OplusE 2015年9月号(第430号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
量子光工学
- ■特集にあたって
- O plus E 編集部
- ■量子ドットもつれ光子源
- 物質・材料研究機構 黒田 隆
- ■量子ネットワークの実現に向けた高速量子もつれ交換
- 電気通信大学*,情報通信研究機構** 清水 亮介*,金 鋭博**,佐々木 雅英**
- ■量子テレポーテーション
- 東京大学 古澤 明
- ■シュレディンガーの鳥とラジカル対機構
- 埼玉大学 前田 公憲
- ■量子もつれ光の光計測への応用
- 京都大学 岡本 亮,岡野 真之,竹内 繁樹
特別企画
- ■画像センシング展2015 招待講演レビュー
- オムロンヘルスケア 志賀 利一
連載
- ■【一枚の写真】液晶媒質中の「欠陥」を制御する
- 大阪大学*,産業技術総合研究所** 吉田 浩之*,福田 順一**,尾﨑 雅則*
- ■【私の発言】国民を喜ばせ,国民に夢を与えたというのが一番の褒め言葉
- 国立天文台 台長 林 正彦
- ■【光エレクトロニクスの玉手箱】第31章 光ファイバー:光で防ぐ世界(その2)
- 伊賀 健一,波多腰 玄一
- ■【コンピュータイメージフロンティア VFX 映画時評】
- Dr.SPIDER
- ■【ホビーハウス】目玉にこだわる-しかけ絵本とおもちゃ-
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
特集にあたってO plus E 編集部
本年の三月に東洋大学白山キャンパスで開催された精密工学会の春季大会の中での「量子光工学の現状」なるシンポジウムを聴講することができた。観測によって光の状態が大きく変わり,量子力学で取り扱わなくてはならなくない光のふるまいや光と物質の相互作用の研究(=量子光工学)の現状を紹介することを趣旨として,最新の研究成果等を著名な先生方が,できるだけ難しくないようにお話しいただいたのであろう。だが,正直,理解することが難しく,消化不良のまま,聞いてる方の頭が「もつれてボアー」とする等のクダラナイことを考えながら帰宅した覚えがある。
そこでリベンジとまでは考えないが,少しでも理解を進めるために本誌の特集としたいと思っており,今月号,2015年9月号で具現化することとなった。特集名を,『量子光工学』と称して,五件の最新の研究成果のご紹介をしていただく。
以下に簡単に,各記事の内容を記載する(実際には,すべてを伝聞調で記載すべきですが,お許しください)。
まず最初の記事は, 物質・材料研究機構の黒田 隆氏ご執筆の『量子ドットもつれ光子源』である。
量子ドットは,大きさが,幅30ナノメートル,高さ1.5ナノメートル程度の半導体の微結晶であり,この量子ドットに伝導電子を注入すると,正孔と再結合して単一の光子が発生する。2個の伝導電子を注入すると,原子カスケードと呼ばれている2個の光子が連続して発生し,それらは量子的にもつれあう。1対のもつれ対を,望みのタイミングで,100%の確率で発生できるので,量子ドットは,理想的なもつれ光源である。
この量子ドットの作製方法は,自然まかせの自己形成に頼っており,個々のドットに応じて,わずかに歪んだ非対称な形状となる。そのため,光学特性(偏光特性)が異方的となり,結果として,量子もつれの発生を妨げている。量子ドットの成長基板であるガリウムヒ素など立方晶の化合物半導体の(111)面に,オリジナル技術の液滴エピタキシー法により真円で対称な形をした量子ドットの作製をした。
二番目の記事は,電気通信大学 先端領域教育研究センター清水 亮介氏,情報通信研究機構 量子ICT研究室の金 鋭博氏,佐々木 雅英氏ご執筆の『量子ネットワークの実現に向けた高速量子もつれ交換』である。
量子もつれ交換とは,地点A,B間,及び地点B,C間でそれぞれ量子もつれ光子対A-B 及びB-Cを共有し,中間地点Bにおいて各対の光子2つにベル測定と呼ばれる操作を行うことで,本来,相関の無かった地点A,C間に量子もつれ相関を形成する手法である。
