OplusE 2010年8月号(第369号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
光通信ネットワークにおける非線形光学効果
- ■特集のポイント
- OplusE編集部
- ■光通信ネットワークに登場する非線形光学効果
- 大阪大学 井上 恭
- ■映像時代の低消費電力ネットワークと光非線形デバイス
- 産業技術総合研究所 石川 浩
- ■光パスネットワークにおける光パラメトリック効果
- 産業技術総合研究所 並木 周
- ■デジタル信号処理を用いた非線形光学効果の補償技術
- 日本電信電話 佐野 明秀,山崎 悦史
- ■シリカガラス系高非線形ファイバーの高性能化技術
- 古河電気工業 八木 健
- ■ビスマス系光ファイバーの四光波混合を用いた非線形光信号処理
- 旭硝子 長谷川 智晴
- ■PPLN 導波路を用いた波長変換技術
- 日本電信電話 遊部 雅生
- ■カーボンナノチューブを用いた非線形機能デバイス
- 東京大学 山下 真司
特別企画 画像センシング展2010 招待講演
- ■誰にでもわかる画像超解像
- 東京工業大学 奥富 正敏
連載
- ■【一枚の写真】コレステリック液晶レーザーの低閾値化を実現 ― 超高効率発光色素の合成と発光材料の設計指針の確立に向けて
- 東京工業大学 小西 玄一
- ■【私の発言】研究は面白いから続けられる。(後編)
- Marine Biological Laboratory 井上 信也
- ■【第9・光の鉛筆】25 プラネタリウム7 国産プラネタリウムの誕生2
- ニコン 鶴田 匡夫
- ■【波動光学の風景】第61回 63. 点像分布関数
- 東芝 本宮 佳典
- ■【新 Engineering シリーズ】5. 回折光学素子 最終回
- アリゾナ大学 Masud Mansuripur 訳:辻内 順平
- ■【コンピュータイメージフロンティア VFX 映画時評】
- Dr.SPIDER
- ■【入試問題に学ぶ光のあれこれ】第17回 コンパクトディスクの構造色
- 日本大学 柴田 宣
コラム
- ■【ホビーハウス】ステレオ写真の本(86)―アナグリフが個展・出版物からメガネのセットまで勢ぞろい
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
- ■【非凡なる凡人 私のなかの松下幸之助】デジタル オーディオ ディスク(DAD)
- 神尾 健三
■掲示板
■O plus E News
■New Products
■オフサイド
■次号予告
特集のポイントOplusE編集部
光通信ネットワークにおける非線形光学効果光ファイバー通信は,インターネットトラフィックが2年間で約2倍の割合で急増していることを背景に,異なる波長を用いて複数の信号を伝送する波長多重技術,周波数利用効率・分散耐性等を向上する多値位相変調およびデジタル信号処理等による高速化・大容量化の検討が盛んに進められている。また,光ネットワークにおいても光スイッチ技術により光領域での柔軟なパスの設定,変更が可能になっている。近年,このような大容量かつ柔軟な光通信ネットワークの研究開発において,非線形光学効果への関心が高まっている。非線形光学効果は,2 次や3 次の非線形光学効果等があり,信号光のパワーや波長配置等に依存して信号光の強度や位相の変化,波長変換等を起こす現象である。光通信ネットワークにおいて,これら非線形光学効果は「プラス」と「マイナス」の両面を持っており,それぞれの面でさまざまな取り組みがなされている。
光通信の伝送容量が増大すると光信号パワーが増加する傾向にあり,伝送路である光ファイバー中での非線形光学効果(自己位相変調,相互位相変調,四光波混合等)を介して,不要な波形歪みや符号間干渉が生じて伝送特性が劣化する。これらの伝送用光ファイバーでの非線形光学効果は,光通信において「マイナス」面であり,この影響を低減する技術の研究開発が進められている。
