OplusE 2016年9月号(第442号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
自動運転に向かって
- ■特集にあたって-総論を兼ねて-
- O plus E 編集部
- ■自動運転のリスクアセスメント
- 日本環境認証機構 佐藤 吉信
- ■ディープラーニングが変える車載システムの最新動向
- エヌビディア・ジャパン 馬路 徹
- ■車載赤外線ナイトビジョンシステム
- 立命館大学 木股 雅章
特別企画
- ■画像センシング展2016 誰にでもわかる「特別講演」レビュー
- 富士通研究所 柳沼 義典
連載
- ■【一枚の写真】広告やサイン表示の概念を変える全方向ディスプレイ技術
- 産業技術総合研究所 大山 潤爾
- ■【私の発言】いいものはいいと評価されるのが一番難しい
- 高度技術研究所 代表取締役 清水 勲
- ■【第11・光の鉛筆】10 Maxwellの色彩論3 2色性色覚異常の色彩論
- 鶴田 匡夫
- ■【干渉計を辿る】第2章 測長用干渉計 2.2 ヘテロダイン干渉と光源ほか
- 市原 裕
- ■【光エレクトロニクスの玉手箱】第43章 光に有機を(その1)
- 伊賀 健一,波多腰 玄一
- ■コンピュータイメージフロンティア
- Dr.SPIDER
- ■【ホビーハウス】「ぱたぱた」から「カレイドサイクル」まで
- 鏡 惟史
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
表紙写真説明
大きな期待がかかる自動運転には人工知能(AI:Artificial Intelligence)が活用されており,特に画像認識の領域では,多層のニューラルネット(DNN:Deep Neural Net)を学習させて使用するディープラーニング(DL:Deep Learning)が注目されている。写真は,DLにより市街地を撮影した画像を画素ごとに,歩行者,車両,交通標識など5クラスに認識を行い,さらにセグメント分類する様子である。(関連記事「ディープラーニングが変える車載システムの最新動向」エヌビディア・ジャパン 馬路 徹:詳細は838ページ)
特集にあたって-総論を兼ねて-O plus E 編集部
自動運転に向かって
1.はじめに本誌の2014年12月号で,「自動運転に向かう車載センサーフュージョン」と題した特集を掲載した。それから2年弱であるが,この領域の研究開発は急激に進みつつあり,自動運転が現実味を帯びてきた。“ADAS用光学センサー市場,2020年に100億ドルに”1)と言った報道や,車載カメラは2014年は約6500万台(view cameraが主)であったが 2020年には約1億9000万台(sensing cameraが主)になる,という予想報道もある。また,“自動運転センサー「主役はレーザーへ」”という記事もある2)。本特集では,最近の自動運転に向かっての動きを多角的に捉えて,本誌のカバー分野である“ 光”,“画像”にあまりとらわれずに,“自動運転”や“ロボットタクシー”という視点からの特集とした。
2.なぜ自動運転か?
交通事故を少なくするのは社会的課題である。そのために,クルマにいろいろな機能が搭載されてきた。古い機能では,多くの車にABS(Anti-lock Brake System)と呼ばれる安全装置が標準的に搭載されている。これらの機能はDAS(Driver Assist(ant)System)と呼ばれる。近年ではこれらの機能をさらに発展させ,ADAS(Advanced Driver Assist(ant)System)と呼ばれる。追突事故を避ける自動ブレーキ機能はその代表である。
このように,ADASまでは,あくまでも運転手(Driver)を補助(assist)する機能であるが,その延長線上に,ドライバーが運転に関与することなく走行する“自動運転”がある。しかし,自動運転車といえどもドライバーが乗っていることは前提とされている。ほかに,交通弱者と呼ばれる老人,過疎地域対策としても自動運転が期待されている。
3.自動運転化へのステップ
ADASから自動運転へのステップは,今のところ,次の5段階にわけて議論されており,その実現年は括弧内に示すように予想されている。
レベル-1:加速,ハンドル,ブレーキの3操作のうちいずれかを自動化(2015年)
レベル-2:加速,ハンドル,ブレーキの3操作のうち,複数を自動化(2017年)
レベル-3:加速,ハンドル,ブレーキの3操作をいずれも自動化(2020年)
レベル-4:半自動運転(緊急時などはドライバーが操作する)
レベル-5:運転にドライバーは関与せず,すべてを自動化(完全自動化)行き先(目的地)を入力するのみ
これらの自動運転では,運転免許を持っているドライバーが運転席に乗っていることが必須条件とされている。「事故が起きた場合はそのドライバーの責任」ということで,法律上の問題は回避される。
レベル-5の段階になると,ドライバーは不要になる。そうなると,ドライバーが乗らない「無人運転」が技術的には可能になるが,事故が発生した場合の責任問題などの法律的な問題が残される。その意味で,自動運転と無人運転はまったく異なる。“ロボットタクシー”は無人運転に分類される。
4.自動運転特区について
4.1. 神奈川県藤沢市
ロボットタクシー(株)3)は,今年の2月29日~3月11日の平日に,藤沢市で自動運転の実証実験を行った4)。イオン藤沢店とモニターとなった買い物客の自宅の間(県道・市道:約2.4km)を送迎した。もちろん運転席には,法律(道路交通法)を遵守するため及び緊急時対応のため,ドライバーは乗っている。車はトヨタの市販ミニバン:エスティマをベースに,カメラやセンサー,コンピューターシステムなどで改良したものを使っている。今後も実証実験を続け,技術向上やサービスのノウハウを蓄積する,としている。
