」を研究課題とされている諸氏に,興味深い話題を提供していただけた。ここに感謝の意を表したい。また,本特集が,感性・技能センシングの活発な議論の継続と発展への一つのきっかけとなれば幸いである。