一方,非線形光学効果を「プラス」として有効利用するさまざまな研究が進められている。大容量ネットワークと同時に,省エネルギーを目指したグリーンICTも議論されており,その中で非線形光学効果が注目されている。非線形光学効果(和周波光発生,四光波混合等)を有効利用し,波長変換やパルス整形等のように光を電気に変えることなく光のまま処理することで,省エネルギー,大容量かつ柔軟なネットワークの実現を目指した研究に期待が高まっている。
上記のような非線形光学効果の「プラス」面を光通信ネットワークにおいて実現するためには,優れた非線形光学素子の検討が重要であり,光ファイバーをはじめ,さまざまな非線形光学素子の高性能化,高効率化の研究開発が着実に進んでいる。
本特集は「光通信ネットワークにおける非線形光学効果」と題して,第一線でご活躍の専門家の方々に,ご執筆いただいた8 つの解説により構成されている。
- 大阪大学/井上恭先生
「光通信ネットワークに登場する非線形光学効果」 - 産業技術総合研究所/石川浩氏
「映像時代の低消費電力ネットワークと光非線形デバイス」 - 産業技術総合研究所/並木周氏
「光パスネットワークにおける光パラメトリック効果」 - NTT 未来ねっと研究所/佐野明秀氏,山崎悦史氏
「デジタル信号処理を用いた非線形光学効果の補償技術」 - 古河電気工業株式会社/八木健氏
「シリカガラス系高非線形ファイバーの高性能化技術」 - 旭硝子株式会社/長谷川智晴氏
「ビスマス系光ファイバーの四光波混合を用いた非線形光信号処理」 - NTT フォトニクス研究所/遊部雅生氏
「PPLN 導波路を用いた波長変換技術」 - 東京大学/山下真司先生
「カーボンナノチューブを用いた非線形機能デバイス」
産業技術総合研究所/石川浩氏には,将来の映像時代に向けた超低消費電力ネットワーク技術研究の中で,光非線形効果をどのように利用しようとしているかを例に,光非線形効果利用の状況を執筆していただいた。
産業技術総合研究所/並木周氏には,上記の超低消費電力ネットワーク技術研究の中で,最も有効な形で光非線形を利用している「可変波長変換器」,「パラメトリック遅延分散チューナー」,「波長可変パラメトリック光信号再生器」を用いた光パスコンディショニング技術について紹介していただいた。
NTT未来ねっと研究所/佐野明秀氏と山崎悦史氏には,光ファイバー通信における非線形効果による制限を緩和する手段として,最近注目を集めているデジタル信号処理をベースにした補償技術について解説していただいた。応用例として,非線形補償技術を適用した光OFDM 信号の長距離伝送実験にも触れていただいている。
古河電気工業株式会社/八木健氏には,シリカガラス系高非線形ファイバーを中心に光ファイバーの非線形光学効果について執筆していただいた。高非線形ファイバーの非線形光学素子としての応用および実用化へ向けた着実な進展についても述べていただいている。
旭硝子株式会社/長谷川智晴氏には,酸化ビスマスを主成分とするガラス(ビスマス系ガラス)を用いた高非線形光ファイバーの開発と四光波混合効果を用いたデバイス応用について執筆いただいた。また,ビスマス系ガラスと石英系ファイバーについて,変換効率,ファイバー長および波長変換帯域に関する,それぞれの長所について解説していただいた。
NTTフォトニクス研究所/遊部雅生氏には,強誘電体の周期分極反転を利用した周期分極反転LN(PPLN :Periodically Poled LiNbO3)導波路を用いた光通信用の波長変換技術に関して,最近の進展について述べていただいた。
東京大学/山下真司先生には,新しい光非線形機能デバイスであるカーボンナノチューブの研究動向について紹介いただいた。カーボンナノチューブを利用した光非線形機能デバイスは,ファイバーレーザー,光スイッチや波長変換素子などへの応用が検討されており,小型かつ高速な光非線形機能デバイスとして最近注目されている。
以上,本特集は「光通信ネットワークにおける非線形光学効果」に関する研究をされている諸氏に興味深い話題を提供していただいた。光通信ネットワークにおける「非線形光学効果の特徴」および「プラスとマイナスの両面における最新技術動向」について読者にご理解いただき,この分野の活発な議論の継続と発展への一つのきっかけになれば幸いである。