OplusE 2017年7月号(第452号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
LED照明と応用技術
- ■特集にあたって
- O plus E編集部
- ■LEDの安全に関する規格と関連する話題から
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
- ■光で情報を配信するLED照明技術「FlowSign Light」の現場活用
- 富士通研究所 倉木 健介
- ■照明用LED大光量パッケージ「CLU550」
- シチズン電子 経営企画部 企画広報課
- ■LightToolsの自由曲面設計機能FFD~目標照射分布に必要な形状を自動高速計算~
- サイバネットシステム 岡田 宏行
- ■LEDを用いた植物栽培
- 三重大学 元垣内 敦司
連載
- ■【一枚の写真】狭帯域,近赤外熱輻射光源の開発-熱エネルギーを太陽電池が効率良く発電可能な波長の光に変換-
- 京都大学 野田 進
- ■【私の発言】自分の仕事に誇りをもつと同時に楽しむことを伝えたい
- 元シチズンホールディングス(株)社長 梅原 誠
- ■【第11・光の鉛筆】19 3原色理論と4原色理論を結ぶもの Scrödingerの数学的洞察
- 鶴田 匡夫
- ■【干渉計を辿る】第3章 面形状測定用干渉計 3.5 シアリング干渉計とその応用(平行光束の調整法)
- 市原 裕
- ■【光エレクトロニクスの玉手箱】第53章 忘れないで:光ディスクメモリー(その4)
- 伊賀 健一,波多腰 玄一
- ■コンピュータイメージフロンティア
- Dr.SPIDER
- ■【ホビーハウス】時計と光学系
- 鏡 惟史
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
表紙写真説明
写真は1WクラスのSMDタイプLEDを複数配した照明器具と,それと同等ワッテージのCOB1パッケージで照らした場合の比較である。複数使いの器具では,そこから生まれる影は多重だが,COB1パッケージでは既存光源と同様に自然な影ができる。(関連記事「照明用LED大光量パッケージ「CLU550」」シチズン電子:詳細は650ページ)
特集にあたってO plus E編集部
LED照明と応用技術
1993年に青色LEDが開発されてからLED照明は急速に発展した。まず1996年に青色LEDを蛍光体に照射することによる黄色の明るい発光が得られることによる青色と黄色の混合で白色発光が実現して以来,世界中でLEDランプが作られるようになって,数々の改良が加えられ,省エネ照明光源として広く普及してきている。本号では,LED照明の基礎をはじめ,最近の応用を各界の代表者に執筆いただいた。まずLEDの安全に関する規格と関連する話題について触れてみる。
LED照明が様々な分野で導入されてゆく一方で,明るさや,ちらつき,脱落 といった問題も指摘されている。LEDランプの安全や性能に関する製品規格が十分に確立されていない現状では,国内外での市場成長を今後維持するためにも安全と性能の規格づくりが急がれる。
日本工業規格(JIS)制定の動向としては,照明用白色LEDのJIS 規格は,2010 年9 月に一般照明用白色LEDモジュールを対象としたJIS C 8155「一般照明用LEDモジュール-性能要求事項」があり,電球形LEDについては,2007年にTS C 8153「照明用白色LED装置要求事項」が発行され,JISとして制定されている。
例えば,JIS C 8155「一般照明用LEDモジュール-性能要求事項」照明用白色LEDの定義は,『分光分布が可視域のほぼ全域に広がっており,その間にスペクトルの欠落部分が無いこと,また,相関色温度が2500K~10000Kの色度は,黒体軌跡からの偏差が±0.02以内の範囲』(相関色温度を規定する場合,公表値に対して±5%)であるとされている。
また,LEDモジュールの寿命は,『LEDモジュールが点灯しなくなるまでの総点灯時間,または全光束が,点灯初期に測定した値の70%に下がるまでの総点灯時間のいずれか短い時間』となっている。一方,定格寿命は,『長期間にわたり製造された,同一形式のLEDモジュールの寿命の発生数から算出した残存率が50%となる時間の平均値に基づいて公表された時間』である。光学特性は,『製造業者等が公表する値に対し,全光束は80%以上とする』とされている。そして,光源色及び演色評価数としては,『製造業者等が公表する値に対し,色度点を規定する場合,公表値に対して±0.01とする』と定められている。平均演色評価数Raは公表値から5を減じた値を下限とし,高演色のLEDモジュールは『Ra80以上を下限とする』とされている。光出力フリッカ(ちらつき)では,『人の目の周辺視野に光源を置いたとき,光出力フリッカが,人の目に感じてはならない』とされている。本特集では,日本工業規格(JIS)や照明関連団体による国内での白色LED 照明に関する規格・基準化の動向,特に,LEDの人体に対する安全性に関して,専門家のお一人である鏡惟史氏に整理して詳しく記述していただいた。
