OplusE 2011年5月号(第378号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
ちょっと気になる光学系2011
- ■特集のポイント
- 東京工芸大学 渋谷 眞人
- ■収差論の発展と今後の課題
- キヤノン 荒木 敬介
- ■光学設計における新しい非球面定義式
- サイバネットシステム 秋山 健志
- ■成形レンズ・ミラーのための光線追跡法
- 理化学研究所 西舘 陽平
- ■低色収差屈折率分布型プラスチックロッドレンズ
- 三菱レイヨン 入江 菊枝
- ■複眼光学系を利用したカプセル型内視鏡の可能性
- 大阪大学大学院 山田 憲嗣
- ■揺動スクリーンによるレーザーディスプレイのスペックルノイズ低減
- 三菱電機 桑田 宗晴
- ■自動調心機能を持ったシングルモードファイバー結合光学系
- 情報通信研究機構 有本 好徳
連載
- ■【一枚の写真】蓋をするとあふれだす光
- 早稲田大学 井村 考平,分子科学研究所 岡本 裕巳
- ■【私の発言】日本人の持つ”心の襞”の多さは武器になる
- スペクトラ・フィジックス 遠矢 明伸
- ■【第9・光の鉛筆】34 レーダー2 第2次大戦勃発まで2
- ニコン 鶴田 匡夫
- ■【波動光学の風景】第70回 72. 矩形開口の回折像
- 東芝 本宮 佳典
- ■【コンピュータイメージフロンティア VFX 映画時評】
- Dr.SPIDER
- ■【ホビーハウス】黒い背景に消えていく顔
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
コラム
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■オフサイド
■次号予告
ちょっと気になる光学系2011東京工芸大学 渋谷 眞人
光学系は,高解像力化(低収差化),小型化,軽量化など,さまざまな面での性能向上が続けられている。レンズ設計や評価の理論は完成していて,高性能化を遂行するにあたっても単に一生懸命に設計を行えば良いと思われるかもしれないが,新たな問題が現れ,それを解決するためには,基礎理論にさかのぼって見直す必要がある。従来の共軸回転対称な光学系ではなく,非共軸反射系を駆使した光学系が,多くの光学装置において開発されている。軸対称な光学系,特に反射系では光束がけられてしまい,自由な設計が困難である。そのために,非共軸の収差論が発展している。この分野の第1 人者であるキヤノン兼宇都宮大学の荒木さんに,収差論の大きな発展の流れを含めて解説していただいた。低次の回転非対称収差の意味を分かりやすく図解していただき,具体的な応用例も示していただいた。回転非対称の収差論はさまざまに応用され,さらに発展していくと思われる。
非球面が収差低減に有効であることはよく知られているが,非球面を効果的に使うための処理,非球面の製造精度の見積もりなどは,各社あるいは各設計者によっていまだに研究されている。その中の一つとして,Forbes により新しい非球面表現が提案されている。設計そのものではそれほど効果は無いが,誤差評価には非常に有効ということをうわさで聞いている。サイバネットシステムの秋山さんの解説には,基本的な数学的考え方だけではなく,具体的な設計例でこのことが示されており,感覚的にその有効性が理解できると思う。今回の企画の中には用意していないが,奇数次の非球面の扱いについても,有効性や理論的な意義について必ずしも十分にコンセンサスがとられているわけではなく,私も研究している1),2)。シュミット補正版に奇数次を使うことが有効なことは従来から知られていることを,国立天文台の成相先生から指摘された。学生に実際に設計させてみたが,有効であることは明らかであり,もう少し設計検討を詰めようと考えている。光学図面記載に関する国際規格であるISO10110 シリーズの第12 部ISO10110~12“Aspheric Surface”の中にも3 次以上の奇数次と偶数次による展開式について「Equation (12) describes arotational symmetric polynomial surface, known as Schmidt surface.」という文章で紹介されていることに最近気付いた。このISO にはForbes の非球面式も載せる方向で動いているが,Forbes が存命なので名前を冠することはできないそうである。