4.2. 石川県珠州市
能登半島の先端にある石川県珠州(すず)市で,金沢大学が主導的に公道実証実験を行っている5),6)。市街地も含めた約1万キロを走っており,珠洲市では,2020年にも交通網として定着させたいとしている7)。移動が困難な老人の割合が大きい過疎地を含めた将来の交通手段を想定している。
4.3. 千葉県幕張新都心(公園内)
DeNAは,千葉県幕張新都心の公園内で今年の8月1日より11日まで,無人運転バスを使用した交通システム「Robot Shuttle(ロボットシャトル)」の試験運用を行った8),9)。
「Robot Shuttle」は,仏国EasyMile社開発の自動運転車両「EZ10」を利用した交通システムで,全長4m,幅2m,定員は12人で,時速は約10km/hで走行する。
今回の試験運用では,イオンモール幕張新都心に隣接する豊砂公園に往復500mの専用コースを作り,一般の客を乗せて行われた。
なお,走るのは公園内であるため,道路交通法の適応は受けず,運転手は乗っていない。
5.各企業の動向
5.1. 自動車メーカーのアプローチ
5.1.1. 日産自動車
自動運転技術を20年までに10車種以上に搭載すると発表している10)。また初めて運転支援システム「プロパイロット」を搭載したミニバン車のセレナをこの8月末に新発売すると発表した11)。「プロパイロット」は高速道路の単一車線での自動運転技術システムで,システム作動時は,ドライバーが設定した車速(約30~100km/h)内で,先行車両との車間距離を一定に保つよう制御し,車線中央を走行するようにステアリング操作を支援するとしている。
5.1.2. トヨタ自動車
人工知能技術の研究・開発強化に向けた新会社TOYOTA RESEARCH INSTITUTE, INC.を米国カリフォルニア州のシリコンバレーに2016年1月に設立した12)。2016年8月11日にはミシガン大学と人工知能研究の加速に向け連携することを発表し,2200万ドルを投じて自動運転やロボティクスの研究を推進するとしている13)。
また,2016年1月6日から1月9日にアメリカのラスベガスで開催されたCES 2016では,Preferred Networks,NTTとの共同展示でプリウスの模型を6台自動運転のデモンストレーションをおこない,注目を集めた14)。
5.1.3. 本田技研工業
“HondaSENSING”と呼ばれるシステムを開発し,安全運転を支援している15)。ミリ波レーダー+単眼カメラによる精度の高い検知能力で,低速域(時速30km以下)での衝突軽減ブレーキ(CMBS),ACC(Active Clouse Control), 車線維持支援システム(LKAS),路外逸脱抑制機能,先行車発進お知らせ機能,標識認識機能などを持っている。
5.1.4. 富士重工業
独自のステレオカメラによる運転支援システム「アイサイト」を開発している16)。最新となる「アイサイトver.3」では,追突軽減機能は時速50km/h以下で作動する。同社によると,スバル車1万台あたりの追突事故件数は,アイサイト(ver.2)非搭載車:56件,アイサイト(ver.2)搭載車:9件となり84%減としている17)。
5.1.5. その他
今年5月に米国の電気自動車のベンチャーメーカーのテスラモーターズの「モデルS」で同車の運転支援システム「オートパイロット」を使用中に死亡事故が発生し18)話題になった。
5.2. IT 企業の動向
IT企業が自動運転の業界に乗り出す目的はただ一つ「Car=One of Internet of Things(IoT)」という位置づけである。
5.2.1. Google
Googleでは百数十台のテストカーを外注し,公道でテスト走行している19)。また今年に入り,欧州自動車大手のフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)と自動運転車を共同開発すると発表した。Googleが自動車大手と直接提携して開発するのは初めて。FCAのハイブリッド車のミニバン「パシフィカ」に,自動運転に必要なコンピューターやセンサー類を組み込んだ試作車100台を,年末までに導入して公道試験を開始する。
5.2.2. ソフトバンク
2016年3月29日,自動運転車を使ったサービスの事業化に乗り出すと発表した20)。自動運転技術を活用した特定地点間の移動サービスや,隊列および自律走行による物流・旅客運送事業などの実用化を目指す。事業化に向けて,2016年4月1日付で新会社「SBドライブ」を設立した。自治体や物流・旅客運送事業者,一般ユーザーに向けた,自動運転技術を使ったサービスの構築に取り組んでいく。
5.2.3. Apple
自社からの積極的な発表はないが,「タイタン」という自動操縦が可能な自動車を開発しているとのうわさが流れている。また2015年ごろから,本社があるシリコンバレー(米国カルフォルニア州)で“アップルカー”の目撃情報が増えているほか,サンフランシスコ郊外の旧海軍跡地にある自動運転車の走行テストコースを候補地として検討していると言った報道もあった。
5.2.4. DeNA
前項でも取り上げた,ロボットタクシーはZMPとDeNAの合弁会社である。また実証実験の「Robot Shuttle」のほか,ヤマト運輸と自動運転を活用した次世代物流サービスの開発に向け「ロボネコヤマト」プロジェクトを始動させる21)など,日本国内で積極的に取り組んでいる。
5.3. その他注目の企業
5.3.1. ロボットタクシー
