OplusE 2010年7月号(第368号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
新しい映像表現とディスプレイ
- ■特集にあたり
- OplusE編集部
- ■テクノロジーの進化で拡がる表現の領域
- 女子美術大学 為ヶ谷 秀一
- ■リアルバーチャリティー ―映像の中のウソ=人間にとって現実よりもリアルな架空世界のこと―
- 栗田 正樹,北海道大学 青木 直史
- ■超高精細度画像 ― 10 億画素で歴史的工芸品を記録する―
- 日本電信電話 土田 勝
- ■多原色映像システムによる高忠実・広色域色再現
- 東京工業大学 山口 雅浩
- ■体表への映像投影による腹腔鏡下手術支援システムの構築
- 千葉大学 中口 俊哉,林 秀樹,津村 徳道
- ■触覚フィードバックのある空中映像
- 東京大学 篠田 裕之
- ■バーチャルマネキン ―そのコンテンツ制作と利用―
- 田中印刷所 田中 由一
- ■LED アレイ回転型ボリューム 3D ディスプレイ
- 金沢工業大学 坂本 康正,清水 太朗
- ■通常インクとフルカラー発光インクの同時印刷―TRICK・PRINT―
- SO-KEN 浅尾 孝司
連載
- ■【一枚の写真】多層カーボンナノコイルの合成
- 豊橋技術科学大学 須田 善行,滝川 浩史
- ■【私の発言】研究は面白いから続けられる。(前編)
- Marine Biological Laboratory 井上 信也
- ■【第9・光の鉛筆】24 プラネタリウム6 国産プラネタリウムの誕生1
- ニコン 鶴田 匡夫
- ■【波動光学の風景】第60回 62. 球面波とワイルの表現
- 東芝 本宮 佳典
- ■【新 Engineering シリーズ】4. 光パルスの圧縮
- アリゾナ大学 Masud Mansuripur 訳:辻内 順平
- ■【コンピュータイメージフロンティア VFX 映画時評】
- Dr.SPIDER
- ■【入試問題に学ぶ光のあれこれ】第16回 虹
- 日本大学 柴田 宣
コラム
- ■【ホビーハウス】空中に浮かぶ立方体と人の像 ―先月号の続きとして
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
- ■【非凡なる凡人 私のなかの松下幸之助】幸之助の戦略
- 神尾 健三
■掲示板
■O plus E News
■New Products
■オフサイド
■次号予告
特集にあたりOplusE編集部
展示会やイベント会場で,大変個性的で魅力あふれる映像ディスプレイに出会うことがたびたびある。また研究会では,「実物を体験すると,さぞ魅力的だろう」と思われる講演にもたびたび出会うことができる。ディスプレイ機器のハードウエア優先ではなく,「新しい映像表現」という切り口で特集をしてみたいという話題は,編集部の中でしばらくの間上がっていたが,その誌面の作り込みが課題であった。また,今回の「新しい映像表現とディスプレイ」という企画においては立体映像に関連する発表も多く,後の特集テーマで取り上げる内容と重複する恐れがあるため,本号では立体映像から距離を置いた内容を選んだ。
本誌のような印刷物では,それぞれのディスプレイの魅力のごく一部しか,お伝えすることができない(実物を見せることができない)という制約があるが,各著者がWeb を介して提供している情報を紹介し,解説の本文とあわせてお読みいただくことで,できる限りの情報提供をしたいと考えた。幸い,どの著者も力一杯の紹介をされているので,この「特集にあたり」ではURL アドレスを数多く紹介し,また見聞した体験をご報告することとする。編集部としての見落としや思い違いのある可能性もあるが,ご容赦いただきたい。また説明の都合上,一部目次の順とは異なっている。
まず,表紙の写真をご覧いただきたい。3 枚の写真が並んでいるが,これは1 枚の印刷物を照明を変えて撮影したものである。「通常インクとフルカラー発光インクの同時印刷― TRICK PRINT ―」浅尾孝司氏(SO-KEN)での効果は,実物を目の前に置くと体験することができる。同社のWeb サイトでは,マウスカーソルを画像に当てると表示されている画像が切り替わり,発光インクの効果を疑似体験できるようになっている。
■ http://www.trickwall.com/trick-print/index.html
「テクノロジーの進化で拡がる表現の領域」為ケ谷秀一教授(女子美術大)は元NHK で,放送へのCG システムの導入,テレビ番組制作への応用など先駆的な取り組みを行い,デジタルメディア開発の一翼を担った人である。最新の4K 画像などの技術とコンテンツの関係をバランスよく総括的に解説することで評判が高い。
■ http://www.joshibi.ac.jp/tagblocks/second/news/mastermediastaff/0000001275.html
