OplusE 2014年9月号(第418号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
シリコン・フォトニクスの展望
- ■シリコン・フォトニクスの展望~光電子融合システムの実現に向けて~
- 東京大学 荒川 泰彦
- ■シリコン細線導波路プラットホーム
- 技術研究組合 光電子融合基盤技術研究所(PETRA) 八重樫 浩樹
- ■シリコン光変調器
- 技術研究組合 光電子融合基盤技術研究所(PETRA) 臼杵 達哉,秋山 傑
- ■フォトニック結晶光変調器
- 横浜国立大学 馬場 俊彦
- ■シリコン基板搭載用IV族光源の材料シミュレーション
- 日立製作所 諏訪 雄二
- ■オンチップ光配線に向けたシリコン温度無依存波長フィルター
- 産業技術総合研究所*,東京工業大学**,渥美 裕樹*,西山 伸彦**,荒井 滋久**
- ■高密度集積光配線技術
- 技術研究組合 光電子融合基盤技術研究所(PETRA) 賣野 豊
画像センシング展2014 招待講演レビュー
- ■“考えるクルマ”と交通社会の未来
- 日産自動車 二見 徹
- ■生活支援ロボットの開発 ~障がい者,高齢者,およびその家族や介護者のQOL向上のために~
- トヨタ自動車 服部 祐人
連載
- ■【一枚の写真】シリコン上・超小型・超高速のカーボンナノチューブ発光素子
- 慶應義塾大学 理工学部 物理情報工学科 准教授 牧 英之
- ■【私の発言】苦労して,問題に真面目に向き合って解決した人たちというのは強くなる
- 東京工業大学栄誉教授 末松 安晴
- ■【第10・光の鉛筆】33 非球面に関する興味ある文献 3 Herschel(子)・Linnemann・Straubel
- 鶴田 匡夫
- ■【波動光学の風景】第110回 112.エルミート・ガウシアンビーム
- 東芝 本宮 佳典
- ■【光エレクトロニクスの玉手箱】第19章 面発光レーザーの登場(その2)
- 伊賀 健一,波多腰 玄一
- ■【コンピュータイメージフロンティア VFX 映画時評】
- Dr.SPIDER
- ■【ホビーハウス】ウチワと3D画像
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
シリコン・フォトニクスの展望 -光電子融合システムの実現に向けて-東京大学 荒川 泰彦
1.光電子融合時代の本格的幕開け
半導体微細化技術の進歩により保たれてきたムーアの法則が,4年で処理速度が1桁の伸びを示すスーパーコンピューター(スパコン)の発展を支えてきた。今後コンピューティング技術を社会の安全・幸福実現やビジネスに活用するために,我々は,技術の意志として,このトレンドを維持しなければならない。2002年に地球シミュレーターが出現したが,インテル社のチップ性能トレンドと,スパコンの性能トレンドの両方を追うと,2020年の東京オリンピックには,地球シミュレーターがパソコンで実現できることになる。さらに,2035年ごろには,スパコンの「京」が手のひらサイズになると考えられる。多分,形状は,平面的ではなく,3次元立体構造になると思われる。「野球ボール大のスパコン」の実現が我々の未来技術目標といえる。
さて,コンピューティング・アーキテクチャにおいては,以前は,CPU(Central Processing Unit)が主役であり,メモリ(記憶装置)は周辺装置と呼ばれていた。ところが,ビッグデータの台頭もありメモリも今や主役になってきた。また,現在主流のマルチコアシステムは,多数のCPUとメモリが搭載されるメニコアシステムに移行する。CPUとメモリの間の大量の情報伝送を考えると,配線が第三の主役に踊り出る時代がやってくる。しかし,今の電気配線技術のみでは,配線は主役になり切れない。その理由は,電磁的な干渉や実装の関係上,配線ピッチ縮小化に限界があり,大容量情報伝送のための高密度配線ができなくなるためである。限られた面積において大容量情報伝送を実現するためには光配線が必要となる。電力消費の問題も光配線がある程度解決すると期待されている。 シリコンフォトニクスは,シリコンをベースにした光電子集積回路システムを対象とする技術であり,従来の光デバイス技術では到達し得ないレベルの高集積化,低消費電力化,低コスト化を実現できる可能性を有している。さらに,シリコンフォトニクスは,LSIとフォトニクスの融合に向けて,未来のコンピューティング技術の革新をはかるコア技術としても重要である1)。
図1は,光産業技術振興協会における光テクノロジーロードマップ策定活動の一環として2011年にとりまとめた情報処理フォトニクスのロードマップから,光配線技術について,期待される性能(速度・配線密度・消費電力)検討した結果を抜粋したものである2)。2020年時点で,開発技術として,筐体間配線では1.2Tbitps/cable,ボード間配線では,50Gbitps/chおよび3pJ/bit,チップ間配線では30Tbitps/cm2および1pJ/bitを達成するとしているが,現時点で眺めると,これらは市場化技術として位置づけるのが適当かもしれない。この分野のそれほど進歩は早いといえる。