次に,LEDのITへの応用の一つとして,「情報を付与できるLED照明技術」と題して富士通研究所の倉木健介氏に興味深い話題を詳しく記述していただいた。LED照明は,前に述べた青色LED光を黄色蛍光体に透し,混合することで擬似的に白色を表現する方式から,最近ではRGB3色のLED光を混合して白色を表現する方式に進化してきている。1個のLED照明で明るさを変えたり,昼光色から電球色などへと自由に色を変化させたりできるようになったことは本誌読者の皆さんもご存じのとおりであろう。時間軸上で,その3色混合光のRGB各色を人間の目には区別がつかない程度に変化させれば,照明光にデジタル情報を載せることができるのではないかというこの発想が「情報発信LED照明」の出発点となった。近年,スマートデバイスの普及やクラウドにアクセスするための通信環境の整備が進むにつれて,ユーザーがいつでもどこでも目の前のモノについてその場で検索して関連情報を入手する場面が一般化してきている。実世界の様々なモノをネットワークサービスに繫ぐ試みが増えており,それを支える従来技術として,NFCタグやQRコードなどの識別情報をモノに直接貼り付ける方法があったが,ここではモノに情報を貼り付けるのではなく,その位置に情報サービスを関連づける方法として,GPS(Global Positioning System)のような直接的に位置情報を取得する手段や,Bluetooth,超音波,可視光通信などを用いて,電波,音,光などを利用する方法が最近では良くとられている。一部はすでに実用化されている。富士通研究所では,LED照明から発する光の色を人の目には見えないレベルで変化させ,その光を照射したモノにID情報を付与する技術を開発している。
その特長は,色変調による情報埋め込み技術である。カラーLEDはRGBの3色の光を合成して様々な色の光を照射することが可能であり,RGBの各色成分から発する光の強弱を時間方向で制御し,わずかに変化させることによってモノを識別するID情報を表現している。この際に,1つのLED照明につき,1つのID情報を付与している。
光がモノの表面で反射する際に反射率に応じて光の一部が吸収されたり,反射したりする。RGBの各波長に埋め込んだ信号は,反射時に一部が吸収されることによって弱くなってしまうことがあるため,カメラで撮影した映像に対して反射を考慮した補正を行うことによって,情報の検出精度を高めることに成功している。本技術により,光を照射されたモノや人物に例えばスマートフォンをかざすだけでモノにID情報を付加することが可能となり,IDに対応する関連情報をスマートフォン経由で取得できる。これにより,例えば以下のような様々なサービスへの展開が可能になる。
1.商品にスマートフォンをかざすだけで,商品情報を提供し,将来的には自動決済や配送なども実現可能である。
2.博物館,美術館で展示物にスマートフォンをかざすだけで解説動画をストリーミング再生ができる。
3.舞台上のタレントにスマートフォンをかざすだけで歌っている楽曲をダウンロードできる。
4.観光地の歴史的建造物や看板などにスマートフォンをかざすだけでより詳しい情報や解説を母国語で表示できる。
などが可能である。詳しくは本文を参照していただきたい。本特集をきっかけにIoTやIT,AI時代における今後の光応用/LED応用を大きく発展させていただきたいと思われる。
次に,照明用LEDの大光量パッケージを開発されたシチズン電子株式会社にCOB(チップ・オン・ボード)シリーズのLED新製品「CLU550」を紹介していただいた。シチズン時計の傘下で機器・装置事業を行っているシチズン電子は,照明用LEDの世界最高クラスといわれる大光量化を実現するパッケージを使って量産を始めているという。省エネや環境配慮からLED照明が広く普及しているなかで,これまで水銀灯やHID(高輝度放電)ランプを使っていた投光器やスタジアムの照明などに代わって使用できる大光量のLEDが必要である。すなわち,屋外照明や高天井照明など大光量が必要な用途に対応するLEDが求められてきている。
