OplusE 2010年12月号(第373号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
フォトニクスポリマー
- ■特集のポイント
- OplusE編集部
- ■総論
- 慶應義塾大学 小池 康博
- ■ゼロ・ゼロ複屈折ポリマー ― 複屈折を発現しないポリマー ―
- 慶應義塾大学/科学技術振興機構 多加谷 明広
- ■情報家電用超高速全フッ素化GI-POF
- 旭硝子 田中 爾文
- ■マルチモードポリマー光導波路
- 東北大学 杉原 興浩
- ■照明ムラを解消するレンズ機能拡散板
- オプティカルソリューションズ 関 英夫
- ■ナノインプリント量産プロセス用フッ素系 UV 硬化樹脂
- 旭硝子 佐野 幹彦
- ■フォトニクスポリマーが拓くFace-to-Faceコミュニケーション
- 慶應義塾大学 小池 康博
- ■高臨場感映像コミュニケーション
- 日本電信電話 向内 隆文,松浦 宣彦
- ■宅内用大口径高速 POF ネットワーク
- 積水化学工業 谷口 輝行
- ■宅内ホームネットワークと POF への対応
- パナソニック電工 松浦 光希,神戸 祥明
- ■高精細ディスプレイと高速伝送
- ソニー 瀧塚 博志
連載
- ■【一枚の写真】ついに室温動作したナノフォトニック論理ゲートデバイス
- 東京大学 大津 元一
- ■【私の発言】大きなブレイクスルーをしようとすればするほど,原点に戻って考えることが大切です
- 慶應義塾大学 小池 康博
- ■【第9・光の鉛筆】27 指揮装置2 方位盤・伝達装置・射撃盤
- ニコン 鶴田 匡夫
- ■【波動光学の風景】第65回 67. 境界条件と回折積分
- 東芝 本宮 佳典
- ■【コンピュータイメージフロンティア VFX 映画時評】
- Dr.SPIDER
- ■【入試問題に学ぶ光のあれこれ】第21回 アインシュタインの光量子仮説と光電効果
- 日本大学 柴田 宣
コラム
- ■【ホビーハウス】ステレオ写真の本(88) ― 少し早い1年のまとめとして ―
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
- ■【非凡なる凡人 私のなかの松下幸之助】RCAの没落
- 神尾 健三
■掲示板
■O plus E News
■New Products
■オフサイド
■次号予告
特集のポイントOplusE編集部
「フォトニクスポリマー」という言葉はあまり聞き慣れていない方が多いと思われるが,本特集号では,この新しい科学技術分野の話題を10名の著名な研究者・技術者に執筆していただいた。「フォトニクスポリマー」の言葉の定義を調べると,物理の分野における「光学あるいは微小光学」と化学の分野における「高分子ポリマー物質学」とを融合することにより生まれた新光機能を持つ機能性ポリマーのこととされている。慶應義塾大学の小池康博教授が2000 年の科学技術振興機構「小池フォトニクスポリマープロジェクト」で初めて命名されたので,科学技術分野では比較的新しい概念と思われる。 そこで,本特集の最初に,小池教授の「総論」でフォトニクスポリマーの基礎を分かりやすく解説していただいた。アインシュタインの光散乱揺動説理論やデバイの散乱理論が登場するが,光の波長サイズに対応する各種散乱現象の本質論は理解いただけるものと思われる。読者には,これらの理論が,やがて「低損失プラスチック光ファイバー」や「液晶テレビ等の導光拡散板」にどのように適用されていったかを理解していただけると思う。光の波動性の説明によく現れる「偏波」,光の粒子性で表現される「光子」または「フォトン」が,高分子の鎖(chain)やその集合体,そしてその高次構造,さらに巨大な不均一構造とどのような関わりを有するかを,その起源にまでさかのぼって検討された。その結果,既存の概念では予測し得なかった新機能が創出された過程がお分かりいただけると思う。プラスチック光ファイバー(POF:Plastic Optical Fiber),光ディスク基板,ディスプレイ等に使われるフィルターや導光板などの光関連材料が光ビームを透過・吸収する際には,応用の邪魔になる「複屈折現象」が付き物のように発生する。その複屈折現象を克服する新素材(ゼロ・ゼロ複屈折ポリマー)の研究に関して,慶應義塾大学理工学部・理工学研究科の附属研究所として設立された慶應義塾大学フォトニクス・リサーチ・インスティテュート(KPRI)の多加谷明広准教授に,ご自身の研究を中心に分かりやすく説明していただいた。まず,応用する際に複屈折を生じない新ポリマー(ゼロ複屈折ポリマー)を解説していただき,さらにゼロ・ゼロ複屈折ポリマーについて述べていただいた。よく知られているように光弾性を有する材料は,応力印加のために複屈折現象を生じる。その性質を調べて,応力を印可しても複屈折を生じない新規な材料開発の研究内容が理解できると思われる。各社で光通信・情報処理システムの経済化・低消費電力化を目指して研究開発が活発に行われているが,小池先生と多加谷先生の基礎論のあとに,光通信,LED 照明,宅内光配線,液晶ディスプレイ等のフォトニクス応用分野において新しいシステムを構築し得るフォトニクスポリマーを実証している企業の方々に,それぞれ興味 あるテーマで執筆していただいている。
