【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

決められたことではなく自分の思いどおりにやり手品の種を探してほしい東北大学名誉教授 清野 慧

野球のスコアボードに数字が並ぶのを面白がる子どもだった

聞き手:工学に進んだきっかけ,精密工学を専攻した理由をお聞かせください。

清野:私は算数が好きでした。生まれつきかな(笑)。子どものころは,野球が好きでした。でも,友達と野球を見に行っても,試合よりスコアボードの数字が動いているところばかり見るような子どもでした。友達に「おまえ,何であっちを見ているんだ?」と言われるくらいでした(笑)。スコアボードに数字が並んでいくのを見るのが面白かったですね。ゼロやほかの数字が入っていくことに,模様を考えていました。
 ガウス少年が1から10までの合計を計算するときに,11の5倍をサッとやったのだと,中学校のころ教わり,すごいなぁと思いました。そういうエピソードを聞いて,数学は手品の種を見つけるようなものだなと思いました。
 大学は,高等学校で数理工学科を勧められていました。最初に京大を受けたときは,原子核工学科でしたが,まあ,幸い落ちたので(笑)機械系を受け,精密工学科に進みました。あのとき別の学科に合格していたら,全く違う道に進んでいると思います。
 研究室の配属のときに材料の研究室を希望しました。そこで,「君は何をやりたいんだ」と聞かれて,ディスロケーションについてごちゃごちゃと言っていたら,「それは理学部だ。移れ」と言われ,希望したところは入れませんでした。それで,歯車の先生のところに行き振動とか騒音とかについて研究していました。その研究室でフーリエ変換,周波数成分といろいろかかわり,それが今でもずいぶんと役に立っています。
 ドクターを終わる直前に,教授から「関西の私立大学,東北大学の先生のところに席がある,どこへ行きたいか?」と言われました。私は研究したかったので,機械系なら東北大学がいいと思って,希望しました。東北大学は歯車の先生はたくさんいらっしゃいましたから。ところが東北大学に行ってみてびっくりしたのは,所属先は精密測定の先生だったのです。
 東北大学で最初にお手伝いしたのは精密測定の学生実験でした。ブロックゲージのセットを使う,とても本格的な実験でした。3年生が学生実験室に毎週来て,ブロックゲージを使い,マイクロメーターの校正やダイヤルゲージの校正をします。ガラス板をベッセル点,エアリー点で支えて,オートコリメーターで接線の傾斜を介して形状を測りました。それから,プリズムの角度の校正もやりました。また,「工具顕微鏡でねじのピッチの有効径を測れ」というのがあり,学生たちに反転の原理に気付かせるテーマでした。私は学生たちに教える立場であったのに,何も分からなかったのです。このとき夜の11時まで付き合った経験は,後で研究に役に立ちました。昨年久しぶりに見学希望の人達を、研究室に案内していったら、今もこの伝統は引き継がれていました。一番うれしかったことです。
 学生実験をずっとやるかたわら,自分の研究として,私はかさ歯車の振動をやることにしました。そうして藤井先生がお辞めになって鎌田先生が来られる前のころ,そのときは歯車をやっていましたが,長老の先生に「君,ちょっと来い。別のことをやったらどうだ?」と言われました。
 学生実験のおかげでオートコリメーターの原理がよく分かっていたので,その角度センサーを作ってみようと思って,容器に水銀を入れて鏡にして,容器に取り付けた光学系を水面の傾斜角度を測る水準器を作ってみたら,うまくいきました。この角度センサーを使う水準器は,いま進めている知的精密測定の基本になっています。今でも水準器が必要になれば,この原理を使っています。歯車はガタガタと,起振力が矩形になってしまうので,形状の性質をフーリエ変換させました。私が歯車,振動・騒音をやっていたということが,これまでの精密測定の研究者とちょっと違っていて,形状を測ろうとすると,ついフーリエ変換してしまうのです(笑)。 <次ページへ続く>
清野 慧

清野 慧(きよの さとし)

1943年 京都府生まれ
1967年 京都大学工学部精密工学科卒業
1972年 同大学大学院博士課程期間満了退学
学位論文 REDUCTION OF VIBRATION AND NOISE OF SPUR AND HELICAL
GEARS 工学博士(京都大学)1975年11月25日
1972年 東北大学工学部助手
1993年 同大学教授
2007年 東北大学名誉教授
●研究分野
機械工学,生産工学・加工学,精密計測,光応用計測
●主な活動・受賞歴等
1998年 精密工学会高城賞 精密工学会賞(Award of JSPE)
2001年 精密工学会賞(Award of JSPE)
2003年 精密工学会沼田記念論文賞
2004年 精密工学会賞(Award of JSPE)
精密工学会フェロー

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