OplusE 2011年6月号(第379号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
『安全・安心』の計測技術
- ■特集のポイント
- 埼玉医科大学 吉澤 徹
- ■グローバルCOEプログラム 「セキュアライフ・エレクトロニクス」での研究動向
- 東京大学 保立 和夫
- ■NTTドコモのエリアメール
- O plus E編集部
- ■エスカレーター乗降口倒れ検知センサー
- 三菱電機 猪又 憲治
- ■非接触新生児呼吸モニタリングシステム
- 慶應義塾大学 青木 義満
- ■食品の品質評価における微弱発光計測の応用
- 農研究機構 原 昌司,宇都宮大学 齋藤 高弘
- ■緑色蛍光タンパク質を用いた有害金属による土壌汚染の計測
- 宇都宮大学 前田 勇
- ■寺社仏閣を対象とした歴史遺産の無人監視システム
- 立命館大学 谷口 仁士,山内 寛紀
- ■監視カメラの標準化
- O plus E編集部
特別企画 画像センシング展2011特別招待講演プレインタビュー
- ■感性・意識の画像センシングは可能か? ―画像センシング技術試論―
- 中京大学 輿水 大和
連載
- ■【一枚の写真】毎秒150コマで撮影できるリアルタイムステレオビジョン
- 東京工業大学 實吉 敬二
- ■【私の発言】世界の耳目が日本に集まっているこの時期に,何を発信できるのか
- グローバルプラン 岡村 治男
- ■【第9・光の鉛筆】35 レーダー3 日本のレーダー開発1
- ニコン 鶴田 匡夫
- ■【波動光学の風景】第71回 73. フーリエ変換
- 東芝 本宮 佳典
- ■【コンピュータイメージフロンティア VFX 映画時評】
- Dr.SPIDER
- ■【国立研究所は今】産業技術総合研究所 ―有機デバイス材料・オプトエレクトロニクスに対する理論展開―
- (新)ナノシステム研究部門 下位 幸弘,関 和彦,今村 裕志
- ■【ホビーハウス】
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News
■New Products
■オフサイド
■次号予告
特集のポイント埼玉医科大学 吉澤 徹
今月の特集号のタイトルに用いられている表現「安全・安心」には多くの切り口があって,いくつかの分野からのアプローチが可能である。本誌でも2009年7月号の特集「身近な安全を支える光技術」においては,食の安全や災害問題に力点を置いたトピックスについて近年の技術動向が述べられている。また,今年1 月号で特集された「植物工場と光技術」も,外部からの侵入を防ぐことができる植物工場という隔離された建物内において,安全であると同時に人工的に環境をコントロールできる場所を確保し,持続的に一定品質の食を(天候に左右されることなく)生産維持するという「安全・安心」の典型的な技術例を取り上げている。農学分野ではこうした技術が「自動制御」と呼ばれていたことがあり,いささか面食らった覚えがある。また他誌の例では,日本機械学会誌が2011年1月号において,交通問題を中心とした社会工学ともいうべき立場から「最近の安全・安心のための技術」という特集を組んでいる。今回本誌が「安全・安心」を意識した特集を企画するに際しては,3月11日に発生した大地震および原子力発電所の事故を含めた東日本大震災問題を予測することはできなかった。実際に今月号で取り上げた具体的なトピックスに関しては,何回かの編集会議で検討をいただき,今回は食品問題,健康問題,社会構造に関連する問題などの記事をまとめることとなった。個々の記事の内容に関してはお読みいただくことが肝要なので,あえて概要を省かせていただく。お読みいただいたみなさまからご感想などをお寄せいただければ幸いである。
なお,2009年の特集で触れられていた電磁波の波長領域ごとの応用事例として,建物内の様子を壁を通して知ることができる“透視”技術も,マイクロ波による隔壁透過時の様子から(スネルの法則に基づく屈折量を考慮するなどして)分解能を高めることにより,建物内の検出対象として人間や銃などを特定するという報告が発表されている1)。また,社会生活における安全という立場から,監視カメラ(Surveillance camera)技術と設置の是非なども考慮したいテーマである。これに関しては,意外なことに英国が世界で最大の設置件数を有しており,システムとしての監視カメラCCTV(Closed-circuit Television)420万台は世界の20%を占めているといわれる。監視カメラといっても,犯罪捜査目的以外にも,鉄道やエレベーター,エスカレーターなどにおける安全性確保への応用もあり,さらには顔認識なども可能とするインテリジェント技術が搭載された検知システムへの拡張も行われている。英国といえば電子マネーの試みも地方都市であるスウィンドンで古くから積極的に行われるなど,保守的と思われがちな英国がこうした面で先進的であることは興味深い。
さて最近は,特に医療関係にあっては,“QOL(Quality of Life)”という言葉が折に触れて用いられている。広義には,近年の社会にあっては,健康な身体を維持して長寿を達成するとともに生活の質を高く維持しようとする概念である。そのためには,安心な日常生活を送るとともに,万一の災害に備えて安全な社会を築く必要がある。世界人口についても, 国連の世界人口推計(2010 年版)によれば,世界の総人口は今年の10 月末には70 億人を突破する見通しという。国別の人口数にも大きな変化が生じつつある。このことは食の確保が重要となることはもとより,宗教や信条を含めての考え方に違いを持った人々の割合や地理的な分布にも変化が生じることを意味している。近年の多発テロなどの背景にもこうした事情が潜んでいる。2001 年に発生した9.11事件は予期せぬ災害にいかに対応すべきかについて強烈な試練となった。前ニューヨーク市長のルドルフ・ジュリアーニ氏が指摘するように,危機管理における最大の対応は「指揮と管理」であって,「指揮においてもっとも大事なことは,指令を出すのは一人の指揮官に限定された“ワンボイス”体制だ」という教訓が生まれている。今回の特集では含められなかったのであえて「特集のポイント」というか「災害時のポイント」として記させていただくが,わが国の東日本大震災と原子力発電所事故に伴う政府と電力会社の対応のまずさには愕然がくぜんとせざるをえない。しかも,新聞報道によれば,ウィキリークスが伝える2008 年付け米国の機密公電では,日本の災害対策を巡って「不測の脅威への脆ぜい弱じゃく性が高まる可能性がある」と指摘されていたという。現在大きな問題となっている原子力発電所,特に原子炉に関する計測技術については,ロシア科学院シベリア支所の研究者グループにより数多く発表されている2)。
実は筆者にとって大変に皮肉なことに,現在の筆者の研究課題の一つには(福島原発問題とは直接の関連はないが)原子力燃料棒用パイプの形状測定がある。こうした事情もあって,筆者にとっては極めて切実な「安全・安心」特集号となっている。
参考文献
- R. Schechter, S. Chun: “High-resolution 3-D imaging of objects through walls,” Optical Eng. 49, 11, pp. 113204-1~113204-7 (2010)
- Yu Chugui et al.: “Three-dimensional noncontact inspection of geometric parameters of grid spacers in nuclear reactors,” Optoelectronics, Instrumentation and Data Processing,39, 5, pp. 4~15 (2003)