OplusE 2016年2月号(第435号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
化合物半導体光集積デバイスの展望
- ■特集にあたって
- O plus E 編集部
- ■デジタル・コヒーレント通信応用の半導体光集積デバイス
- NTT 石井 啓之
- ■面発光レーザー集積デバイスの新展開
- 東京工業大学 小山 二三夫
- ■低エネルギー動作直接変調メンブレンレーザー
- NTT 松尾 慎治
- ■フォトニック結晶ナノ共振器を有する量子ドットナノレーザー
- 東京大学 荒川 泰彦,岩本 敏,太田 泰友
- ■光通信システム・データセンター用半導体集積光スイッチ
- 東京大学 種村 拓夫,中野 義昭
- ■フォトニック結晶レーザーの医療応用
- 横浜国立大学 馬場 俊彦
- ■化合物半導体と異種材料との接合技術
- 上智大学 下村 和彦
特別企画
- ■国際画像機器展2015 特別招待講演
- 北海道大学 野口 伸
連載
- ■【一枚の写真】空間の設計士が顧客や従業員と協力してレイアウトを検討できるシステム「Dollhouse VR」
- 産業技術総合研究所* 東京大学** がんこフードサービス*** 杉浦 裕太*,尉林暉**,坂本 大介**,チョントビー**,宮田 なつき*,多田 充徳*,大隈 隆史*,蔵田 武志*,新村 猛***,持丸 正明*,五十嵐 健夫**
- ■【私の発言】研究者として成功するためには新しい発明と併せて大いなる努力が必要
- KLA-Tencor Corp CTO Dr. Ben Tsai
- ■【第11・光の鉛筆】3 NewtonとYoungの間 18 世紀色彩論の担い手たち
- 鶴田 匡夫
- ■【波動光学の風景】第116回 118. ブラベー格子
- 東芝リサーチ・コンサルティング 本宮 佳典
- ■【光エレクトロニクスの玉手箱】第36章 多彩な役目の微小光学(その2)
- 伊賀 健一,波多腰 玄一
- ■コンピュータイメージフロンティア
- Dr.SPIDER
- ■【ホビーハウス】ホログラムメガネ,プリズムメガネ,双眼鏡メガネの話題
- 鏡 惟史
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
特集にあたってO plus E 編集部
化合物半導体光集積デバイスの展望
近年,光デバイスの集積化の進展が進んでいる。そのコンセプト自身は,1960~1970年代に半導体レーザー,受光器の研究開発が個別に開始されたころから提唱されており1),2),1980年代後半~1990年代前半にかけて光通信用途として複数の機能素子を数10個同一半導体基板上に集積化する取り組みもされていた3),4)。しかしながら,まだコスト面では作製技術の難しさからシリコン集積回路のような低コスト化・性能向上のメリットがなく,大きな進展はなかった。その状況が,FTTH(Fiber to the Home)の世界的な導入と,インターネットの成長に基づいて様々なデータをユーザーに提供する環境により変化した。またユーザーの情報を蓄積することで新たなサービスに結びつけるために構築されたデータセンターによって,ネットワーク機器やデバイスへの要求も大きく変わってきた。通信ネットワーク機器としては,信号あたり100Gbit/s以上の高速信号を多ポート実装する要求が高く,光送受信モジュールのサイズは当初の幅80mm程度から4分の1へと小型化の方向に絶えず進展している。またデータセンターは,数10万台~数100万台のサーバー間を,通信ネットワーク機器を介して接続する必要があるため,小型化に加えて低消費電力化・低コスト化への要求がさらに高まっている。一方,通信以外への光技術の展開も少しずつ広がりを見せ始めており,医療系での非浸襲の測定,検体の高精度な評価用に超小型・低コストの光源を導入する動きも活発になってきている。以上の要求に応えるために,現在の光デバイス研究開発では集積化のトレンドが主流となってきた。
光デバイスの集積化技術にも,大きく分けてハイブリッド集積とモノリシック集積(異種材料を基板段階で融着するヘテロジニアス集積を都合上含めさせていただく)に分けられる。また性能やコスト面の比較という意味では,従来の個別部品の小型・高密度実装も対象となるであろう。以上の3種類の形態に対して,各機能の特性最適化・小型化・実装密度・組み立て工程の難易度・コストを比較したものを表1に示す。個別部品の実装の場合は,機能ごとの最適設計はしやすく,また成熟した従来の実装技術を基に対応できる。一方,コストの大きな部分を占めると言われる組立工程については,多入出力ポートへの対応を迫られる段階では大きな課題となる。これに対して,シリカ材料で光導波路を形成する平面光波回路上に受光回路などの半導体デバイスを実装した上で,さらに光ファイバや電気出力を接続するハイブリッド集積の場合は,光入出力の調整を行いながら位置決めをするアクティブアライメントではなく,位置決めの目安に従って組み立てることで光の結合を要求仕様内に収めるパッシブアライメントも導入できるため,負担減も可能である。ただし,複数入出力対応の観点からは,一括で組み立てることは容易ではなく,その対応を考えると結局はアレイ状のデバイスを実装する方向を考えることになる。また材料的に導波路への光閉じ込めの低いシリカ系デバイスの低損失性を活用できるトレードオフとして,サイズの縮小に限界がある。モノリシック集積の場合は,同一材料で導波路や光源・受光器を構成でき,半導体光導波路の高い光閉じ込め効果によってサイズが大きく縮小できる。また機能別の素子(光源・光導波路・合分波器・フィルター・受光器など)間の光結合についても,デバイスの作製段階で構成できるため,実装段階での負担も軽減できる。ただし,一括形成のトレードオフとして近接した場所に異なる機能を作製することから個別部品の最適化には結晶成長上の高度な技術が必要であり,また光アイソレータの挿入が困難になるため反射光への対応が容易でないなどの課題もある。さらに,デバイスの歩留まりによって大きく影響されるコストについては,まだ解決しきったとはいえず,今後も最大の課題になるであろう。その課題を解決できた暁には,光集積回路のメリットが明確となると思われる。
