OplusE 2020年5・6月号(第473号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
QoL向上のためのヒューマンセンシング技術の最先端
- ■特集にあたって
- 慶應義塾大学 青木 義満
- ■観察者の視覚特性を取り入れた人物画像認識
- 鳥取大学 西山 正志
- ■映像からの脈波分析による見守り技術
- 富士通研究所 内田 大輔
- ■病理画像AI診断支援への取り組み
- 日本アイ・ビー・エム*,国立精神・神経医療研究センター** 壁谷 佳典*,中野 宏毅*,米澤 翔*,西野 一三**
- ■パラリンピック選手をサポートする画像処理技術
- 慶應義塾大学 仰木 裕嗣
- ■レシピ画像を用いた調理映像の自動要約
- 中部大学*,楽天 楽天技術研究所** 祖父江 亮*,山下 隆義*,藤吉 弘亘*,中澤 満**,Chae Yeongnam**,Stenger Björn**
- ■感性の指標化技術と製品開発への活用
- 関西学院大学*,ナリス化粧品** 飛谷 謙介*,山﨑 陽一*,谿 雄祐*,浅井 健史**,山元 裕美**,長田 典子*
- ■クラウドソーシングを用いた顔動画像計測による情動反応解析に基づく広告効果推定
- 千葉大学 津村 徳道,岡田 弦樹
- ■センシングとモニタリングによるQoL維持のための行動効果検証
- 慶應義塾大学 満倉 靖恵
巻頭特別企画
- ■受賞記念対談
- 鶴田 匡夫,本宮 佳典
特別企画
- ■ビジュアルメディアExpo2019 特別招待講演
- 東京大学 鳴海 拓志
連載
- ■【一枚の写真】亀裂状欠陥が高分子フィルムに描く構造色
- 京都大学 伊藤 真陽
- ■【oe 玉手箱のけむり】その7 増加の物理:新型コロナウイルス
- 伊賀 健一
- ■【私の発言】昔の価値観にとらわれるな。古い常識の真逆のことに正解が潜んでいることがある。
- 慶応義塾大学 斎藤 英雄
- ■【輿水先生の画像の話-魅力も宿題も-】第15回 続・続・似顔絵はAIで描けるか?―等身大の科学技術,その幕開けを見る―A Further Sequel・How could AI Facial Caricaturing be Possible via Image Technology?- As a Beginning of Life-sized Science and Technology –
- YYCソリューション/中京大学 輿水 大和
- ■【光学ゼミナール】第15回 測光・測色
- 宇都宮大学 黒田 和男
- ■【レンズ光学の泉】第1章 結像の自由度
- 渋谷 眞人
- ■【波動光学の風景】第142回 144. 異方性媒質の薄膜
- 東芝 本宮 佳典
- ■【研究室探訪】vol. 15 千葉大学 津村研究室
- 千葉大学 津村研究室
- ■【国立天文台最前線】第13回 観測データの有効活用をサポートする天文データセンター
- 荒舩 良孝
- ■【ホビーハウス】平行平板とハーフミラーについての技術史研究家のメモから
- 鏡 惟史
- ■【コンピュータイメージフロンティア】『ダーククリスタル:エイジ・オブ・レジスタンス』『ザ・ボーイズ』ほか
- Dr.SPIDER
- ■【ホログラフィ・アートは世界をめぐる】第15回 台湾交流録 part1 初めての訪問
- 石井 勢津子
コラム
■O plus E News/「光学」予定目次■New Products
■オフサイド
■次号予告
表紙写真説明
写真の壁接近検知装置は,従来のタッピングに代わり,補助者がいなくとも,視覚障がい水泳選手がプールでのトレーニングを実現するための装置である。レーンラインに通されているブイを少し広げてはめ込んでいる。水面下を監視する水中カメラに超広角レンズを採用し,レーンラインの方向とは直交する左右方向に光軸を設定している。カメラから見て選手が左から進入して壁に接近しカメラの直前を横切ると,水上スピーカーならびに水中スピーカーから警告音を発することで選手に知らせることができる。(関連記事「パラリンピック選手をサポートする画像処理技術」慶應義塾大学 仰木 裕嗣:詳細は342ページ)
特集にあたって慶應義塾大学 青木 義満
QoL向上のためのヒューマンセンシング技術の最先端
これまで,画像センシング技術は目覚ましい進歩を遂げ,様々な場面における実用化が着実に進められてきた。工業製品の外観検査など,マシンビジョン分野における検査の自動化から始まり,現在では我々の生活における様々な場面において,画像センシング技術が活用されている。画像を取得するカメラの高性能化,得られた画像から意味のある情報を抽出・提示するパターン認識技術,画像生成技術の進化は,空間的,時間的,コスト的な制約を軽減することに成功しつつあり,画像センシングシステムの活躍の場を広げている。これからは,現存している社会課題を解決し,さらに新産業を生みだすような革新的な画像センシング技術の進化と新展開が求められている。特に,価値観が多様化し,超高齢化を迎えている現代社会においては,単に量的な豊かさを求めるだけでなく,生活の質的な豊かさ(Quality of Life)を向上させることが求められている。画像センシング技術も他の工学技術同様,単に処理性能を追い求めるものではなく,我々の生活に深く浸透しながら,QoL向上へと貢献することが期待されている。
