セミナーレポート
高速画像処理の新展開東京大学工学部/情報理工学系研究科研究科長 石川 正俊
本記事は、画像センシング展2017にて開催された招待講演を記事化したものになります。
高速ビジョンの基本思想
高速画像処理は,通常の画像処理を高速化したものではありません。また,システムを組む際には,高速画像処理だけを速くしてもうまく動きません。画像処理は,従来はきれいな画像を取得・処理するということがメインでした。われわれの研究室は,空間軸重視の考え方から時間軸重視に変えることで,処理時間を速めることで画像処理あるいは画像の価値を上げていこうと考えています。速くすることが価値を生むという考え方です。今まで画像処理が遅かったことで,システムがうまくいかないとあきらめていた方は,考え直していただきたいと思います。速くなった画像処理で高速の画像を撮り,高速に認識して,高速にフィードバックする。そうしたことができる時代になりました。空間分解能よりフレームレートを重視するのです。
今まで画像処理が遅くて困っていた分野には,高速ロボットやFA検査,自動車,セキュリティー,バイオ,医療,高速3D入力,ヒューマンインターフェースなどがありました。これらは今までの30fpsでは遅かった分野です。
ロボットを速くしようと思った場合,階層的な並列分散処理を組むことになりますが,画像処理を30fpsから1000fpsにするだけではうまくいきません。全体的に考えられたアーキテクチャーが必要だからです。
階層的並列分解システムでは,リアルタイム並列処理,タスク分解,ボトルネックの解消という問題があります。タスク分解では,従来の考え方は,センサーの情報を認識系に入れ,計画,判断をし,制御信号にしてアクチュエーターを動かすというものでした。これを直列分解といいます。しかし,このやり方ではスピードは出ません。そこで,センサーからアクチュエーターまでのローカルのフィードバックを回しておいて,何か起きたときだけ上位層の認識・判断を走らせるという並列分解が必要になります。このようにシステム全体を考えて高速性を維持していくことが重要です。また,システムの感覚系,処理系,運動系各々の時間的特性(ダイナミクス)を改良し,タスクや外界のダイナミクスに整合させることで,状況に応じたパフォーマンスの最大化を目指すということも重要なポイントになります。これがダイナミクス整合です。
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東京大学工学部/情報理工学系研究科研究科長 石川 正俊
1979年 東京大学大学院工学系研究科修士修了。通商産業省工業技術院製品科学研究所を経て,1989年 東京大学工学部計数工学科助教授,現在,情報理工学系研究科研究科長及び創造情報学専攻教授。この間,2002年より2006年まで,東京大学総長特任補佐,副学長,理事・副学長を歴任。高速画像処理とその応用システムの研究に従事。2011年 紫綬褒章受章。