次に光集積デバイスの中で化合物半導体とシリコン系を比べてみたのが表2である。ここで,本特集で主に対象とする化合物半導体とは,2種類以上の元素から構成される半導体を指し,特にGaAsやInPを2元混晶基板として用い,その他の13族・15族元素を導入した3元・4元混晶を用いた材料を指している。2014年9月号で特集として取り上げたシリコンフォトニクス技術を用いると,化合物半導体の場合よりも屈折率導波構造での強い光閉じ込めを実現できるため小型化の意味では有利であり,またその結果小さな電力投入による動作も可能となり,消費電力低減の観点からも優位性が示されている。またシリコン基板は化合物半導体基板よりも面積比で10倍の大きさであることから低コスト化も実現しやすい。ただし,シリコンフォトニクス技術にも受光器の信頼性に関して依然課題があり,最大の課題はシリコン自体で高効率な発光デバイスの作製が困難なことである。シリコンあるいはシリコン上に成長したゲルマニウムに強い歪を加えて直接遷移のバンド構造に変化させる研究も地道に行われているものの,化合物半導体に一日の長があり,当面は化合物半導体の助けを借りるヘテロジニアス集積技術が利用されることになろう。また,強い閉じ込めによる小型化の副作用として,光ファイバとの接続に難点があり,低損失化のための構造を新たに組み込む必要が出てくる。以上から,発光デバイスを必要とする用途には,何かの形で化合物半導体が必要とされ,小型化・低コスト化を同時に実現可能な手段を今後模索していくと思われる。
以上,光集積デバイスの技術および化合物半導体デバイスの位置づけを述べてみた。現在の化合物半導体集積デバイスに関わる技術の動向,その内容と今後の展開を見通すことを目的として,今回の企画を立ててみた。
まず光通信用途の送受信回路の集積化技術の動向について,NTT先端集積デバイス研究所の石井啓之氏にご執筆いただいた。
次に,通信用光源の低消費電力化の観点より,また通信以外の用途への展開に幅を広げていく垂直共振器型面発光レーザーの集積技術の新たな展開について,東京工業大学の小山二三夫教授にご執筆を依頼した。
光通信用としては,前述の通り大きな低消費電力化に向けてフォトニック結晶を実装した半導体レーザー光源技術に関してNTT先端集積デバイス研究所の松尾慎治氏より,また発光層に量子ドット構造を導入する究極的な性能発現の可能性について東京大学の荒川泰彦教授・岩本敏准教授・太田泰友特任准教授のグループより記事をご執筆いただいた。
光源だけでなく,光通信ネットワークの経路制御の柔軟性や低消費電力化に貢献が期待される光スイッチに関して,東京大学の種村拓夫准教授・中野義昭教授のグループから,独自構成の集積技術の成果についてご報告いただくこととした。
さらに,医療系計測への応用に大きく展開を目指しているフォトニック結晶レーザーについて,横浜国立大学の馬場俊彦教授に最近の研究内容をご紹介いただくこととした。
最後に,発光デバイスを含めたアクティブデバイスを集積するための異種材料の基板接合技術の技術動向を,ご自身の最近の研究成果も含めて上智大学の下村和彦教授にご執筆いただいた。
化合物半導体集積デバイスの今後の研究開発,実用化動向は,光通信用途だけでなく,非通信用途にもどのように展開していくのか,目が離せない。その状況について興味を抱いていただければ幸いである。
参考文献
1) S.E. Miller, “Integrated optics : An introduction”, Bell Syst. Tech. J., Vol.48, No.7, pp. 2059-2069 (1969).
2) Y. Suematsu, “Monolithic integration of optical circuit and related twin-guide lasers”, in Tech. Dig. IOOC’77, B1-1, pp. 185-188 (1977).
3) H. Takeuchi, K. Kasaya, Y. Kondo, H. Yasaka, K. Oe, and Y. Imamura, “Monolithic integrated coherent receiver on InP substrate”, IEEE Photon.
Technol. Lett, Vol.1, No.11, pp. 398-400 (1989).
4) R. Kaiser, F. Fidorra, D. Trommer, S. Malchow, P. Albrecht, D. Franke, H. Heidrich, W. Passenberg, H. Schroeter-Janßen, R. Stenzel, W. Rehbein, “Integration of a tunable 4-section DBR laser within polarization diversity heterodyne receiver PICs”, International Conference on Semiconductor Laser (ISLC), M4.1 (1994).
表1 各種実装・集積技術の比較
個別部品の実装 | ハイブリッド集積 | ヘテロジニアス集積・モノリシック集積 | |
特性最適化 | ○ | ○ | △ |
小型化 | × | △ | ○ |
実装密度 | × | △ | ○ |
組立工程 | △ | ○ | ○ |
コスト | ○ | ○ | △ |
表2 化合物半導体とシリコン光集積技術の比較
化合物半導体とシリコン光集積の比較 | |
サイズ | シリカ>化合物>シリコン |
消費電力 | 化合物>シリコン |
素子性能 | ・高速性においては,シリコンは化合物に近づく ・PD暗電流など,格子不整合に起因した課題あり |
実装面 | ファイバとの結合において,シリコン細線はより工夫が必要 |
コスト | 基板面積がシリコン>> 化合物なので,シリコンは低コスト化の可能性大 |
備考 | 高効率発光デバイスは化合物のみ。 シリコンは14族発光以外に化合物の利用検討中 |
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