OplusE 2016年3月号(第436号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
仮想現実を作り出す最先端技術VR(バーチャルリアリティ)の応用
- ■特集にあたって
- O plus E 編集部
- ■バーチャルリアリティの基礎
- 東京大学 廣瀬 通孝
- ■バーチャルリアリティ技術駆使の新しい開発とものづくり
- 本田技術研究所 内田 孝尚
- ■VRと数値解析を連携した建築物の広域景観評価システム
- 大成建設 佐藤 大樹
- ■3D VR(バーチャルリアリティ)技術の活用によるバリューチェーンイノベーション
- 三菱重工業 山﨑 知之,仲谷 尚郁,原口 延寿
- ■3D仮想メガネがゲームを変える
- 新 清士
- ■バーチャルリアリティ技術のファッション分野での利用-今と昔
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
特別企画
- ■国際画像機器展2015 特別招待講演
- 鵜飼 正人
連載
- ■【一枚の写真】Noncontact Crucible(NOC)法による直径比の大きな大口径シリコンインゴット単結晶の成長技術と新しい展開分野
- FUTURE-PV Innovation JST 郡山サイト 中嶋 一雄
- ■【私の発言】日本では優秀な技術者は育つけれどもアーキテクトが育ちにくい
- 名古屋大学大学院教授(電子情報システム専攻) 佐藤 健一
- ■【第11・光の鉛筆】4 色覚異常と生理学的3 原色仮説 BoyleからPalmerまで
- 鶴田 匡夫
- ■【干渉計を辿る】第1章 白色干渉計を用いたレンズ厚測定
1.3 参照用平行平面板の高精度厚さ計測-等傾角干渉縞とExcess fraction method - 市原 裕
- ■【光エレクトロニクスの玉手箱】第37章 多彩な役目の微小光学(その3)
- 伊賀 健一,波多腰 玄一
- ■コンピュータイメージフロンティア
- Dr.SPIDER
- ■【ホビーハウス】「面白いメガネ」の話題の続き
- 鏡 惟史
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
表紙写真説明
大成建設では,建築物の設計・建設に,VR(バーチャルリアリティ)システム「Hybridvision」を開発・運用している。Hybridvisionは,スクリーンの中にすべての視野が入る幅4.2m,高さ2.4mの大型スクリーンを使用,液晶シャッター眼鏡を使って立体視かつ実物と同じスケールで建築物を再現し,空調・照明・音響等の様々な数値解析による技術検証結果を融合して可視化できる機能を持つ。特集にあたってO plus E 編集部
仮想現実を作り出す最先端技術VR(バーチャルリアリティ)の応用
バーチャルリアリティ(VR)とは「コンピューター等によって人工的に合成された実際には存在しないところの仮想的現実」という意味である。このVRという言葉が初めて使われたのは1989年であった。すなわち,今から27年前である。しかし,当時はこのための装置・デバイスが,現在に比べて非常に高価であって,とても一般の人が購入できる代物ではなかった。ところが,今年は,3月から6月にかけて各社から,バーチャルリアリティ用の手っ取り早いデバイスとしてのヘッドマウントディスプレイ(HMD)が,価格も数万円程度で発売が予定されている。さらには,最近広く普及しているスマートフォンへアタッチメントを取り付けるだけでVRが体験できるのも紹介されている。今年は,NHK朝のニュース担当者の女性アナウンサーも口にしているほどのVRブーム到来の年であると言っても過言ではない。そこで,本誌ではVR特集として,基礎と原理,ものづくりへの応用,大規模な建築物評価システムへの応用,造船・重機製造への応用,コンピューティショナルゲームへの応用,さらには,まだVRという発想のなかった大正期からデパートなどで展開されていた着せ替え人形と同じような女性のファッション分野への応用までを,それぞれの専門家に執筆していただくことができた。
