OplusE 2011年8月号(第381号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
第120回記念微小光学研究会「微小光学30年とこれからの30年」より
- ■微小光学30年とこれからの30年
- 後藤顕也
- ■面発光レーザーとマイクロレンズアレイ
- 東京工業大学 伊賀健一,宮本智之
- ■30年後のDVDメモリー
- 元松下電器産業株式会社 神尾健三
- ■イメージセンサーとカメラシステム―創業から未来へ
- 元ソニー株式会社 越智成之
- ■グローバル競争に勝つための半導体事業戦略
- 三菱電機株式会社 久間和生
- ■レーザーのエネルギー応用―レーザー誕生50年とこれからの30年
- レーザー学会 中井貞雄
- ■宇宙産業と光学―これまでの30年これからの30年
- 三鷹光器株式会社 中村勝重
- ■光ファイバー通信技術の歩みと見果てぬ光集積回路の夢
- NTTエレクトロニクス株式会社 河内正夫
- ■持続可能な世界を支える光インターコネクト技術
- 日本アイ・ビー・エム株式会社 中川茂
連載
- ■【一枚の写真】高分子球晶の織りなす世界 ―光と熱のイメージング―
- 東京工業大学 森川淳子
- ■【私の発言】研究はフェーズによって立場を変えることが大事
- プライム・オプティクス 有本昭
- ■【第9・光の鉛筆】37 レーダー5 第2次大戦中のレーダー開発1 イギリスとUSAの協力とマイクロ波レーダー
- ニコン 鶴田 匡夫
- ■【波動光学の風景】第73回 75. 光ディスクの信号再生
- 東芝 本宮 佳典
- ■【コンピュータイメージフロンティア VFX 映画時評】
- Dr.SPIDER
- ■【国立研究所は今】メタマテリアルで新しい光の世界を開く
- 理化学研究所 基幹研究所 田中メタマテリアル研究室 田中拓男
- ■【ホビーハウス】鏡の食器と鏡のおもちゃ
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
微小光学30年とこれからの30年後藤 顕也
レーザーを中心とするアクティブな微小光学デバイス,ならびに光ファイバー,グリンレンズ,グレーティングレンズを中心とするパッシブな微小光学素子の技術開発と応用デバイス/装置開発は,応用物理学会/日本光学会の中に微小光学研究グループが誕生した1980 年末から数えてこの30 年間に,飛躍的な発展を遂げてきたことは本書の読者諸兄はご存じのとおりと思います。応用物理学会/日本光学会/微小光学研究グループは1980 年12 月の発足以来,年間4 回の研究会を開催し続けてまいりました。おかげさまで,今回の微小光学研究会は研究グループの創設以来ちょうど30 年目の第120 回研究会の記念研究会となりました。これも,毎回熱心に参加してくださる皆さまのおかげと,微小光学研究グループ委員一同心から感謝しております。
記念研究会ですので,本研究会のテーマを「微小光学30 年とこれからの30 年」としまして,30 年前にはほとんど存在すらしていなかった微小光学デバイスとその応用の歩みをご講演/執筆いただくとともに,今後の30年,すなわち2041 年にここで取り上げた各分野がどのように発展または消えてしまうかという予想を,著名な9 名(本特集では都合により8 名のみ)の研究者・技術者に執筆していただきました。それぞれの熱い思いをくみ取っていただければ幸甚です。
最初のご講演とご執筆は,1977 年にご提案,1979年にレーザー発振を実現された面発光レーザーならびに1981 年に初めて実現されたマイクロレンズアレイ開発をはじめ30 年後の予想も含めて東京工業大学の伊賀健一先生にお願いしました。
アナログ光ディスクが最初に研究開発されたのは,1972 年,オランダのフィリップス研究所でしたが,企業用のデジタル光ディスクが(株)東芝の「トスファイル」という名で市販されたのは1981 年でした。民生用の光ディスクでは,1982 年10 月にCD が世界一斉販売され,1996 年にはDVD が,2005 年には次世代DVD といわれたBlu-ray ディスク(BD)と2008 年に生産が中止されたHD DVD が発売されています。この30 年間の展望を元松下電器産業(株)の神尾健三氏に,ほとんど予稿無しでご講演していただきました。われわれが最もお聞きしたいのは30 年後の光ディスクの姿でした。「2040 年のDVD は健在か?」という問いかけが魅力的です。本特集では概要のみを書いていただきました。
イメージセンサーとカメラシステムに関しては,当初悪戦苦闘の末にCCD 開発に成功され,「マビカ」と呼ばれたデジタルカメラやムービーカメラへの搭載実績を作られた元ソニー(株)の越智成之氏に興味深いご講演/執筆をちょうだいできました。30 年後のイメージセンサーについても詳しく述べていただいています。
三菱電機(株)の久間和生氏には,グローバル競争に勝つための半導体事業戦略として,パワーデバイスと半導体レーザーのイノベーションに力を注がれることなどを興味深く執筆していただきました。
