OplusE 2015年4月号(第425号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
広がりを見せる光渦
- ■特集にあたって
- O plus E 編集部
- ■光渦の基礎
- 電気通信大学 宮本 洋子
- ■スカラービームとベクトルビーム
- 東北大学 佐藤 俊一
- ■軸対称偏光素子を用いた光渦の生成と白色光渦およびリング状光格子生成への応用
- 北海道大学 岡 和彦,坂本 盛嗣,山根 啓作,森田 隆二
- ■光渦のファイバ通信応用
- 情報通信研究機構 淡路 祥成
- ■光渦レーザーが創るキラル螺旋構造体
- 千葉大学 尾松 孝茂
- ■z偏光ラマン顕微鏡
- 大阪大学 齊藤 結花
- ■STED顕微鏡法-光渦を用いた誘導放出制御による超解像バイオイメージング
- 北海道大学 大友 康平,日比 輝正,根本 知己
- ■「第二の地球」発見を目指す光渦コロナグラフ
- 北海道大学 村上 尚史
特別企画
- ■国際画像機器展2014 特別招待講演
- 社会インフラ・モニタリングシステム研究会代表 小林 彬
連載
- ■【一枚の写真】圧力をかけると光る応力発光印刷
- 大日本印刷 青山 祐子,前川 博一
- ■【私の発言】光は誰をも惹きつける 楽しそう! 面白そう! を広げてみる
- サイバネットシステム 執行役員 西郡 恵美子
- ■【光エレクトロニクスの玉手箱】第26章 周期構造に出会う光(その2)
- 伊賀 健一,波多腰 玄一
- ■【コンピュータイメージフロンティア VFX 映画時評】
- Dr.SPIDER
- ■【ホビーハウス】錯視物体の本いろいろ(第5報 奥行反転錯視について)
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
特集にあたってO plus E 編集部
光学界にとって2014年は,日本人3名の青色LEDの研究によるノーベル物理学賞が大きな話題になった。実は,ノーベル化学賞の米ハワード・ヒューズ医学研究所のベッツィヒ,独マックスプランク研究所のヘル,米スタンフォード大学のモーナーの3人による「超高解像度の顕微鏡を開発」も,まさに光学分野である。目的のタンパク質にある蛍光物質が出す光を観察するときスポットを取り囲む領域に別の光(STED光)を当てることで蛍光を止め,観測スポットから出てくる蛍光だけを捉える蛍光顕微鏡である。2000年には,このSTED顕微鏡により高解像度で大腸菌を撮影して注目を集めている。一見すると光渦は,顕微鏡は関係なさそうであるが,後ほど述べるように大いに関係がある。今月号の特集は,「広がりを見せる光渦」と題して,近年注目を集めている光渦を取り上げた。光渦は,伝播軸のまわりにらせん状に波面がねじれた光とか軌道角運動量持つ光である。光の位相は進行方向に方位角に比例し,光強度を見ると中央に暗点をもつドーナッツ状のビームとなっている。主な発生方法は,レーザーの発振制御,ホログラム,空間位相変調器(SLM),偏光制御などによって試みられている。当初,光渦は,発生のメカニズムや波動方程式を利用した理論解析など主に研究分野にとどまっていた感があったが,最近,STED顕微鏡のように応用面でも使われ始めている。最近では,O plus Eでも別の切り口の特集の一部として,また,いくつかの専門誌1)~3)やシンポジウム4)においても光渦が議論されている。
本特集では,光渦の名前を聞いたことある人,初めて聞く人や聞いたことがあるが何だかよくわからないと思われている読者の方々にも理解いただけるように,光渦の発生の基本原理から応用まで8名の先生にご執筆をお願いした。まず,宮本洋子氏には,「光渦の基礎」と題して,特異光学の視点から,光渦と位相特異点,ラゲールガウスビームおよび軌道角運動量について解説していただいた。
次の,佐藤俊一氏には,「スカラービームとベクトルビーム」と題して不均一な偏光分布を持つベクトルビームについて解説をお願いした。スカラービームとの相違について解説をお願いした。ここでは,レーザー発振器に様々な工夫を凝らすことによってベクトルビームを発生している。