まずは,本特集の総論という形で,バーチャルリアリティの基礎に関して東京大学の廣瀬通孝先生にご執筆していただいた。初心者でも容易に理解できる内容である。すなわち,VRには3個の大事な要素が含まれているという。第一に,臨場感(P)という要素,第二にキーボードなどによらず手で握るとか,足で歩くなどのような身体性を伴う対話性(I)という要素,第三に合成された世界の中に物理法則が作り込まれていることを意味する自律性(A)という要素である。この3要素を各軸とするAIPキューブなる概念はVRを数値化する点で大変興味深い。このようなVR技術の基本の他に,超臨場感についても触れられている。我々自身と現実世界とのかかわりにおいて「情報フィルター」を介在させようという技術の紹介である。これによって超越した臨場感を持つことができると言われる。これに似た技術は,なんとレーザーもコンピューターも存在しなかった大正期のデパート(本特集の鏡 惟史氏ご執筆)でのファッション鏡に存在しているのも興味深い。
ものづくりへのVR技術応用としては,本田技術研究所の内田孝尚氏に執筆していただいた。その中で,従来のVR技術の製造業での活用例が,Styling/ Designing/Marketing中心だったのが,最近では従来にはほとんど無かったDevelopment/ Engineering/ Productionでの活用例が多く発表されているということである。そして開発業務での活用例を自社の自動車を例に,わかりやすく説明されている。従来は,工場の各工程で独立してVRを活用していたのが,最近では同じ3Dデータをそのまま次の工程に渡すことが必須となっているとのこと。その理由が①色・表面性状の表現技術,②基準の標準化とルールの整備にあるという。その結果,データの流れが各工程間の壁を取り外しつつあるとのことである。
大成建設の佐藤大樹氏は,VRと数値解析とを連携させて,山の中とか丘の上とかの広域景観評価システムへのVR応用を具体的に紹介いただいた。従来から,建物の建築主,設計者,施工者の間で建築プランの事前確認,情報共有,合意形成支援のためのVRシステムを開発し運用しているらしく,これはスクリーンの中にすべての視野が入る大型スクリーン(4.2m×2.4m)と液晶シャッターメガネとを使用して3D画像を実物と同じスケールで建造物を再現する方法である。建築物の形状とか見栄えなどのデザイン検証のためのVR画像へ空調・照明・音響など様々な数値解析による技術検証結果も融合させ,本誌表紙写真で表示したように,データセンターの空調気流をVRで可視化できるという機能も付加できている。環境要素ごとの個別解析結果をVR画面上の一つの表現として共通化させて,普通は目に見えない風の流れや気温の拡がりなども仮想体験できる。これは建築物の総合的性能を理解する上で極めて効果的な手法であると思われる。さらに,より広い周辺地域に対する建築物の景観影響評価を,任意の視点からの透視図や風景写真と建物完成予想図の合成写真が建物の外観デザイン検証の延長として使うことができる。幹線道路,交差点,観光スポットなど,見え方が重要と思われる地点を建築主や設計者が,対象視点に選ぶことが可能である。建築プラン時に,街並みとの調和や自然風景との融合などの景観配慮の重要性が叫ばれている折から,建築知識に関係なく誰でもが理解できるわかりやすい方法の一つであろう。これまでは,建築物の単体評価か,せいぜいその建物が含まれる街区もしくは数区画の街区スケールで広域景観評価システムが用いられてきた大成建設では,計画建築物を中心にして数kmから10kmにおよぶ広範囲に拡張したスケールで広域景観評価システムを開発していることが紹介されている。そして,自然公園内に建築される大規模生産施設の例や都市部に建設する業務用ビルの例を事例にして詳述していただいており大変興味深い。
三菱重工業では,生産する全製品を対象に,VR技術を用いたこれまでにない業務のやり方を開発し,製品開発,製造の高品質化,製造の迅速化を実現している。同社の山﨑知之,仲谷尚郁,原口延寿氏には,閲覧者の視線方向を計測したうえで,それに合わせた映像を3Dプロジェクターで表示する没入型のVR設備(CAVEと称される3D可視化システム)を中心とした運用体制の構築と同社の設計・解析・営業・製造・アフターサービスの各段階での業務事例を紹介していただいた。同社の3D VRの業務適用におけるシステム構成は,3D可視化システムとして同社で使用中の各種CADとCADディスプレイ,解析ポストプロセッサー,CADデータ変換ツール,暗号化された大容量ディスクドライブから成り立っている。3D可視化システムを経由したCADデータの核となる活用先は 上述したCAVEシステムでの原寸大立体表示である。このCAVEシステムは同社総合研究所内に設置され,同社グループすべての戦略的ビジネスユニット(SBU)の製品業務適用に対応しているとのこと。これが,設計レビューや解析結果の可視化などに活用されているという。プラント製品全体の3Dモデルや津波などの大規模シミュレーションのスムーズな可視化を実現している。
