セミナーレポート
画像を見つめて50年カーネギーメロン大学 ワイタカー記念全学教授 金出 武雄
本記事は、国際画像機器展2021にて開催された特別招待講演を記事化したものになります。
>> OplusE 2022年1・2月号(第483号)記事掲載 <<
シナリオのある研究をしよう
私の画像研究の始まりは,1973年のドクターコースの論文です。当時はアセンブラ言語でプログラムを書いていた時代です。デジタル画像がなく,ドットプリンターもないので,文字の重ね打ちと称するテクニックを使って濃淡画像を表していました。恩師である坂井利之先生,長尾真先生が大阪万博で集めた1,000枚の画像を使った,世界で最初の本格的なコンピューターによる顔認識プログラムでした。現在,スマホなどのカメラを向けると顔のところに四角の枠が出てきますが,そんな顔検出技術の元になった研究は,1996年から1998年にかけて行いました。検出率が初めて95%を超え,実用性があるとの認識が生まれ,研究が盛んになりました。コンピューターの顔の認識能力は人間のパフォーマンスを超え,現在では,日常生活からセキュリティ,パスポート,犯罪捜査など,あらゆるところに使われ,専門家をも凌ぐまでになっています。ただ,プライバシーの侵害やフェイク・フェイスといった問題も出てきていますね。フェイク・フェイスに関しては,世界で最も早い段階と思われる2008年に,“Obama speaks Japanese”と称して,私が日本語で話すのと同じ表情動作のオバマ大統領のビデオを作ったりして多少責任ありかと思っています。
こうしたことを皮切りに,私自身,ありとあらゆることをやってきました。人がやっているのを見ると,「昔やったことがある」などと失礼なことを言いたくなるほど,ほとんどの問題に手をつけたような気がします。そこで学んだ最も重要な点は「シナリオのある研究をしよう」ということです。研究は何のためにやるのか。世の中に良い差を生んで,インパクトを与えたいという気持ちでやるわけです。そのためには,シナリオを作らなければなりません。自分の研究がうまくいけばどこにどう使われるか,どう役に立つのか,世の中がどう変わっていくのかと,成功のイメージを描くのです。それが楽しければ,ストーリーも大きく広げることができます。そして,人に言うのです。他の人にも同じようなことをしてもらう,参加してもらうことができるからです。
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カーネギーメロン大学 ワイタカー記念全学教授 金出 武雄
現在,米国カーネギーメロン大学ワイタカー記念全学教授,および京都大学高等研究院招聘特別教授。1974年京都大学で工学博士号取得後,同助手・助教授を経て,1980年に米国カーネギーメロン大学に移る。1992年から2001年にカーネギーメロン大学ロボット研究所の所長を務めた。コンピュータービジョン,ロボット工学,人工知能の分野でさまざまな研究を手がけ,400以上の論文を発表し,引用数15万3千件以上,全世界計算機科学者のTOP10のh-index 161をもつ。2019年 文化功労者,2016年 京都賞先端技術部門,2008年 フランクリン財団メダル・バウアー賞,2011年 アメリカ計算機学会と全米人工知能学会アレン・ニューウェル賞,2017年 米国電気電子学会(IEEE) Founders Medal,2018年 アルメニア国家賞グローバルITアワード,2007年 計算機視覚研究におけるAzriel Rosenfeld生涯業績賞など受賞。日本人最年少でアメリカ工学アカデミー特別会員,アメリカ芸術科学アカデミー会員,日本学士院会員。