OplusE 2010年5月号(第366号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
光で/を動かす技術
- ■特集のポイント
- 宇都宮大学 大谷 幸利
- ■光で動きを変える微生物 ―ロドプシン分子による光受容と情報伝達機構―
- 名古屋大学 割石 学,本間 道夫,須藤 雄気
- ■桂皮酸エステルやアントラセンの光二量化反応による光駆動
- 兵庫県立大学 近藤 瑞穂,川月 喜弘
- ■動力としての光駆動
- 国際基督教大学 岡村 秀樹
- ■パッシブ磁気浮上による非接触光駆動法
- 徳島大学 水谷 康弘
- ■マイクロナノ光造形法が拓く光駆動ナノロボットと未来医用デバイス
- 東京大学 生田 幸士
- ■MEMS 光スキャナー
- 東京大学 藤田 博之,年吉 洋
- ■光マイクロスキャナーの低侵襲医療への応用
- 東北大学 芳賀 洋一,松永 忠雄,江刺 正喜
- ■光通信用シリコン導波路 MEMS
- 東北大学 羽根 一博,金森 義明
- ■レーザTV
- 三菱電機 桑田 宗晴
連載
- ■【一枚の写真】赤ちゃんロボットと集団コミュニケーションロボットを開発
― 認知発達研究の普及型ヒト型ロボット・プラットホームを実現 ― - 大阪大学 浅田 稔
- ■【私の発言】『理学』が『工学』に大きな進展をもたらし,それが新たな『理学』の世界を生み出す。(後編)
- 東京大学名誉教授 清水 忠雄
- ■【第9・光の鉛筆】22 プラネタリウム4 Zeiss社のプラネタリウム
- ニコン 鶴田 匡夫
- ■【波動光学の風景】第58回 60. 平面波展開に対する近似
- 東芝 本宮 佳典
- ■【新 Engineering シリーズ】2. 2次コヒーレンスとHanbury Brown-Twissの実験
- アリゾナ大学 Masud Mansuripur 訳:辻内 順平
- ■【コンピュータイメージフロンティア VFX 映画時評】
- Dr.SPIDER
- ■【入試問題に学ぶ光のあれこれ】第14回 レーザー冷却と絶対零度への道
- 日本大学 柴田 宣
コラム
- ■【ホビーハウス】マイクロオプティクスの学習器具への利用
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
- ■【非凡なる凡人 私のなかの松下幸之助】光方式ビデオディスク
- 神尾 健三
■掲示板
■O plus E News
■New Products
■オフサイド
■次号予告
特集のポイント宇都宮大学 大谷 幸利
今月の特集は「光アクチュエーター」である。一般にアクチュエーターは,ある入力されたエネルギーを力学エネルギーとして取り出す機構と定義されている。本特集ではもう少し広く考えて,光で動かしたり,光を動かす機構を「光アクチュエーター」とする。「光で動かす」は入力として「光」,出力として「力」を取り出す機構,また,「光を動かす」はアクチュエーターの出力ネルギーによって光を走査する機構とした。これらに関連した特集として,O plus E では1998 年の「光マイクロマシンの可能性」1) や2001 年の「最近のMEMS 技術」2) がある。前回の特集からほぼ10 年経過した現在の様子を9件の解説記事として執筆をお願いした。 「光で動かす」は,現在までさまざまなアクチュエーターやマニピュレーターが提案されている。特に,従来の電気駆動をそのまま利用するには,さまざまな問題が生じる。小型化や特殊環境下での使用において光を駆動エネルギーとすることは,ワイヤレスでエネルギーを供給できるとともに,遠隔操作が可能となることから注目されている。現在までに報告されている代表的な光駆動を表1 に示す。光駆動の代表的な例はレーザートラッピングである3)。これはすでに幅広い分野で利用されており,実用化にまで至っている。エバネッセントフォトン力による微粒子駆動も可能となっている4)。光駆動法の最も先駆的な研究としては,PLZT 素子を用いた微小歩行機構がある5)。PLZT 素子でできたバイモルフの足に紫外線を照射すると,光歪効果によって非対称に設置されたガラスのつめで地面をとらえて移動する。この走行速度は数十mm/min という。この技術を使った光駆動モーターの開発も報告されている。
