モジュール化した高速度3次元動画像顕微鏡京都工芸繊維大学*,産業技術総合研究所**,神戸大学*** 稲本 純也*,井上 智好*,西尾 謙三*,夏 鵬**,的場 修***,粟辻 安浩*
- 説明文
- 写真
生物学分野で,細胞や微生物の形状やその動きを3次元的に計測することは,細胞や微生物の行動解明や理解に非常に有益である。微小空間を動く試料の3次元の位置や形状を計測できる顕微鏡として,著者らの研究グループは,並列位相シフトディジタルホログラフィック顕微鏡をこれまでに開発している。しかし,従来の並列位相シフトディジタルホログラフィック顕微鏡は,光学定盤上に光学素子を直接固定していたため,設置スペースを大きく占有し,また別の場所への持ち運びも困難であった。そこで,著者らの研究グループでは,モジュール化した並列位相シフトディジタルホログラフィック顕微鏡を開発した(図1)。
光学系全体を1つのモジュールとする本顕微鏡の開発にあたり,次の設計指針を立てた。
(1)光学定盤に垂直に設置した1枚の光学ブレッドボード上に光学素子を集積させる。
(2)可搬性が高い。
(3)生きた生物試料のより自然な反応や動態を記録できる。
設計指針(1)および(2)を実現するにあたり,すべての光学素子を十分配置でき,かつ小型な光学系を設計した。また,設計指針(3)を実現するにあたり,シャーレの底に位置する培養細胞などの計測を想定し,倒立型の顕微鏡として設計した。
拡大光学系としてafocal光学系を用い,顕微鏡の倍率は10倍とした。レーザーには,出力が安定な小型固体レーザー(Nd:YVO4)を用いた。ホログラムの撮像には偏光カメラを用い,試料の動きの速さに合わせてカメラを変更できるようにした。実証実験では,高時間分解能と高空間分解能を両立させるために,株式会社フォトロン製の最高で毎秒8万6千コマの画像記録が可能な偏光高速カメラを用いた。時間分解能を優先する場合は,同社の最高で毎秒130万コマで記録可能な偏光高速カメラに置き換えて使用する。
開発した顕微鏡の有用性を実証するために,3次元的に移動する微生物としてボルボックスのホログラムを動画像記録した。記録したホログラムを計算機処理することで,ボルボックスの縁に合焦する再生像を各フレームにおいて得た(図2)。得られた像を解析することで,ボルボックスの3次元追跡に成功し,本顕微鏡を用いた活動する生物試料の3次元動画像計測を実証した(図3)。
本研究により,生物試料の3次元計測を従来よりも容易化した。しかも,本顕微鏡はホログラフィーに基づいているため,細胞などの透明な試料を無染色で定量イメージングできる。今後の展開としては,生物試料の3次元動画像計測を容易化,活発化させることで,生きた細胞や微生物の3次元な反応や動態の新たな解明などの貢献が期待できる。
(参考文献)
1)Junya Inamoto, Takahito Fukuda, Tomoyoshi Inoue, Kazuki Shimizu, Kenzo Nishio, Peng Xia, Osamu Matoba, and Yasuhiro Awatsuji: “Modularized microscope based on parallel phase-shifting digital holography for imaging of living biospecimens”, J. Biomed. Opt., Vol. 25, No. 12, pp. 123706(2020) https://doi.org/10.1117/1.JBO.25.12.123706
光学系全体を1つのモジュールとする本顕微鏡の開発にあたり,次の設計指針を立てた。
(1)光学定盤に垂直に設置した1枚の光学ブレッドボード上に光学素子を集積させる。
(2)可搬性が高い。
(3)生きた生物試料のより自然な反応や動態を記録できる。
設計指針(1)および(2)を実現するにあたり,すべての光学素子を十分配置でき,かつ小型な光学系を設計した。また,設計指針(3)を実現するにあたり,シャーレの底に位置する培養細胞などの計測を想定し,倒立型の顕微鏡として設計した。
拡大光学系としてafocal光学系を用い,顕微鏡の倍率は10倍とした。レーザーには,出力が安定な小型固体レーザー(Nd:YVO4)を用いた。ホログラムの撮像には偏光カメラを用い,試料の動きの速さに合わせてカメラを変更できるようにした。実証実験では,高時間分解能と高空間分解能を両立させるために,株式会社フォトロン製の最高で毎秒8万6千コマの画像記録が可能な偏光高速カメラを用いた。時間分解能を優先する場合は,同社の最高で毎秒130万コマで記録可能な偏光高速カメラに置き換えて使用する。
開発した顕微鏡の有用性を実証するために,3次元的に移動する微生物としてボルボックスのホログラムを動画像記録した。記録したホログラムを計算機処理することで,ボルボックスの縁に合焦する再生像を各フレームにおいて得た(図2)。得られた像を解析することで,ボルボックスの3次元追跡に成功し,本顕微鏡を用いた活動する生物試料の3次元動画像計測を実証した(図3)。
本研究により,生物試料の3次元計測を従来よりも容易化した。しかも,本顕微鏡はホログラフィーに基づいているため,細胞などの透明な試料を無染色で定量イメージングできる。今後の展開としては,生物試料の3次元動画像計測を容易化,活発化させることで,生きた細胞や微生物の3次元な反応や動態の新たな解明などの貢献が期待できる。
(参考文献)
1)Junya Inamoto, Takahito Fukuda, Tomoyoshi Inoue, Kazuki Shimizu, Kenzo Nishio, Peng Xia, Osamu Matoba, and Yasuhiro Awatsuji: “Modularized microscope based on parallel phase-shifting digital holography for imaging of living biospecimens”, J. Biomed. Opt., Vol. 25, No. 12, pp. 123706(2020) https://doi.org/10.1117/1.JBO.25.12.123706