岡和彦氏には,軸対象偏光素子や軸対象半波長板の組み合わせと幾何学的位相による光渦の作成方法を解説していただいた。軸対称偏光素子の配列を変えたり多段化したりすることによって,任意の偶数次トポロジカルチャージを作りだすことが可能となった。また,電気光学変調器によって左回り円偏光と右回り円偏光の位相差を与えることによって,パターンを最大1GHz程度で高速に回転させることができており,偏光変調しかできない新たな応用として興味深い。さらに幾何学的位相は波長に依存しないのでアクロマティックな光渦の作成や変調ができることもSLMなどと比較して新たな可能性を持っている。
NICTの淡路祥成氏には「光渦のファイバ通信応用」と題して,光渦が軌道角運動量を保持したままファイバ中を伝播させる光ファイバ通信に付いて解説していただいた。光渦でインターネットの帯域を広げる試みとして新たな実用先にとして興味深い。一般に光渦が光ファイバを安定して伝搬できると言うのは,長年不可能と考えられておりそれ自身も研究としてとても興味深い。ここでのファイバは,7つのコアを持つマルチモードファイバからできておりコア間のクロストークは100km伝播時でも−70dB以下という。また,3D導波路をもちいることで光渦合成と自由空間系での通信実験も試みられているという。昨今の海外の動向でもボストン大学のグループは,光渦に対応可能な光ファイバを開発し,実際に全長1kmの光ファイバを経由によって最大1.6Tbitpsの速度で大容量データを送信可能だという5)。これは,1秒ごとにブルーレイディスク8枚分のデータを送信することに相当する。
尾松孝茂氏には,「光渦レーザーが創るキラル螺旋構造体」と題して光渦によって螺旋針(キラル螺旋構造体)の作成について解説していただいた。これは,角運動量が物質(タンタル)の構造を変えることを示す世界最初の実験結果である。さらに,銅や半導体材料にも構成でき,アゾポリマーに光渦を照射することで,キラルな螺旋表面レリーフに変形を達成している。将来的には,ナノコイルやナノネジなどができるといい今後の工業的応用が楽しみである。
次の齊藤結花氏には,「z軸偏光ラマン顕微鏡」について解説をお願いした。必ずしも光渦そのものを使ったものではないが放射状偏光やz軸偏光を用いているところで今回,ご執筆をお願いした。この顕微鏡は,薄膜試料の分光スペクトルと配向情報を同時に計測できるが,ここではラマン散乱と組み合わせた高NA顕微鏡と近接場光学顕微鏡が述べられている。
大友康平, 日比輝正,根本知己氏には,「STED顕微鏡法-光渦を用いた誘導放出制御による超解像バイオイメージング」と題して,LCOS空間光変調器(SLM)によって作成された光渦を持いたSTED顕微鏡のバイオイメージングについて解説していただいた。蛍光抗体法にて標識した固定培養細胞の観察で,通常の二光子励起顕微鏡では判別が困難な微小管ネットワークの詳細を可視化することができている。
最後は,村上尚史氏に「「第二の地球」発見を目指す光渦コロナグラフ」と題して,光渦の天文への応用としてコロナグラフの解説をお願いした。地球以外に生命を宿す惑星をコロナグラフによって探すという壮大なプロジェクトである。ここでの問題は,太陽と地球の光強度比が1010の例のように,強い光強度を持つ惑星の周りの惑星を見つけることである。ここでは,軸対象位相板を用いた偏光によるアクロマティック光渦を用いた光渦コロナグラフのデモ実験が示されている。
以上のように,本特集は,基礎から応用まで網羅することで,今後多くの方に光渦に興味を持っていただき,益々利用されることを願っている。最後に,ご多用中にも関わらずご執筆を御快諾いただいた著者の皆さま,関係者の皆さまに心から感謝申し上げる。
参考文献
- 本宮佳典: 波動光学の風景 光ビーム編(2014,アドコムメディア電子版)
- 特集「光渦・偏光渦が生み出す新応用」: 光学,42,12 (2013)
- 特集「奇妙なレーザービーム」, 光アライアンス ,4 (2009)
- OPJ2014・シンポジウム「偏光と渦とその応用」 , 偏光計測・制御技術研究グループ(2014)
- N.Bozinovic, Y.Yue, Y.Ren, M.Tur, P.Kristensen, H.Huang,A.E.Willner, S. Ramachandran : Terabit-Scale Orbital AngularMomentum Mode Division Multiplexing in Fibers, Science,340, 6140, p.1545,(2013)
広告索引
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