COBは,LED素子を基板上に直接実装した構造で,新製品は高密度実装技術を駆使し,従来と同じスペースに素子を45%増やしている。ここではアルミの基板に直接LED素子を実装する独自のチップ・オン・アルミ(COA)工法によって光量を高めている。この結果,世界トップ水準となる7万463Lm(ルーメン)の大光量を達成している。発光効率は1W当たり148Lmとなり,従来製品「CLU056」の光量5万7463Lm,発光効率1W当たり128Lmと比較して,光量が約20%,発光効率が約15%向上している。
1つのLEDパッケージで500Wに相当する明るさを確保し,投光器などの大容量照明器具の小型化や回路設計の簡略化も実現できる。外形サイズは縦横各38.0mm,厚さ1.4mmでパッケージに端子を4つ設け,駆動電力を分散できるようにしている。器具メーカーは大光量LEDでも特殊な電源を使うことなく,汎用(はんよう)電源でLEDを駆動できる。本件はLED照明に限らず,例えば,プロジェクターの照明に応用することも可能である。
さて,従来の電球や蛍光灯に比べるとLEDは点光源とみなすことができる。したがって照明設計解析が従来に比べて容易であろう。サイバネットシステム社の岡田宏行氏には本社が米国カリフォルニア州にあるSynopsys社,日本のサイバネットシステム社が販売・サポートしている照明設計解析ソフトウェア「LightTools」の最新バージョン「LightTools 8.5」に関して詳しく解説していただいた。
LightToolsとは,LED照明や液晶ディスプレイ用バックライト,プロジェクター,自動車の室内照明やデイタイム・ランニング・ランプなどいわゆる照明光学系の設計・解析を行うソフトウェアである。試作前の設計支援,試作後の詳細解析,実機との比較検証など,幅広い用途で利用されている。LightTools 8.5では,曲面上の受光器に関する機能が強化され,あらゆる面における照度分布をモデル上で直感的に確認できるという。また,パラメーター感度調査機能,自由曲面設計機能,ライトガイドデザイナーなどの強力な解析・設計機能がさらに改良され,より自由度の高い設定や最適化が可能になっているという。ライトガイドデザイナーの強化による自由度の高い形状や最適化目標を定義することができる。ライトガイドの設計において,パイプに沿って均一に光を放射させることは簡単ではない。
このライトガイド デザイナーとは,ライトパイプのモデリング,解析,光放射を制御するためのライトパイプの光抽出構造の最適化を自動化するためのツールであり,今回,様々な断面形状の指定,ジオメトリのコントロール,解析機能の改善により,ツールの柔軟性と使いやすさが向上しており,革新的なモデリング機能と効率向上のためのオプションも追加されているという。
三重大学の元垣内敦司先生に「LEDを用いた植物栽培」と題して最近のトピックスをご紹介いただいた。
植物が生育するために行われる光応答には,光合成,光形態形成などがある。このうち,光合成には波長660-700nmの赤色光で活性化されるクロロフィル類が,光形態形成には波長450-470nmの青色光と660-730nmの赤色光で活性化される各種色素タンパクが関与することが分かっている。また,光応答に適した赤色光・青色光の比率は植物の品種によって異なることについても,これまでの研究成果から判明している。LED照明は,その発光波長幅が他光源に比較し狭いことから,植物の光応答に適した波長を選択的に照射でき,結果として効率良く植物を栽培できると考えられている。本記事では,LEDを用いた植物栽培についてこれまでの研究成果を述べられているが,三重大学の大学院生物資源学研究科との学内共同研究により植物栽培について指導を受けながら研究を進めることで,一定の研究成果が得られるようになったそうである。
このようにLED照明の新しい応用開拓にはエンドユーザーとなる異分野の技術者やデザイナー等との交流は非常に重要であると説いておられる。植物栽培については,光以外にも温度,湿度,二酸化炭素の濃度など様々な栽培条件の組み合わせで同じ植物でも育ち方が変わってくる。光以外の条件を揃えて光の照射条件だけを変えて実験を行うことは非常に難しいと言われている。このような点で工学と農学での研究の方法論の違いも共同研究を通して学べる。植物栽培における必要な条件のうち,光の照射条件に焦点をあてた各種研究成果は興味深いものがある。
最後に,特集としてご執筆いただいた他にも注目すべき技術としてLED照明/CCD内蔵の無線電力送受カプセルカメラ内視鏡を取り上げる。ここでは,その概要をweb1)からご紹介させていただく。