開発された量子もつれ光源と超伝導ナノワイヤ単一光子検出器とを組み合わせて行った,通信にとって実用的な波長である1.5μmの通信波長帯における高速量子もつれ交換実験について紹介していただいた。
この実験結果では,1秒間に108回の量子もつれ交換を達成し,この実験によって従来(10秒ごとに1回程度)の1000倍以上の高速化を実証することに成功した。
今後,さらなる高性能化を行い,自由空間通信施設を使った量子情報通信技術へと展開することで,量子ネットワークの実現に向けた技術開発を進めていく予定である。
三番目の記事は, 東京大学大学院工学系研究科の古澤 明氏に『量子テレポーテーション』と言う題目で,ご執筆いただいた。
本記事では,「量子オペアンプ(量子演算増幅器)」としての量子テレポーテーションについて紹介し,応用的な側面を解説する。
量子テレポーテーション装置(あるいはそれを集積化したチップ)は「量子オペアンプ」(量子演算増幅器)と言え,この方法の大きな利点は,補助入力を変えるだけで,種々の演算を行えることである。電気回路のオペアンプ(演算増幅器)のように,量子テレポーテーション装置を用意しておけば,オペアンプの外付け素子のように補助入力を変えるだけで,種々の演算を行うことができる。したがって,量子テレポーテーション装置を精密に作っておけば,さらにそれを集積回路化してワンチップにしておけば,それを用いて複雑な量子回路(=量子コンピューター)を作ることができる。
四番目の記事として,『シュレディンガーの鳥とラジカル対機構』なる題目で,埼玉大学大学院理工学研究科の前田 公憲氏に執筆していただいた。
「シュレディンガーの鳥」と言うフレーズはオックスフォード大学のVlatko Vedral教授によるScientific Americanの記事“Living in a quantum world”に端を発しており,「シュレディンガーの猫」のパラドックスをもじったものである。このため非常にミステリアスな内容であるかの様に捉えられがちであるが,渡り鳥のコンパスの元となるラジカル対理論は,量子力学をベースとしてスピン化学と呼ばれる学問領域では広く受け入れられており,決してエキセントリックな物ではない。
ラジカル対とは近接して存在する2つのラジカル(遊離基)で,2つの電子スピンが離れて存在するもの(電子スピン対)と考えることができる。
本記事では,渡り鳥コンパスに関連して量子力学の効果としてのラジカル対機構について,あまりとっぴな内容とならないように,わかりやすく解説する。
最後に,京都大学大学院工学研究科の岡本 亮氏,岡野 真之氏,竹内 繁樹氏に『量子もつれ光の光計測への応用』と言う題目で,ご執筆していただいた。
この記事においては,光子の量子もつれ合い状態を用いた計測として,光子の数に関して,もつれ合った状態を用いた量子もつれ顕微鏡と,光子がその周波数に関して,もつれ合った状態を用いた光断層撮影法(量子OCT)に関する二つの研究の実験結果を紹介する。(OCT:Optical Choherence Tomography)
量子もつれ顕微鏡では,通常の微分干渉顕微鏡と比較すると,結像した像の信号雑音比は,1.35倍,良好な結果となった。
量子OCTの実験結果では,サンプル経路中に分散媒質(眼球の厚みに相当する25mm厚の水)を挿入した場合,通常のOCTでは干渉信号幅が約37μmと大きく拡がり,大幅な分解能低下となるのに対し,信号幅は約3.0μmと,分散媒質の挿入が無い場合と変わることなく,高分解能を維持する結果となった。
O plus E誌においては,今後も量子光工学を将来,使用されていく必要かつ重点技術と認識し,研究動向の調査を続けていく意向であり,適時,特集を組んで読者の皆さまにご紹介していきたい。
広告索引
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