自動車メーカーの自動運転はドライバーのためであるが,ロボットタクシーは交通弱者のためであるとしている。前項の神奈川県藤沢市で実証実験のほか,G7伊勢志摩サミット2016の会場で試乗デモンストレーションを実施している。2020年の東京オリンピック開催時のロボットタクシー走行を一つの目標としている3)。
5.3.2. Mobileye
Mobileye社22)(本社はオランダだが,実質はイスラエル)のEyeQ3とEyeQ4(基本的に単眼)」は,2015年7月現在,23の自動車メーカーに供給している。この中には,日産,ホンダ,三菱自動車が含まれ,マツダも搭載することを決めた。出荷台数は,2014年3月時点で,合計330万台であった。
6.実証実験に関する法律・条令の対応
警察庁は今年4月7日に,自動運転車の公道での実証実験に対しての初のガイドライン案を公表し,パブリックコメントを募集した。この案をベースに一般からの意見を求め,5月26日に指針を策定し,公開した23)。ハンドルやブレーキがない無人運転車の公道上での走行は認めず,ドライバーが(運転席に)乗ることを義務づけている。また,高速道路での自動運転走行に関して,実勢速度と規制速度の違いが渋滞や事故にどのように影響するかの検討を始めた。
7.(ADASおよび自動運転車の)交通事故について
Googleの実証実験走行は2009年にスタートし,2015年末までの総距離は赤道50周を越えている。その間に起こした事故は合計17件である。死亡事故は起きていない。前項でも記述したが,2016年5月にテスラモーターズの自動車が運転支援システムの使用中に初の死亡事故を起こした。米道路交通安全局が調査しており,予備調査の報告書ではドライバーの速度超過が指摘されている24)。日本では,昨年12月以降軽傷事故と物損事故の2件が報告されている。
8.最後に
LiDAR(Light Detection And Ranging)には,興味を持っている本誌読者は多いと思われるので,ぜひ取り上げたいと思ったが,依頼者多忙もあり,記事として掲載できなかった。参考文献4件2),25)~27)を挙げることでご容赦願いたい。
(参考文献) 1)常岡理恵:“ADASから自動運転へ:ADAS用光学センサー市場2020年に100億ドルに”,月刊OPTRONICS, vol.35, pp. 168-177,オプトロニクス社(2016)
2)日経Automotive 2016 年5 月号, 日経BP 社(2016)
3)https://robottaxi.com/
4)https://robottaxi.com/2016/03/fujisawa_e/
5)http://www.kanazawa-u.ac.jp/rd/24723
6)http://its.w3.kanazawa-u.ac.jp/index.html
7)http://www.yomiuri.co.jp/osaka/feature/CO022791/20160404-OYTAT50015.html
8)http://dena.com/jp/press/2016/07/07/1/
9)http://dena.com/jp/article/2016/08/12/003150/
10)http://www.nissan-global.com/JP/NEWS/2016/_STORY/160108-01-j.html
11)https://newsroom.nissan-global.com/releases/160713-02-j?lang=ja-JP
12)http://newsroom.toyota.co.jp/jp/detail/10169760/
13)http://newsroom.toyota.co.jp/jp/detail/13072942/
14)https://research.preferred.jp/2016/01/ces2016/
15)http://www.honda.co.jp/tech/auto/hondasensing/
16)http://www.subaru.jp/safety/
17)http://www.subaru.jp/eyesight/
18)http://www-odi.nhtsa.dot.gov/acms/cs/jaxrs/download/doc/UCM530776/INOA-PE16007-7080.PDF
19)https://www.Google.com/selfdrivingcar/
20)http://www.softbank.jp/corp/group/sbm/news/press/2016/20160329_01/
21)http://dena.com/jp/press/2016/07/20/1/
22)http://www.mobileye.com/
23)https://www.npa.go.jp/pdc/notification/koutuu/kouki/kouki20160526-1.pdf
24)http://www.ntsb.gov/investigations/AccidentReports/Pages/HWY16FH018-preliminary.aspx
25)自動運転, 鶴原吉郎, 仲森智博 著, 日経BP社発行, 日経BPマーケティング社発売,(2014)
26)IoTで激変するクルマの未来-自動車業界に押し寄せるモビリティ革命-,桃田健史 著,洋泉社発行(2016)
27)人とくるまのテクノロジー展2016 展示会ダイジェスト(人とくるまのテクノロジー展2016 会期中に展示会場で無料配布)
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