OplusE 2020年7・8月号(第474号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
光計測の新潮流を探る
- ■特集にあたって
- O plus E編集部
- ■産業界から期待する計測の明日
- 住友重機械工業 山﨑 和則
- ■ゴーストイメージングの特徴と応用
- 大阪大学 水谷 康弘
- ■分光デバイスVIPAを用いた走査を必要としない断面形状計測システム
- 埼玉大学 塩田 達俊
- ■マルチモーダルステレオ画像からの3次元計測
- 名古屋工業大学 坂上 文彦,佐藤 淳
- ■ミクロンオーダーの精度をもつ非接触内径計測機のロバスト性評価
- 住友重機械工業 光成 俊泰,岡本 裕司,野澤 一太,山﨑 和則
- ■建設機械の遠隔操作のための遮蔽物透視映像生成
- 東京大学 山下 淳
- ■機械工業における構造色と加飾の種類と評価方法
- 東京都立産業技術研究センター 海老澤 瑞枝
- ■生物学の偏光イメージング
- 宇都宮大学 ネイザン・ヘーガン,柴田 秀平,大谷 幸利
- ■AIによるバイオメディカル画像解析と光イメージング装置開発
- 大阪大学データビリティフロンティア機構*,北海道大学**,大阪大学工学系研究科***,新岡 宏彦*, 大和 尚記**, 三宅 淳***, 橋本 守**
連載
- ■【一枚の写真】マンガンノジュール密集域を音で探す:新たな資源探査手法
- 千葉工業大学 町田 嗣樹
- ■【oe 玉手箱のけむり】その8 面発光レーザーの今
- 伊賀 健一
- ■【私の発言】技術の応用には必ず条件がある その制約の中で最適解を考えていくことが大切
- 静岡大学 川田 善正
- ■【輿水先生の画像の話-魅力も宿題も-】第16回 最終・似顔絵はAIで描けるか?―等身大の科学技術,その幕開けを見る―Final・How could AI Facial Caricaturing be Possible via Image Technology?- As a Beginning of Life-sized Science and Technology –
- YYCソリューション/中京大学 輿水 大和
- ■【光学ゼミナール】第16回 結晶光学
- 宇都宮大学 黒田 和男
- ■【レンズ光学の泉】第1章 結像の自由度
- 渋谷 眞人
- ■【研究室探訪】vol. 16 宇都宮大学 大谷・ヘーガン研究室
- 千宇都宮大学 大谷・ヘーガン研究室
- ■【国立天文台最前線】第14回 アジア最大級の望遠鏡の共同利用をサポート ハワイ観測所岡山分室
- 荒舩 良孝
- ■【ホビーハウス】100円ショップで出会う光と画像のしかけ
- 鏡 惟史
- ■【コンピュータイメージフロンティア】『ミッドウェイ』『アップロード ~デジタルなあの世へようこそ』ほか
- Dr.SPIDER
- ■【ホログラフィ・アートは世界をめぐる】第16回 台湾交流録 part2 予期せぬ展開
- 石井 勢津子
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
表紙写真説明
近年のICT系を中心とするテクノロジーの急激な進展により製品ライフサイクルが短命化している。そのため,個々の多様な顧客のニーズに対応しつつ,コスト上昇を抑えるために大量生産に近い生産性を維持するマスカスタマイゼーションが必要となってきている。図に示すようなマスカスタマイゼーションを支える技術が徐々に登場してきており,今後は柔軟な生産が徐々に実現されていくものと思われる。そのような中で,センシング技術が重要な役割を担い,非接触/遠隔性が特徴の光計測技術は様々な形態で利用されるものと期待される。(関連記事「産業界から期待する計測の明日」住友重機械工業 山﨑 和則:詳細は472ページ)
特集にあたってO plus E編集部
光計測の新潮流を探る
今月のO plus Eの特集は,「光計測の新潮流を探る」である。2015年3月号の特集「[計測技術にみる]時代はダウンサイジング」以来,光計測の特集がなされていなかった。昨今の光計測技術の中心である干渉計やステレオ法などの3次元形状計測技術が成熟してきていることが大きな要因である。ここでの特徴は,光計測のニーズが「ラボレベル」から「現場レベル」へと移っている。さらに,「その場計測」が求められていることである。この現場レベルには,生産現場,医療現場,流通現場から家庭にまで多岐におよぶ1)。たとえば,3Dプリンター,ゲームをはじめヴァーチャルリアリティ(VR),拡張現実(AR)の入力ツールとしての光3次元形状計測技術はなくてはならないものとなっている。さらに,携帯電話における顔認証にはTOF(タイムオブフライト法),または2台のカメラとVCSELによる赤外線のランダムドットを投影したステレオ法が用いられている2)。これらの非接触というニーズは,昨今の新型コロナウイルス(COVID-19)の感染予防ニーズにもマッチして,ますます小型・モジュール化したセンサーとして提供され,実用化されて身近になっていくはずである。光計測はまた,昨今のIT化,AI化がなくてはならない関係である。日本やアメリカにおいて,建設業と農業がIT化に遅れているとの報告がある3)。国土交通省のi-Construction(建設現場の生産性革命)4)によって,建設業では,3Dプリンティングを用いたコンクリート構造物の建設,ドローン3DスキャナーやLiDAR,さらには,非接触で遠方から構造物の欠陥・亀裂などの計測法の技術開発が取り組まれてきた。一方,農業においては以前から精密農業と呼ばれて取り組まれていたが,昨今ではスマート農業としてGPSやさまざまな光計測を耕うん機やドローンに搭載して,さららはAI等を駆使して農作物の収量および品質の向上を目指している。このような状況であるが,建設業に比べて投資規模の小さい農業では普及が厳しい状況であると言われているので,コストとの戦いとなっている。一方,建設業界から身近な環境計測への応用までなど,新たな産業界からのニーズや新しいデバイスの登場や低価格化によって,その後,新しい技術が見受けられるようになってきた。さらには,AIを取り込んで精度向上を目指した報告も増えてきている。