イスラエルのギブンイメージング社が,2000年5月世界で初めてカプセル内視鏡の概念を発表するとともに試作装置を用いて人体の胃や小腸の撮影に成功している。この成果は,「ミクロの決死圏」に代表される近未来医療用マイクロマシンの登場を予感させるもので,ニュースとして大きく取り上げられた。筆者も2年前に藤沢市の内科・消化器科クリニックにて,このギブンイメージング社のカプセルを飲み込み,小腸内部を撮影した。24時間後にカプセルをクリニックへ持参し,さらに,イスラエルにて解析した画像結果を1ヶ月後に報告してもらった経験がある。
この装置は,直径11mm,長さ27mmの錠剤サイズのカプセルカメラ(商品名:M2A)であり,その動力源として内蔵バッテリーを用い,白色LEDで小腸内部を照明し,19万画素のCMOS撮像デバイスを用いて2枚/秒のコマ送り条件で約6時間の動作時間を達成している。しかし,2枚/秒のコマ送りでは小腸内壁画像を完全に撮影できず,カプセルが小腸の中で回転してしまうので,肝心の患部画像を撮ることができなかった。カプセルの平均滞在時間は胃で80分,小腸で90分であるので,これらの撮影には適用可能であるが,飲み込んで排泄されるまでの平均時間は24時間(10~45時間)であり,大腸までLED照射用の電池が持たないという問題点もあった。また,ピント調節機構やカプセルの姿勢制御機能がないため,近接撮影の条件となり,撮影場所を体内の蠕動運動に委ねるので撮影したい場所の微調整ができない。しかも,万が一体内にカプセルが残留してリークしてしまった場合,電池内の化学物質が人体に与える影響も心配されている。
これに対して,日本の株式会社アールエフでは,超小型カプセルカメラ(商品名:NORIKA)を開発し,電池を使わず,電力供給を人体外部からのマイクロ波供給によって行い,ピント調整や姿勢制御を外部操縦するシステムである。カメラは直径9mm,長さ23mmのピル型で,カメラとLED照明部分には,透明樹脂が用いられている。CCDへのピント調整は,CCD部の永久磁石で構成されるポールピースとレンズ部の電磁石ボイスコイルとの間の斥力・引力制御によって行っている。このレンズの周囲には照明用の4個のLEDが設置されている。すなわち,CCDの左右に白色LEDを配置させ,それぞれのLEDの明るさを個々に変えることで影を作り,前記のピント調整機構と組み合わせることで単眼CCDでも立体的映像を作り出せるようにしてある。また,CCDの上下には用途に応じて近赤外LED(約950~1100nm,透過像撮影可能)や他の波長のLEDを配置するようになっている。中央右よりの側面に姿勢制御ローターコイルが3つ,さらに電力受磁コイルが巻かれている。中央の空間部にはバルブをつけたタンク(フリースペース)が置かれており,用途に応じて治療用の薬液を格納したり,生検のための超小型のハサミやメスを内蔵させることが検討されている。このタンクには安定した電力を蓄えるための蓄電コンデンサーが接しており,一番右側にはマイクロ波送信部が位置している。2001年にカプセル内視鏡として“NORIKA3”を発表している2)が,NORIKA3では体内でバッテリーが破損した際の影響を考え,さらに改良され,本体には動力源を設けず,専用のベストを着用した上でベスト内のコイルから前述したマイクロ波で電力を供給する仕組みを採用した次世代カプセル内視鏡の“SAYAKA”が2005年に発表されている。
SAYAKAはカプセルが二重構造となっており,側面にカメラが付いている内側のカプセルが回転しながら撮影をしていく特徴的な製品とされている。いずれもオリンパス社の製品とは違い厚労省認可を得ておらず,国内外で臨床試験を行ったのみで市販はされていない。
製品名に女性の名前が用いられているのは,精神的に緊張した状態で行く病院において優しい印象を与えるためだといわれている。なお,アールエフ社は自社の開発技術に関して特許は申請せず,「ライバルを作ることが新技術の開発に繫がる」として積極的に公開する方針であるという。国内の企業でカプセル内視鏡を開発しているのはオリンパス社とアールエフ社のみといわれる。
以上5件の小特集ではあるが,それぞれの分野にて,それぞれ興味深い内容を記述していただいた。O plus E編集部一同は,読者諸兄諸姉が,これらの記事から派生して,国内のLED応用産業がもっと盛んにしていただくことを祈念したい。
参考文献
1) http://www.yanchers.jp/_userdata/P-LED2.pdf
2) NORIKAプロジェクトチーム プロジェクト21:“カプセル型内視鏡「NORIKA」システム,”日本放射線技術学会雑誌,58, 8(2002)985.,さらにはhttp://www.rfnorika.com/を参照のこと
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