2010年3月に開始したFIRSTプログラム「フォトニクス・エレクトロニクス融合システム基盤技術開発」プロジェクトは,LSI・フォトニクス集積回路システムの可能性を示すとともに,その産業化への見通しを明らかにすることを目的としていた。プロジェクトの英文名は,Photonics and Electronics Convergence System Technology(PECST)である。PECSTでは,光源搭載型光電子集積回路システムの動作実証と先端デバイス研究開発の両面について研究開発を行い,世界トップの成果を達成してきた。
一方,2012年から経済産業省の未来開拓研究プロジェクト(内閣府と経産省の府省連携プロジェクト)の一つとして「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システムの開発」が開始した(2013年以降はNEDOプロジェクトとして推進されている)。このプロジェクトは,筆者をプロジェクトリーダとして,10 年間300億円の予算のもと,PECSTの技術を継承して,事業化実現に向けて研究開発を推進する大型国家プロジェクトである。本プロジェクトは,光電子集積回路の実装部品としての全体像を明確化するとともに,これらの実装部品を用いた情報通信装置を逐次市場化する,という目標を掲げている。
わが国の取り組みや米国や欧州における動向を見ると,いよいよ産業技術としてのシリコンフォトニクス時代の幕開けがきたように思われる。本特集号は,シリコンフォトニクスの技術開発分野において活躍されている方々に,最新動向を語っていただいている。本総論ではシリコンフォトニクスの最先端技術の例として,PECSTの成果を簡単に述べるとともに,現在推進中のNEDOプロジェクトについて紹介することにする。
2.PECSTがめざしたシリコンフォトニクス
PECSTは,将来のコンピューターにおける,省電力化,高速化,ダウンサイズ化の限界の打破に向けて,光回路と電子回路が融合したデバイス/システム実現のための基盤技術の研究開発を推進した。その目的は,2025年ごろのオンチップサーバー実現に向けた光電子融合システム基盤技術の発展に貢献することにあった。光配線はLAN,WANという数十kmの通信ネットワーク領域から,数百mの筐体間,数mのボード間へと導入が進んできたが,CPU間を繋ぐ光配線がメニコアシステムの発展に伴い重要になってきている。PECSTが実証をめざしたシリコン基板上の光電子融合システム(以下,シリコン光インターポーザ)は,シリコン基板上に,光源,光変調器,受光器等がモノリシック集積,レーザ光源がハイブリッド集積され,これらの光素子は光導波路によって互いに光学的に接続されるシステムである。LSIベアチップはこの光インターポーザ上にフリップチップ実装される。シリコン光インターポーザは, 光源の搭載を除いてはCMOS(Complementary MOS)互換プロセスで形成可能なため,極めて高密度かつ低コスト化が期待できる。
チップ間配線においては,2020年ごろには10Tbitps/cm2級の伝送帯域密度が必要になることが国際的に予測されている。PECSTは,「光源搭載型シリコンフォトニクス回路で10Tbitps/cm2を達成する」という目標を具体的に設定した。
3.PECSTの研究開発成果 -システム実証を中心にして-
PECSTでは,産総研のスーパークリーンルームにプロセス技術を集結・蓄積し,光変調器,受光器,光源実装,光配線導波路の小型・高性能化,および集積化技術の開発を推進した。個々のデバイス要素としては,光変調器に関して,側面格子をリング変調器に適用し,高速50Gbitpsで低電圧動作を実現し,小型化と同時に低電圧化を実現した。一方,ゲルマニウム受光器では,エバネッセント結合PIN型受光器の最適化を進め,世界最高レベルの高速性(50GHz動作)と高効率,および小型化を達成した。 PECSTでは,これらの技術を集約することにより,光源搭載型シリコン光フォトニクス回路のデモ実証を行った。高性能光変調器,受光器及び光源を集積化し,最先端光集積シリコンチップを構築し(4.5mm×4.7mm),2013年上期には,チャンネルあたりの光素子面積0.07mm2/chで20Gbitpsの動作を実現し,伝送帯域密度30Tbitps/cm2の性能を達成した。30Tbitps/cm2は,光集積シリコンチップとして公表されているものでは,現時点において,世界最高性能である3)。このようにして,本プロジェクトの最終目標であった10Tbitps/cm2は,1年前倒しで,しかも大幅に目標値を上回る性能で達成することができた。図2は,光配線に関する世界の研究開発動向とベンチマークを示している。チップ間配線性能の目安である伝送帯域密度が30Tbitps/cm2と世界最高を達成し,現状のボードレベルのサーバーのワンチップ化に目途をつけたといえる。 