OplusE 2011年3月号(第376号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
肉眼視にとってかわるデジタル光学顕微鏡
- ■特集のポイント
- OplusE編集部
- ■肉眼視光学顕微鏡の基礎知識
- ニコン 山広 知彦
- ■ハンディタイプのワイヤレスマイクロスコープ 「エアマイクロ」
- スカラ 畝岡 俊隆,小林 進
- ■ニコンのデジタルマイクロスコープ ShuttlePix P-400R
- ニコン 竹内 淳
- ■デジタルカメラに簡単装着できる高倍率撮影が可能な コンバーター
- プライム・オプティクス 小林 恭
- ■倒立型対物レンズ駆動ピエゾアクチュエーター
- シグマ光機 前田 英孝,齋藤 優介,小松 重彦
- ■高速画像処理による運動細胞トラッキング
- 東京大学 奥 寛雅,石川 正俊
- ■新しいタイプの偏光顕微鏡とアポディゼーション 位相差顕微鏡
- 産業技術総合研究所 加藤薫 ニコン 大瀧達朗
- ■手軽に買えるUSB顕微鏡の使用報告
- OplusE編集部
追悼
- ■宅間宏先生を偲んで
- 電気通信大学 植田 憲一
- ■先輩“山本さん”との思い出
- 日本光学会「偏光計測・制御技術」研究グループ代表/東京工芸大学 川畑州一
連載
- ■【一枚の写真】人工網膜の臨床試験に成功 ― わが国独自の方式による人工網膜の慢性埋め込み試験 ―
- 大阪大学 不二門 尚
- ■【私の発言】起業するには信念が必要です。「画像一筋」この言葉がその表れでもあります。
- ヴィスコ・テクノロジーズ 足立秀之
- ■【第9・光の鉛筆】32 指揮装置5 US海軍訪日技術調査団報告
- ニコン 鶴田 匡夫
- ■【波動光学の風景】第68回 70. 座標の正規化
- 東芝 本宮 佳典
- ■【コンピュータイメージフロンティア VFX 映画時評】
- Dr.SPIDER
- ■【入試問題に学ぶ光のあれこれ】最終回 第24回 エルゴード仮説とワイルの撞球
- 日本大学 柴田 宣
コラム
- ■【ホビーハウス】ステレオ写真の本(90)―クロマデプス方式の 新しい展開―
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
- ■【非凡なる凡人 私のなかの松下幸之助】その心はロマン
- 神尾健三
■掲示板
■O plus E News
■New Products
■オフサイド
■次号予告
肉眼視にとってかわるデジタル光学顕微鏡OplusE編集部
光学顕微鏡(以下“顕微鏡”)は,光学系で作られた拡大像を直接眼で見る“肉眼視の”光学系として発展してきた。しかし近年,顕微鏡が大きく変わりつつあり,最近では顕微鏡にデジタル技術(画像のキャプチャー,処理,制御,表示など)を合わせて新しい展開を見せている。デジタルカメラに端を発した高画素数のイメージセンサーの実用化,PC のモニターディスプレイおよびハイビジョン規格のデジタルテレビ放送への切り替わりに対応した,大画面高画素数のフラットパネルディスプレイ(以下,FPD と略)の実用化と低価格化により,光学系による拡大像をイメージセンサーで検出(記録)して,FPD に表示し,表示された像を観察する方式が10 年ほど前から実用化され始めた。ここへ来て,急激に多くの種類が製品化され使用されている。
ここでは,その方式を総称して“デジタル(光学)顕微鏡”と呼ぶことにする。本号で紹介されている本『FieldGuide to Microscopy』でも“Digital Microscopy”と記述されている。この“デジタル光学顕微鏡”の対語を“肉眼視(あるいは直接視)光学顕微鏡”と呼ぶことにする。
デジタル画像を得る利点は画像処理がらみが多いが,この特集では,タイトルで謳っているように,“肉眼視にとってかわる”ことに重点を置いた特集を組んだ。一般的にはデジタル顕微鏡に含まれ,デジタルが基本である“共焦点顕微鏡”については,O plus E の2009 年6月号で“裾野が広がる共焦点顕微鏡”として特集を組んでいるので,これに関連する記事は除くことにした。また,(デジタル)画像処理に重点がある研究& 製品についても,この特集では除外した。その結果,一般的にイメージされる“デジタル顕微鏡”とは少し違った特集になった。