「リアルバーチャリティー―映像の中のウソ=人間にとって現実よりもリアルな架空世界のこと―」栗田正樹氏(ソノーク),青木直史助教(北海道大)のタイトル「リアルバーチャリティー」は両人による造語である。
バーチャルリアリティーは,現実世界の物理法則を模擬することで仮想世界に現実世界と同じ物理的なリアリティーを再現しようとしているのに対し,リアルバーチャリティーでは仮想世界における心理的なリアリティーを追究している。そこでテレビCM 用に制作された『もんすけ』を例に挙げて,現実の物理現象とはまったく違う動きや形から,どれほどリアルな架空世界が作り出されているのかを紹介する。『もんすけ』の動画は,同社のWeb サイトで見ることができる。
■ http://www7b.biglobe.ne.jp/~shonogh/
「超高精細度画像― 10 億画素で歴史的工芸品を記録する―」土田勝氏(NTT コミュニケーション科学基礎研究所)では,実際に記録された歴史的工芸品の情報を講演で見せていただいたことがあるが,その迫力は圧巻であった。最初,工芸品である織物の全体がスクリーンに表示され,拡大していくと織り目の細かい部分まで見えてくる。現在博物館に収められている収蔵品が,10億画素の記録として広くWeb 上で公開される時代が来るとしたら,文化的価値は高く,またわれわれの日常生活も豊かになるのではと感じた。
■ http://www.brl.ntt.co.jp/people/tsuchida/index.html
「多原色映像システムによる高忠実・広色域色再現」山口雅浩准教授(東京工業大)では,高忠実・広色域の映像システムやディスプレイ,6 バンドHDTV(High- definition Television)動画カメラによる映像撮影結果等について解説している。なお,ある講演会では集まった観客の前で6 原色プロジェクターのセットアップが行われたが,その際レジストレーションの調整が手際よく短時間で完了したのには感心した。こういった成果は,研究論文や技術解説では紹介されにくい要素である。また通常のRGB 原色のプロジェクターと比較し,表示されている物の「質感」がはるかに優れていることは,実際に体験してみなければ,なかなかうまく伝わらない。ぜひ実際に,6 原色プロジェクターの像を体験していただきたいと感じている。
■ http://www.isl.titech.ac.jp/~guchi/index-j.html
「体表への映像投影による腹腔鏡下手術支援システムの構築」中口俊哉助授(千葉大)の講演も,聴講すると大変印象の強い研究だと思われる。これまでの津村徳道准教授・中口助教らによる体表面への画像投影の一連の研究では,映写された画像と,実際の体表とが混じり合う不思議な世界が出現する。研究室のWeb サイトは現在整備途中ということで,まだ最新の研究内容が反映されていないのは残念であるが,今後の進展に期待したい。
■ http://www.mi.tj.chiba-u.jp/research.html
「触覚フィードバックのある空中映像」篠田裕之准教授(東京大)では,「触れるホログラフィー」を実現するための研究を紹介している。研究内容を紹介する動画 では,「触れるホログラフィー」の様子が生き生きと伝わってくる。このディスプレイが身近な場所に出現すれば興味深い体験ができそうなことが予測される。
■ http://www.alab.t.u-tokyo.ac.jp/~shino/
「バーチャルマネキン―そのコンテンツ制作と利用―」田中由一氏(田中印刷所)では,展示会やイベントで不思議な魅力を振りまいている「バーチャルマネキン」の 魅力の重要な要素であるコンテンツ制作について解説している。実写ではなく,3DCG によって制作しているため変幻自在で理想的な「バーチャルマネキン」が実現し たといえる。
■ http://www.tanakaprint.co.jp/
「LED アレイ回転型ボリューム3D ディスプレイ」坂本康正教授ら(金沢工業大)では,体積走査型の3D 映像ディスプレイにおいて,コンテンツ作成を行うソフトウエアについての研究成果を報告している。本研究では,垂直方向にLED を多数並べたアレイを,円盤の上にらせん状にずらしながら配置し,その円盤を回転させ,3D ビットマップイメージに対応してLED を点灯制御させることで,実空間上に立体的な画像を表示することができる「ボリューム3D ディスプレイシステム」の開発を行ってきた。さらに,表示するためのソフトウエア,特にコンテンツを作成するためのアプリケーションの開発も行っている。
■ http://www.joshibi.ac.jp/tagblocks/second/news/mastermediastaff/0000001275.html
以上,今回の特集を企画する動機となった講演の発表や展示会での体験をもとに,それぞれの内容の一端を紹介した。