さて,LSIベアチップをフリップチップ実装するシリコン光インターポーザにおいては,LSIからの発熱の問題があるため,高温環境下でも動作する必要がある。量子ドットレーザは,それ自体の低消費電力性に加えて,温度無依存動作や高温動作が可能である。これは,量子ドットのエネルギー離散性に本質的に起因するものである。30Tbitps/cm2の達成をふまえプロジェクトの最終年度において,われわれは,量子ドットレーザの搭載を決意した。ただし,レーザの波長は1.3μmであるため,シリコンフォトニクス回路の動作波長を1.5μmから1.3μmに変更したため,各光要素デバイスの寸法を波長に比例して縮小せねばならず,より高い作製精度が要求された。幸いすべて順調に設計,プロセスが完了し,量子ドットレーザの動作電流,変調器,受光器のバイアス無調整で,25~125℃の広い温度範囲において,12.5Gbitpsのエラーフリー伝送と15Tbitps/cm2の伝送帯域密度を有するシリコンフォトニクス回路を実現することに成功した(図3,ただし,本稿では120℃の動作結果を示している)4)。この成功は,産官学の研究者・技術者が組織の枠を超えた融合的研究開発体制の構築によるものであることは言うまでもない。4.新たな展開 - NEDOプロジェクトの展開-
PECSTの成果を継承するプロジェクトとして,現在,NEDOにおいて低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発プロジェクトが2013年から実施されている。小型・低消費電力・高情報処理能力を有するシリコン光インターポーザの開発が目標である。開発は3期に分かれている。第1期は,超小型の光トランシーバーに向けた光チップ(光I/Oコア)の開発である。第2期は,光I/Oコア技術および光配線技術を駆使した光I/Oコア付LSI基板の開発,第3期は,シリコン光インターポーザの開発を行うものである。現在は第1期であり,光と電気の入出力部と規格化された基板や光ファイバ等の後付け部品を含むモジュールシステムの開発と実用化実証が中核である。マルチモード光伝送路対応であり,波長は,チップ間光配線から局内の光配線まで同一仕様で接続可能となるよう,1.3μm波長帯を用いている。光I/Oコアは,AOC(Active Optical Cable)や光学エンジンへの搭載のみならず,ソケットやLSIパッケージ等への組み込みへの展開も期待される。 図4は,シリコンフォトニクスの将来の方向性を示す図である。今後,産業イノベーション創出により本研究成果の社会に還元をめざす。創造的なビジネスモデルが不可欠であり,高い志,強い情熱,確かな力量,が成功の必要条件といえる。一方で,実用化技術の推進だけに陥ることなく,革新的技術の深耕をしっかりと進めることができる研究活動を継承することが必要である。事業化と革新技術が両輪となることにより,わが国の真の産業競争力復興に向けたイノベーション創出を図ることができる。
5.むすび
PECSTは,大型国家プロジェクトとして成功裏に終えることができた。これは,卓越した研究者・技術者群がそれぞれの高い能力に立脚して,既存の枠を超えて全力で共同研究開発に取り組んだことによる。現在,NEDOプロジェクトにおいて,未来のコンピューターやサーバーを支える光電子集積インターポーザの実用化に向けて,シリコンフォトニクスの開拓を産学官連携のもと,オールジャパン体制で推進している。今後のご支援を期待する。謝辞
本稿で述べた研究は,総合科学技術会議により制度設計された最先端研究開発支援プログラムにより,日本学術振興会を通して助成されたものである。関係各位のご支援,ご協力に対し,厚く御礼申し上げる。参考文献
- Y. Arakawa, T. Nakamura, Y. Urino, and T. Fujita, IEEE Communications Magazine, Vol.51 72-77 (2013)
- 光テクノロジーロードマップ報告書「情報処理フォトニクスロードマップ」, 一般財団法人光産業技術振興協会 , 34ページ ,(2012)
- Y, Urino , T. Shimizu, N. Hatori, M. Okano, M. Ishizaka, Y. Urino, T. Yamamoto, M. Mori, T. Nakamura, and Yasuhiko Arakawa, Photonics Research, 2, A19 (2014)
- Y, Urino et al., ECOC2014 (2014)
広告索引
- (株)ICSコンベンションデザイン418-008
- エドモンド・オプティクス・ジャパン(株)418-997
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- オーシャンフォトニクス(株)418-007
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