本特集では,QoL向上のための画像センシング技術,パターン計測技術について,セキュリティ,スポーツ,官能評価,医療・福祉,食といった領域で研究開発が進められている事例を取り上げる。
画像中から人物を検出し,様々な属性を認識する人物画像認識技術は,マーケティングやセキュリティ用途で非常に大きな役割を果たしている。鳥取大学の西山正志氏には,様々なシステムが提案されている中で,すべての認識過程を機械任せにせず,観察者が人物属性を認識する際に注目している箇所を視線マップとして活用し,人物属性認識の精度を向上させる取り組みについてご執筆いただいた。性別認識に焦点を当て,訓練画像の偏りの問題や訓練画像のプライバシー保護の問題を解決するアプローチまで紹介している。
本格的な高齢化社会を迎え,センサーとクラウド技術の進展により,個人の健康データを活用したヘルスケアサービスが注目されている。富士通研究所の内田大輔氏には,一般的な可視光カメラで撮影した顔画像から脈拍を計測する技術について紹介していただいた。心拍変動を周波数解析にかけることで,精度良くストレス状態の推定が可能となることが示されている。日常生活や業務中などで広く活用が期待される興味深い取り組みである。
医療分野においてもAIの利活用は進められている。希少疾患における病理専門医は世界的に不足しており,AIを用いた診断支援システムの実現が強く求められている。日本アイ・ビー・エムの壁谷佳典氏らには,筋ジストロフィーのAIを用いた診断支援システム実現への取り組みについて紹介していただいた。病理画像の識別に適した新しい識別器により,筋疾患の識別において,専門家を上回る性能を達成しており,今後,広く病理画像全般への活用が期待されるものである。
スポーツにおいても,競技者支援,コーチング支援など,様々な場面でヒューマンセンシング技術の導入が進められている。慶應義塾大学の仰木裕嗣氏には,画像処理技術を使った視覚障がい水泳選手の支援システムについてご執筆いただいた。泳者がターンに差し掛かったことを聴覚フィードバックで伝えるシステムにおいて,画像処理を用いた壁接近検知装置が活用されている。水中で揺れ続けるレーンラインに対応するための画像処理アルゴリズム,泳者にわかりやすく情報を伝達するための聴覚刺激に関する工夫などについて,具体的に述べていただいている。
日々の生活において重要な食の楽しみを提供するための試みも行われている。SNSなどで広く視聴されている調理レシピ動画は,工程やできあがりを簡単・短時間に把握できるため,女性層を中心に年代を問わず人気を集めている。中部大学の祖父江亮氏らには,誰でも手軽に調理レシピ動画を作成可能とするため,調理工程を撮影した映像から調理レシピ動画へ半自動処理によって要約するシステムについて紹介していただいた。調理レシピサイトの手順画像と撮影した動画から,画像特徴量の類似度比較によって各調理工程に適したシーンを検索する機能を,操作性を十分に考慮して開発されたインターフェイスも併せて提供しており,実用性の高い取り組みとなっている。
近年,日本のものづくりにおいて,「感性価値」がキーワードとして挙がっている。個々の感性価値に適合した製品を提供するためには,感覚・感性を指標化し,指標に基づくプロダクトデザインによって新たな感性価値を創出する必要がある。関西学院大学の飛谷謙介氏らには,感性の指標化技術についての概説,さらに,具体的な応用事例として,「ふきとり化粧水」を対象とした感性に基づいた処方設計手法について紹介していただいた。今後,機械学習やデータマイニング技術,神経科学分野との連携などにより,さらなる発展が期待できる新しい研究領域である。
広告が視聴者の情動に与える効果をヒューマンセンシングにより定量的に計測する試みも行われている。千葉大学の津村徳道氏らには,オンラインデータ収集フレームワークと複数の非接触による情動反応の測定手法を用いることにより,自然環境における広告効果の推定を行う研究についてご執筆いただいた。クラウドソーシングのアプローチにより,メディアが通常利用されるのと同じ状況における多人数の情動反応測定を実現しており,データ収集の困難さを解決する新たな試みとして注目されている。
画像のみならず,人間の様々な状態をセンシングするアプローチとして,脳波解析を活用する試みも盛んである。慶應義塾大学の満倉靖恵氏は,感情やストレス計測,集中度計測などのほか,うつ病の客観評価などにリアルタイムノイズ除去を適用させたうえで,脳波を活用する取り組みを精力的に進めている。今回は,脳波を用いたセンシングと感情の見える化によって,ストレスの定量化を行うシステムを用い,認知症患者に対するお笑い・童謡・メイクの心への好影響を明らかにした興味深い実験結果について紹介していただいた。
QoL向上のためのヒューマンセンシング技術について,社会的に注目度の高い話題を取り上げた。どのシステムにも共通するのは,現代社会において身近に存在する課題を,実際に使用するユーザーの立場や具体的ニーズをしっかりと把握した上で,最新のヒューマンセンシング技術によって着実に解決しようとしている点である。また,これらのシステムにおいては,蓄積された大量の実データから,一般的な知識を獲得してシステムに反映することはもちろん,運用しながら個々のユーザーの特性に適応する柔軟性を併せもつことが重要であろう。これらの取り組みのさらなる進展を楽しみにしていただきたい。
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