OplusE 2014年3月号(第412号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
水の窓X線イメージング特集
- ■総論
- OplusE編集部
- ■レーザー生成重元素プラズマによるフラッシュ水の窓軟X線光源の開発
- 宇都宮大学 東口 武史
- ■水の窓領域におけるフルコヒーレント光の発生
- 理化学研究所 高橋 栄治,緑川 克美
- ■X線イメージングに向けたレジストの単色X線に対する感度評価
- 早稲田大学*,日本原子力研究開発機構** 鷲尾 方一*,大山 智子**
- ■細胞X線イメージング装置(AliXiltのご紹介)
- アライドレーザー 有澤 孝
- ■立命館大学小型放射光源を用いた軟X線顕微鏡
- 立命館大学 吉村 真史,難波 秀利
- ■「水の窓」波長域の軟X線顕微鏡による生物細胞観測
- 東北大学*,日本原子力研究開発機構** 江島 丈雄*,加道 雅孝**
- ■軟X線顕微鏡によるバイオイメージング
- 関西医科大学 竹本 邦子
- ■フォトンファクトリー(軟X線光源)
- 高エネルギー加速器研究機構 宇佐美 徳子
連載
- ■【一枚の写真】ミネラル飲料中の結晶
- 東京工業大学 半導体MEMSプロセス技術センター 松谷 晃宏
- ■【私の発言】いろいろな方々のアイデアを結び付けてポリマーを電話で合成する
- 電気通信大学 学長顧問 宮田 清蔵
- ■【第10・光の鉛筆】27 ヘリオメーターの回折像とその対称性1
- 鶴田 匡夫
- ■【波動光学の風景】第104回 106.シュワルツの不等式
- 東芝 本宮 佳典
- ■【光エレクトロニクスの玉手箱】第13章 レーザーはおもしろい(その2)
- 伊賀 健一,波多腰 玄一
- ■【4k映像システム開発の歴史と展望】8章 符号化と記録システム
- 小野 定康
- ■【コンピュータイメージフロンティア VFX 映画時評】
- Dr.SPIDER
- ■【ホビーハウス】目に見える物の形と写真の関係
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
総論OplusE編集部
1.はじめに
今月の特集は,「水の窓X 線イメージング」と題して,細胞を染色しないで生きたままナノメートルの分解能で観察するイメージング技術に焦点をあてた。可視光における光技術を取り扱うことがおおいO plus EでX 線技術が単独で取り上げられるのは,大変珍しいことである。一方,イメージング技術,イコール,顕微鏡と考えると比較的頻繁に取り上げられている技術である。O plus E2011 年3 月号(第376 号)の特集「肉眼視にとってかわるデジタル光学顕微鏡」では,「デジタル顕微鏡」「位相差顕微鏡」「偏光顕微鏡」など光学顕微鏡の新しい技術が報告されている。さらに,先月のO plus E(第411号)の特集では,「より深く,より細かく観察する高機能レーザー顕微鏡」と題して,「超解像蛍光顕微鏡」「STED 顕微鏡」「2 光子励起蛍光顕微鏡」などで非線形特性を利用した回折限界を超える試みが報告されている。一般に,光学イメージング技術の分解能は,レンズのレイリーの式によると波長とレンズの開口数で決まるため波長の半分程度と考えることができる。単純に分解能をあげるには,観察する波長をどんどん短くしていけば良いことになる。しかしながら,可視光・紫外線からX線へと短くなっていくにつれて,さまざまな吸収の問題が起こってくる。近年,水の窓と呼ばれる波長が2~4nm 帯を用いる軟X 線顕微鏡が注目を集めている。ここでは, 波長2.3 nm(543 eV)の酸素の吸収端と 波長4.4nm(284 eV)の炭素の吸収端のため,水の吸収による影響を受けずにたんぱく質を含む生物像をえることができる1)。特に,水中計測サンプルをおくことができるので,生きたまま観察することが期待できる。
このように,将来性のあるイメージング技術であるが,水の窓の波長帯を得るための光源は,シンクロトロン(SR),レーザー光の高次高調波光源(HHG),X 線自由電子レーザー(XEFL)とレーザープラズマ光源の4つの手法が試みられている。実際の水の窓の細胞イメージングは,明るいフラッシュライトが求められており,主としてシンクロトロンによる結果が報告されている。現在,小型のシンクロトロンやHHCやレーザプラズマによって卓上でつくり出せる可能性も報告も出てきた。このような背景のもと今月の特集は,水の窓X 線イメージング技術における基礎技術から実際に細胞観察への応用面まで8 名の研究者・開発者による興味深い話題を提供していただいた。
2.水の窓X 線光源および周辺技術
まず,宇都宮大学の東口武史氏にはレーザー生成重元素プラズマによるフラッシュ水の窓軟X 線光源の開発について解説をお願いした。重元素プラズマとレーザー波長を組み合によって,波長域の多重共鳴線スペクトル構造を改善し,エネルギー変換効率を大きく改善するための光源の設計指針について述べられている。実際にNdからBiまでの変換結果から,錫とCO2レーザーおよびビスマスとNd:YAGが光源として適していることが分かりやすく解説されている。理化学研究所の高橋 栄治氏,緑川 克美氏には,高次高調波光源についての解説をお願いした。高次高調波発生は,レーザー光に匹敵する時空間コヒーレンス性を有する軟X 線ビームとして期待されている。高強度のレーザー光を希ガス等の非線形媒質に入射したとき発生する高調波が低次次だけではなく,高次高調波がほぼ同じ強度で複数次数発生する。ここで,媒質ガスのイオン化を低減させ,さらに位相整合条件を整えた上で,軟X線ビームのみを取り出すことで卓上の水の窓光源として大変期待できるという。さらに,アト秒かつフルコヒーレントという特徴を持つ光源が実現される日ももうすぐという。