まず,10Gbit/s 以上の大容量データ通信ができ,既存の石英では成し得なかったGI(Graded-Index)型プラスチック全フッ素化による超低損失光ファイバーの詳しい話を旭硝子(下部)の田中爾文氏に執筆いただいた。これは,ケーブルを小さく折り曲げた状態でも中は折れず,踏みつけたり折り曲げたり多少乱暴な取り扱いをすることの多い家庭内でも不具合なく安全に安心して使用することができる。また,ポリマー光導波路は,低温加工性や量産性等の利点があり低コスト化が期待できることから,ボード(回路基板)レベルで光配線への適用を目指した光回路が実用間近である。それだけでなく,次世代のFTTH(Fiber to the Home)や次世代ホームネットワーク,さらには車載ネットワークへも適用可能な光部品の応用も挙げられる。これら低温プロセスで加工容易な有機材料を用いる方法は,低コスト/省エネ光部品を作製する点で有利である。これらに関して東北大学の杉原興浩先生には,ポリマー光回路作製法ならびに光導波路関連の性能測定評価について述べていただいている。
LED 電球照明は,省エネと長寿命の点で人気が高いが,光量分布を調べるとタングステン電球に比べて指向性が強い。そこで登場するのが,LED 光を拡散させるポリマーフィルターデバイスである。RGB 各色ビームが指向性を持ったらどうなるか。とても従来の照明に匹敵できる光源とはいえない。しかし,本誌の表紙写真にも見られるようにポリマーデバイスで拡散されると,RGB 各色が混合され拡散角度の広い白色光に変換することができる。この種のデバイス開発に関してオリジナリティーの高い(株)オプティカルソリューションズの関英夫氏に執筆いただいた。
CD やDVD よりも細かいピットを複製できるフォトニクスポリマー材料に関しては,旭硝子(株)の佐野幹彦氏にフッ素化学技術と電子材料技術を活用した離型剤フリーナノインプリントプロセス,および離型問題解決のための離型剤フリープロセスを実現できるフッ素系UV 硬化樹脂について解説いただいている。
さて,以上述べたフォトニクスポリマー材料やデバイスは,家庭内で超高速光通信が可能な超低損失で,かつ経済的にも取り引きできるところまで来ている。高精細ディスプレイ材料に大きな変革をもたらすゼロ・ゼロ複屈折性ポリマーや光散乱ポリマー導光体等も実用段階に至っており,これらを用いた実際の応用について5 名の方に執筆をお願いした。
まず,等身大のディスプレイや超ワイド通信等の話題を「フォトニクスポリマーが拓くFace-to-Face コミュニケーション」と題して小池康博先生に解説していただき,次に,NTT の向内隆文,松浦宣彦氏には最近活気を帯びてきているIPTV サービスについて触れていただいた。FTTH サービスが日本国内ではすでに1,800 万ユーザーを超えていること,IPTV サービスも年々増加し(今年は120 万を超えている),さらに昨今では3 次元映像配信まで行われようとしていること,またNHK を中心として2025 年をめどに,現在のフルハイビジョンの16 倍の解像度を持つ臨場感豊かな映像であるスーパーハイビジョンの実用化を目指していることが知られている。このような高解像度映像を家庭や劇場に届けるサービスは,「いかにユーザーに臨場感を与えるか」がポイントである。通信でのコミュニケーションの際に,臨場感を手っ取り早くかもし出すのは等身大の超高精細ディスプレイである。そのためには40Gbit/s のビットレートの通信が可能で,高精細かつディスプレイ画面の高さは人間の背の高さがすっぽり入るほどの大画面サイズが必要と述べられている。
新築の住宅にはLAN 配線が当然のように配線されるようになってきた。既築住宅でもLAN 配線が必要となってくる。従来の住宅内の情報配線は陳腐化してしまったが,一体どうすればよいのか。そこで登場するのが「プラスチック光ファイバー」という切り出しで,住宅内での伝送線路の高速化の必要性を分かりやすく訴えている積水化学(株)の谷口輝行氏の記事である。
パナソニック電工(株)の松浦光希,神戸祥明氏には,従来の家庭配電盤にも入り込む次世代ホームネットワークについて詳しく述べていただいた。平成22 年6 月の契約数のうち,光ファイバーを使用した宅内LAN の利用も驚くほど増えてきている。通信事業者では光コンセント設置が標準工事となってきており,そのためのLAN配線パネル(光コンセントを内蔵)がすでに商品化されている。FTTH に使用する光ファイバーケーブルおよび光コネクタに対応しており,すっきり配線され宅内でのメンテナンスも向上しているという。
映像配信に関しては,本特集の最後に,ソニー(株)の瀧塚博志氏に詳しく述べていただいた。数年後には,高度化された放送や新パッケージメディアなどにより,毎秒60 枚の動画で画素サイズが4,000 Å 2,000 の超精細ディスプレイが商品化され始めるであろうと述べられている。その時点での非圧縮映像の伝送速度としては40Gbit/s 以上が必要となるため,POF などを使用した新たな非圧縮光伝送方式が大いに期待されるという。
本特集では,上記のようなサービスのコンセプトを実現するために必要な技術について紹介していただいた。以上の11 件の特集記事を通して,フォトニクスポリマーの特徴と,その応用としての夢を読者の皆さまに抱いていただければ,本特集を企画した編集部の喜びとするところである。