光化学変化は,さまざまな可能性を持っている。『光で動きを変える微生物―ロドプシン分子による光受容と情報伝達機構―(名古屋大学)』では,ロドプシン分子の光化学反応はさまざまな波長で細胞を刺激し,それを利用した動きの制御や情報伝達に関する解説がある。また古くから,光の照射によって変位が得られる材料の開発が試みられているが,ホログラムでよく使われる材料のアゾベンゼンを含有する高分子に紫外線を照射することによって分子の形状を変化させ,プラスチックフィルムが90° 以上屈曲するといった報告がされている14)。また,照射光の偏光状態によって屈曲方向が決まり,可視光を照射することによって元に戻る。これを用いた光駆動モーターへの応用が提案されている。『桂皮酸エステルやアントラセンの光二量化反応による光駆動(兵庫県立大学)』では,これらの詳しい解説がなされている。
『動力としての光駆動(国際基督教大学)』では,光エネルギーを利用する際の変換効率を求めて,反応速度および変換効率を向上させた形状記憶合金と組み合わせた機構が解説されている。さらに,『パッシブ磁気浮上による非接触光駆動法(徳島大学)』では,新たな機構として磁気浮上した物体を光制御することにより3 次元空間を非接触で駆動可能であることが解説されている。これらは,すぐに実用化できる保証はないが,将来性を見据えた研究として興味深い。
『マイクロナノ光造形法が拓く光駆動ナノロボットと未来医用デバイス(東京大学)』は,「光で動かす」の実用化に最も近い技術の紹介である。バイオメディカル分野との融合分野,バイオ・メカノフォトニクスとして新たなる学問や産業を拓くものとして期待できる。これによって将来的には,光のみで駆動する光センサー機能を持った“ナノ・マイクロ光ロボット”が確立されるのではないかと思っている。
一方,「光を動かす」は,いよいよ実用化が目の前に見えてきている。『MEMS 光スキャナー(東京大学)』では,最新のデバイス構造と駆動方式を解説されている。『光マイクロスキャナーの低侵襲医療への応用(東北大学)』,『光通信用シリコン導波路MEMS(東北大学)』および『レーザTV(三菱電機)』では,MEMS の実用例として医療,通信とレーザーテレビへの応用の解説をお願いした。
「光を動かす」分野のMEMS 技術に対して,「光で動かす」分野は材料に依存するところが大きい。前回10年前の特集から明らかなように,「光を動かす」技術の進歩は着実に実用化に向かっており,ますます目が離せない存在になっている。「光で動かす」技術は,近年,有望な高分子材料が開発されており,10 年後の実用化も夢ではないのではないだろうか。
参考文献
- O plus E 特集「光マイクロマシンの可能性」,Vol. 20,No. 1(1998)
- O plus E 特集「最近のMEMS 技術」,Vol. 23,No. 2 (2001)
- A. Ashkin, J. M. Dziedzic, J. E. Bjorkholm, and S. Chu: Opt.Lett., Vol. 11, No. 5, pp. 288 ~ 290 (1986)
- S. Kawata and T. Sugiura: Opt. Lett., Vol. 17, No. 11, p. 772(1992)
- K. Uchino: “Micro Walking Machines Using Piezoelectric Actuators,” Journal of Robotics and Mechatronics, Vol. 1, No. 2 (1989)
- 中田毅,曹東輝,木村誠,謝啓裕:“光サーボシステムの基礎的研究: PLZT 素子における光起電力効果の電気的モデル”,日本機械学会論文集(C 編),58,552,pp. 2513 ~2518 (1992)
- 福田敏男,光岡豊一:「夢のマイクロロボット」,オーム社(1995)
- 福島健一,大谷幸利,吉澤徹:精密工学会誌,Vol. 64,No. 10,pp. 1512 ~ 1516 (1998)
- Y. Otani and Y. Matsuba: Proc. SPIE, Vol. 4564, pp. 216 ~219 (2001)
- Y. Otani and Y. Matsuba: Proc. SPIE, Vol. 5264, pp. 150 ~153 (2003)
- 滝澤秀一: O plus E,Vol. 24,No. 3,pp. 300 ~ 304 (2002)
- 水谷康弘,大谷幸利,梅田倫弘:電気学会論文誌E,Vol. 126,No. 4,pp. 170 ~ 171 (2006)
- K. T. Kotz, K. A. Noble, and G. W. Faris : Appl. Phys. Lett.,Vol. 85, p. 2658 (2004)
- Y. Yu, M. Nakano, and T. Ikeda: Nature, Vol. 425, p. 145(2003)