早稲田大学の鷲尾方一氏,日本原子力研究開発機構の大山智子氏には,X 線イメージングに向けたレジストの単色X 線に対する感度評価と題して,試料を透過したX線を検出する際の検出法を紹介していただいた。検出器というとX 線CCDを使うと考えがちではあるが,この空間分解能は数マイクロメートルと可視光の回折限界を超えるために軟X 線イメージングを行っている意味がない。そこで半導体リソグラフィに用いられるレジストで軟X 線の強弱を表面の凹凸として記録し,現像後の凹凸を原子間力顕微鏡(AFM)等で読み出すことにより,試料の二次元分布と密度分布をナノの分解能で取得するという大変興味深い手法である。卓上型の水の窓光源ができれば実験室レベルで利用できる技術として実用が期待されている。
3.水の窓X 線顕微鏡
アライドレーザーの有澤孝氏からは,水の窓X 線イメージング装置についての解説をお願いした。これは,実際に水の窓域軟X 線細胞顕微鏡(AliXilt:Alinc X-ray Imaging by Laser Trap)として販売されているという。シュバルツシルド型顕微鏡にレーザープラズマによる波長4 nmの軟X 線イメージングを可能としている。さらに,サンプルを光ピンセットで用いて固定するとともに見る場所を選択することでコンピュータ断層撮影3 次元画像を生成するできることも紹介されている。さらにX 線と波長可変レーザーとの2 重共鳴によるイメージングなどの技術が開発中とのことで,今後の発展が期待できる。立命館大学の吉村真史氏,難波秀利氏には,立命館大学に設置されている小型放射光源「オーロラ」を利用した軟X 線顕微鏡ついての解説をお願いした。ここで得られる放射光は,連続光,高輝度,高指向性ですでに水の窓X 線顕微鏡には十分な強度の光源となっている。顕微鏡部分は,ゾーンプレートとX 線CCDカメラで構成される。試料を水中に設置し,360°回転することでコンピュータートモグラフィーによる3 次元観察を可能としているという。実際に,生態試料のシアノバクテリアを観察が可能としている。
4.水の窓X 線に生体細胞イメージングへの応用
東北大学の江島丈雄氏,日本原子力研究開発機構の加道雅孝には,「水の窓」波長域の軟X 線顕微鏡による生物細胞観測と題して解説をお願いした。特,軟X 線を照射して像から得られる情報について,生物細胞を構成する有機物,特に,オルガネラの情報を,空間分解能,化学結合状態の空間分布,オルガネラの吸収構造の違いの3つに分けて紹介されている。また,関西医科大学の竹本邦子氏には,軟X 線顕微鏡によるバイオイメージングと題して解説をお願いした。生きたままの細胞を観察するための顕微鏡の構成から試料の照射損傷まで,特に,動きの観察のための工夫について述べられている。また,微細シアノバクテリアの微細構造の観察が実例として示されている。
以上,7 件の解説記事に加えて,今回,研究施設紹介として高エネルギー加速器研究機構の宇佐美徳子氏にフォトンファクトリー(軟X 線光源)のご紹介記事の執筆をお願いした。この施設での放射光は,可視光からX 線までの連続スペクトル(白色光)の高輝度光であるのでさまざまな実験に利用することができる。今回の特集の水の窓X 線も十分な輝度で得ることができる。学術利用だけでなく,産業界でも利用できるとのことなので,水の窓X 線研究で興味ある方は利用されてはいかがと思う。
最後に,本特集で取り上げた水の窓X 線イメージング技術もすでに大規模な実験室レベルで可能となっている。一方,生きたままの細胞を観察するには,照射損傷などクリアーしなければならない問題もある。つい最近,北海道大学のグループから10フェムト秒以下のXFELによって細胞の無損傷イメージングを可能としたとの報告もあり,今後が期待される2)。さらに,光源や周辺技術の研究開発が進むことに追って,卓上型水の窓X 線イメージング技術ができることによってより実用化に近づいていくものと思う。ご多用中にも関わらずご執筆を御快諾いただいた著者の皆さま,関係者の皆さまに心から感謝申し上げる。
参考文献
- J. Kirz, C.Jacobsen, M.Howells : Soft X-ray microscopes and their biological applications , Quarterly Reviews of Biophysics, 28 , 1 , pp.33-130(1995)
- Takashi Kimura,et.al : Imaging live cell in micro-liquid enclosure by X-ray laser diffraction Nature Communications 5, 3052 , doi:10.1038(2014)
広告索引
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