米大手投資銀行ゴールドマン・サックスの今年の予測によると2025年の全世界のVR関連市場は800億ドルで,そのうちソフトウェア関連が350億ドルである。ゲームは116億ドルと全体の33%を占めているので,VRにおけるヘッドマウントディスプレイ(HMD)の最大の市場はゲームであると説かれるジャーナリストの新 清士氏に執筆していただいた。前述したように,今年の3月から6にかけて各社から,バーチャルリアリティ用のヘッドマウントディスプレイ(HMD)が,価格も数万円程度で発売が予定されているので,これらは,例えば,据え置き型ゲーム機の周辺機器として登場することも期待されている。本年はVRが,一般ユーザーにも拡がるVR元年,すなわち,ゲームがVR市場の立ちあがるのを引っ張る存在になろうという。このゲームには,専用HMDを用いるハイエンドVRとスマートフォン向けのモバイルVRとがあるが,ゲーム市場を大きく変えるとみられているのは前者の方であると新氏は説いている。しかしながら,関連するパソコン購入は,まだ高価なため少しハードルが高いという。VR HMDの登場というのは1994年のプレースティションの登場に匹敵するとも言われる。家庭用ゲーム機向けに初めてリアルタイム3Dを実現する専用チップを搭載して3D CG表現を一気に家庭内に定着させよう。これによりVRが現実世界と同じであるように感じられる。例えば,宇宙空間で戦闘機を操縦し数人でプレーするゲームの場合,戦闘機のコックピットにはたくさんの計器類が並んでおり,その外側には宇宙が広がって巨大な宇宙戦艦なども浮かんでいる。そこに来襲する敵の戦闘機と激しいドッグファイトを展開することになる。今までのゲームと根本的に違うのは,画面外に敵が逃げてしまっても,頭をその方向に向けると,その方角で敵を追いかけることができれば,現実世界のように追いかけることができるという点である。このように没入感と実在感とを味わうことに成功している。ゲームの途中でキャラクターがプレーヤーに顔を近づけるシーンでは,CGのキャラクターであることがわかっていても,現実の人間が近づいて来たかのように緊張してしまう。これをパーソナル空間とよばれる自分の身体周囲1m程度の無意識に設定している縄張りで,他人が入り込むことで起きる現象といわれる。相手が現実ではないのにもかかわらず,脳が勘違いすることで引き起こされるという。今までのモニターでのゲーム体験では決して起こらなかったことと述べておられる。HMD VRは,最終的には人間とコンピューターとの関係性を変えるとも述べている。パソコンは50年近くキーボードとモニター画面という組み合わせで発達してきた。しかし,VR空間内ですべての作業を快適に行うことができるようになれば,物理的空間の広がりの制約を受けなくなり,見えてる空間内に何十個でも同時に表示できるプラザを実現する可能性もある。その鍵となるのはVRならではのユーザーインターフェースを実現する新しいコントローラーである。新氏はいくつかの新型コントローラーを紹介している。
本特集の最後には,「バーチャルリアリティ技術のファッション分野での利用-今と昔」と題して,本書に長年寄稿され続けておられる鏡 惟史氏が,とてもわかりやすいVR技術を紹介している。人間は衣服を実際に着替えること無く次々と取り替えてみたいという欲求を持っている。これを満たす一例として,光学系と映写機とを利用した半透明鏡合成技術が昔から存在しているが,鏡氏は,これらのバーチャル試着の仕掛けを,特許公開公報を中心にわかりやすく解説しているので,VRを初歩から理解したい読書層にとっては大変親しみやすい文章であると思われる。
以上6件の特集記事は,これからVRを導入されようと考えておられる読者にとっての格好のキッカケを作るものと編集部一同願っているので御参考になれば幸いである。
広告索引
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