この特集は,光学顕微鏡のプロの(特に生物用の)使用者ではなく,小さいものを拡大して見たい一般の人向けの特集である。あわせてプロの光学(像)技術者でない読者に,光学顕微鏡の基本的な事項を(再)認識してもらうことも目的としている。この特集では,まず最初に,従来の(肉眼視)顕微鏡についての基礎的な項目および各種顕微鏡について,(株)ニコンの山広知彦氏に,誌面の許す範囲で詳細に解説していただいた。
第2番目に,デジタル顕微鏡として美容院などで多く使われているスカラ(株)のハンディタイプのワイヤレスマイクロスコープ「エアマイクロ」について,同社の畝岡俊隆氏らに紹介していただいた。
第3番目として,(株)ニコンのデジタル顕微鏡システム「シャトルピクス」について,同社の竹内淳氏に紹介していただいた。
第4番目として,普通のデジタルカメラにアダプターのレンズを取り付けて拡大像を得るプライム・オプティクス(株)の超接写コンバーター「PO – MC1」について,同社の小林恭氏に紹介していただいた。
第5番目として,シグマ光機(株)の倒立型対物レンズを駆動するピエゾアクチュエーターについて,同社の前田秀孝氏らに紹介していただいた。この記事は“デジタル顕微鏡”には直接関係していないが,将来的には顕微鏡のオートフォーカスに発展する可能性があるので(ピエゾ素子のヒステリシス特性など解決すべき問題はあるが),この特集で取り上げた。
第6番目として,東京大学の石川正俊先生の研究室ほかで実用化を進めている,高速画像処理による「運動細胞トラッキング」について,同研究室の奥寛雅氏らに紹介していただいた。これについては,本誌の前号(2011 年1 月25 日発行)の2 月号の特別企画「鼎談」でも語られている。
第7番目として,産業技術総合研究所の加藤薫氏および(株)ニコンの大瀧達郎氏に,生きたままで細胞の性質や構成分子の分布を観察・計測する「新しいタイプの偏光顕微鏡とアポディゼーション位相差顕微鏡」についての研究開発の現状を紹介していただいた。
最後におまけとして,編集部で実際に「安価なUSB顕微鏡」を購入して使ってみた報告記事を載せた。子供の夏休みの自由研究等で,手軽に光学顕微鏡を使ってもらえれば幸いである。また,関連ある顕微鏡の本,SPIE のField Guide シリーズの13 番目である『FieldGuide to Microscopy』の紹介記事も載せた。
この書での“Digital Microscopy”の利点として,1.同一物体を異なる条件で撮った複数の顕微鏡画像を合わせて比較する機能(例えば,異なる波長の光で撮った分光像や偏光像のより高度な解析や処理ができる),2. 像の修正,3. 高時間分解能の画像の取得(短時間露光,高フレームレート),4. 長時間露光記録,リモート記録,5. 走査顕微鏡,6. 低照度(蛍光)顕微鏡,7. コントラストの強調,分解能の改善,8. 超解像,9. 高視野化,10.紫外および赤外顕微鏡,を挙げている。
光学顕微鏡の全般的なことに関しては,メーカーの紹介も含めて,日本顕微鏡工業会のURL(http://www.microscope.jp/)を見ていただきたい。
現在のデジタル光学顕微鏡は,画質[分解能,コントラスト(の認識限界),色再現性]に関して,肉眼視顕微鏡を超えてはいないが,被写体を簡便にセットあるいは被写体に近づけたり,自由な姿勢で観察できるなど,肉眼視顕微鏡にはないメリットがあり,その利活用分野が広がっている。将来的には,検出系・処理系・表示系のさらなる高性能化により,肉眼視では観察しにくい,あるいはできない観察ができるようになり,肉眼視を超える“デジタル光学顕微鏡”システムに発展する可能性があるということで,誤解を覚悟で,あえて“肉眼視にとってかわるデジタル光学顕微鏡”という特集のタイトルにさせていただいた。