今回の特集は,「光計測の新潮流を探る」と題して,産業界のニーズと新しいデバイスからのシーズを取り上げ,9名の先生方に執筆を依頼した。
まず,建設業界を代表して住友重機械工業の山﨑氏には,「産業界から期待する計測の明日」と題して,変動性,不確実性,複雑性,曖昧性のVUCA時代での計測・センシングの位置づけや期待について解説していただいた。ここでは,現在ある計測法を取り上げ,シミュレーションの重要性,マスカスタマイゼーションについて概念を解説していただいている。
大阪大学の水谷氏には,「ゴーストイメージングの特徴と応用」と題して,昨今注目されているシングルピクセル・イメージング技術の紹介をお願いした。ランダムな照明光の光強度分布を変えながら複数回照明し,検出した光強度と照明光分布との相関計算から統計的に2次元画像情報を構成する方法である。これは,2次元のイメージセンサーでなく,たった1つのセンサーで2次元分布を求めることができるところが興味深い。さらに,光周波数コム光源を用いた実験で蛍光計測に有効を示している。
埼玉大学の塩田氏には,「分光デバイスVIPAを用いた走査を必要としない断面形状計測システム」と題して,2次元周波数領域光コム干渉法について解説をお願いした。ここでは,周波数領域の光コム干渉を一般的なファイバーレーザーでなく,VIPA(Virtually Imaged Phased Array)で行う独自の方法を解説されていて,今後が期待される。
名古屋工業大学の坂上氏らには,「マルチモーダルステレオ画像からの3次元計測」と題して,一般に使われるRGBカメラと赤外線カメラを組み合わせて3次元形状を求めることを述べている。モーダルの画像を生成する方法を説明したのち,監視カメラシステムや車載カメラシステムの実例を挙げて解説していただいた。
住友重機械工業の光成氏らには,「ミクロンオーダーの精度をもつ非接触内径計測機のロバスト性評価」として,内径の測定とそのさまざまな誤差について解説していただいた。
東京大学の山下氏には,「建設機械の遠隔操作のための遮蔽物透視映像生成」として,建設現場における遮蔽物を透視するために,複数のカメラやセンサーを組み合わせることによって可能としている。3台のRGB-Dセンサー*および2台のRGB-Dセンサーを用いた手法と2台のカメラと1台のレーザー測距センサーを用いた手法に分けて実際の結果を挙げながら紹介いただいた。
東京都立産業技術研究センターの海老澤氏には「機械工業における構造色と加飾の種類と評価方法」として,さまざまな構造色を用いた加飾技術とこれらの“見た目”の印象の評価方法を紹介していただいた。
宇都宮大学のヘーガン氏らには,「生物学の偏光イメージング」と題して,現在まで市販化されてきた偏光カメラの性能がどう変化してきたかを示し,この偏光カメラによる微分コントラスト顕微鏡や,さらに発展させたフルストークス偏光カメラとして,バイオイメージングを進歩させる方法の例が示されている。
大阪大学の新岡氏らには,「AIによるバイオメディカル画像解析と光イメージング装置開発」と題して,人工知能を用いた医療画像解析についての応用として,内視鏡を取り上げ,AIによるノイズリダクションや超解像応用につて最新の結果を交えて紹介していただいた。
このような光計測を取り巻く国際情勢として,図1のようにSDGs(Sustainable Development Goals:貧困に終止符を打ち,地球を保護し,すべての人が平和と豊かさを享受できるようにすることを目指す普遍的な行動)5)がある。これは,2030年までの目標となっており,さまざまな取り組みに対して,図1の17の目標のどれに該当するか明示するようになっている。光計測もまた,これらの取り組みに対して貢献できることが求められている。
図1 国連開発計画:持続可能な開発目標(SDGs)
ソーシャルディスタンスが重要視される新型コロナウイルス後の時代において,「働き方改革」「パラダイムシフト」という,従来とはまったく異なった社会,今回の特集における「光計測の新潮流」は,まったく別なところに向かいそうである。しかしながら,非接触,非破壊可能な技術の特徴を最大限に発揮して新しい時代に適応していくと考える。
最後に,今回,光計測の特集にあたりご活躍のご多忙な先生方にご執筆いただくことができた。皆様のご協力にここに心から感謝申し上げる。
脚注
* -D はデプスを表す。
参考文献
1)NEDO技術戦略研究センター(TSC)レポート:TSC Foresight Vol.26. 計測分析機器分野の技術戦略策定に向けて(2018)
2)https://www.ledinside.com/news/2018/1/ledinside_most_mentioned_companies_you_will_hear_when_speaking_of_3d_sensing
3)2018年度技術情報レポート, OITDA(2018)
4)https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/kiseikaikaku_dai1/siryou6.pdf
5)国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所
https://www.jp.undp.org/content/tokyo/ja/home/sustainable-development-goals.html
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