古典的な光学ガラスだけではなく,プラスチックレンズやロッドレンズなどの材料が光学素子として用いられるようになってきている。プラスチックレンズは軽量であり,熱で塑性するので非球面加工がしやすいなどの利点があり,高精度なカメラレンズにも使われ始めている。射出成型における光学屈折面の変形は複雑であり,光学設計で用いられる通常の関数ではうまく表現できない。これを解決する手法として,長田パッチを用いた面形状の表現について,具体的数値評価も含めて,理化学研究所の西舘さんに解説していただいた。
屈折率分布型ロッドレンズによる結像光学素子がプリンターやイメージスキャナーに使われている。色収差を改善するロッドレンズについて,その理論的な考え方と,実際の製法,製造されたロッドレンズの評価について,三菱レイヨンの入江さんに分かりやすく解説していただいた。結像ロッドレンズでは日本が先陣を切っており,ここで紹介していただいたような,さらなる技術開発で世界をリードしていただきたいと思う。なお,多くの光学設計者としては色収差理論の式(2)の導出に興味があると思うが,入江さんの解説の中の引用文献4)に入江さんが分かりやすく記載しているので参照していただきたい。依頼するときに,予定紙数を超えてもよいから記載していただくようお願いしておけばよかったのであるが,
レーザー光源がさまざまなところに使われるようになってきているが,レーザー光は干渉性が良く,そのために不要なスペックルパターンが発生してしまう。この解決方法は現在盛んに議論されている。スタンフォード大学の著名な教授であるGoodman は“Speckle Phenomena in Optics”という本を2007 年に著しており,プロジェクターのスペックル低減についても具体的に議論している(三菱電機の桑田さんの引用文献にある)。三菱電機ではプロジェクターのスペックル低減をさまざまな観点から研究しており,この分野の最先端を走っている。今回はその中のスクリーンを揺動させる方法について,桑田さんに解説していただいた。実際の光学装置では,スペックル低減だけでなく,照度の一様性や色バランスなど多くのことを考慮しなくてはならない。その意味では,光学系や光学素子の構造と働き(一種のノウハウ)を理解している企業しか,最終的に解決することができないと思われる。しかし,学会レベルでも今後盛んに議論していくべきであり,特に異なる業種間における情報交換は開発の大きな手助けになると考える。理論的にも興味深いテーマであり,機会があれば,スペックルだけで企画を組むことも大いに意義があると思われる。
衛星間の光通信だけではなく,大容量の光無線通信が今後さまざまなところで使われると考えられている。情報通信研究機構の有本さんに,基本的な原理と,その開発の実際について紹介していただいた。光学系の収差設計についても検討しており,興味深かった。私も衛星間の光通信に絡んだ光学設計の検討をしたことがあるが,光学設計による装置の性能向上は重要と思われる。多くの場面での応用に向けて,さらに発展していくことが期待される。
(補)屈折率分布型ロッドレンズの色収差補正条件
図に示すように,簡単のためメリジョナル面(子午面:中心軸を含む平面)内の光線を考える。屈折率は連続的に変化するのであるが,微小厚さの層状に変化すると考え,外に向かう光線のある境界でのスネルの法則を考える。境界の中心軸側の屈折率をn1,入射角をθ1,外側の屈折率をn2,出射角をθ2 とする。スネルの法則は とかける。波長が変化し屈折率がn1 + Δ n1,n2 + Δ n2 となったとする。このときにも(1)式が同様に成り立てば色収差が無いと考えられる。よって, となる。アッベ数ν は次式で表すことができる(厳密な定義は波長を指定する必要があるが,簡単に次式で考えて問題ない)。 (1),(2),(3)式より, となる。これを変形して,屈折率n とアッベ数ν が次式の関係を満たすことが要請される。
参考文献
- 谷川剛基他:“奇数次非球面の有効性”,光学36 巻11 号, p.646 (2007)
- M. Shibuya et al.: “Theoretical investigation of the meaning odd-order aspherical surface and numerical confirmation of effectiveness in rotational-symmetric but off-axis optics,” Opt. Eng., Vol. 49, No. 7, p. 073003 (2010)