従来の日本の「ものづくり」は「良いものを安く大量に製造し販売すること」で成功を収めてきました。ところが近年,中国や韓国,台湾企業の台頭が著しくなってきています。当初は,「安かろう,悪かろう」の製品でしたが,次第に「そこそこ」の製品へと変わり,今では日本と「対等」な製品を安価に提供できるようになり,日本にとって強力な競合に成長してきています。
日本の製造業にとって,CMOS 半導体,液晶パネル,太陽電池,DVD プレーヤーなどの分野で,世界市場でのシェアが急速に低下しているのが現状です。高い成長性を追及する方策としては,日本企業が強さを維持していると考えられる低炭素社会の実現に向けた環境・エネルギー関連事業の強化と社会インフラシステム事業の強化を掲げて,国内電機機器各社はグローバル市場への展開を推進しているようです。講演者の所属される三菱電機では,具体的には省エネを支えるパワーデバイス・太陽電池システム,ヒートポンプ,HEV/EV 機器,スマートグリッドなどの省エネ事業に加えて,家電リサイクル事業などを強化し,CO2 排出削減および循環型社会実現への貢献を目指しているようです。しかしながら,常に技術開発と技術動向とをウォッチしていなければ,ブラウン管テレビが液晶テレビに替わったように,大きな変革を見逃すことになります。その結果,事業が継続できないことになりますので,持続的イノベーションを継続しつつも,破壊的イノベーションにも挑戦することが必要であると説いています。
次の第5 稿は「レーザー50 年とレーザーエネルギー応用,そしてこれからの30 年」と題してレーザー学会の中井貞雄先生にご講演/執筆いただきました。核融合技術の早期実現(核融合を実現するためにつぎ込んだエネルギーと,核融合により取り出したエネルギー比:ブレーク・イーブン・ポイントの実現)が待たれるところです。
第6 稿は「宇宙産業と光学:これまでの30 年これからの30 年」と題して三鷹光器(株)の中村勝重氏にご講演/執筆いただいたのですが,三鷹光器は12 基の科学衛星,3 基の探査機,16 基の人工衛星に観測機を搭載させているユニークな光学メーカーです。衛星搭載観測機器の開発を通じて得られた知恵と技術とを使って,三次元測定器,医療機器,新エネルギーの3 分野に活用された実績もあり,今後の30 年はこの分野をどのように展開されるかご執筆いただきました。
第7 稿と第8 稿は光通信関連の興味深い話題です。まず,商用光ファイバー通信網を支える中核的光回路技術となった石英系プレーナー光回路(PLC)技術の開発者であるNTT エレクトロニクス(株)の河内正夫氏には,「光ファイバー通信技術の歩みと見果てぬ光集積回路の夢」と題して,幸いにも過去30 年に巡り会われた光通信の数々のブレークスルー技術と,それに対応して開発された光集積回路を概観していただきました。さらにPLC の不得意領域を踏まえながら,今後に期待される新たな光集積化技術の胎動への期待を執筆していただきました。
本特集の最後を飾って,日本アイ・ビー・エム(株)の中川茂氏には,「持続可能な世界を支える光インターコネクト技術」と題して,IT に使われる高性能コンピューティング技術が,ペタフロップスを超え,エクサスケールへと急速に発展している現状を概観していただき,今後のさらなる演算高速化のためにシステムの低消費電力化が必須であることと,光インターコネクト技術の導入が求められることをご講演/執筆していただきました。初の光配線導入によるスーパーコンピューター技術の紹介もしていただき,今後の飛躍が期待される導波路を用いた光配線基板,シリコンフォトニクス技術に至るまでの光インターコネクト技術について解説していただいています。
去る5 月10 日に行われた微小光学第120 回(創立30 周年記念)研究会では締めのご講演として,応用光学研究所の内田禎二氏(元東海大)に,膨大な統計資料も使って,レーザーを中心とする光エレクトロニクスの過去の俯瞰ふかんとともに,光エレクトロニクス全体の今後の姿をも展望していただきました。先駆的技術志向にとらわれずに,かつ,「成長の期待される革新的事業モデルとは何か?」を熱を入れてのご講演でしたが,残念ながら内田先生は超多忙と海外出張のために,今回のO plus E への原稿執筆はお願いできませんでした。ご興味ある読者は,微小光学研究会第120 回研究会資料集をご覧ください(MICROOPTICS NEWS, Vol. 29, No.2, pp.45~50, ISBN978-4-86348-161-9)。
いずれのご講演(ご執筆)でも30 年前には考えられなかったような微小光学とその応用技術です。30 年前の(すなわち過去の)栄光や成功談も非常に大事ですが,今後の30 年を予想することは,もっと大事ですし,実は極めて困難です。各先生方のお考えを拝読しながら,自然と元気がわいてくるようになることを期待します。去る3 月11 日に,東日本大震災と,それに続く福島原子力第一発電所の甚大な津波被害・放射線漏えい問題もあり,光エレクトロニクス産業国を自負する日本の元気が無くなっている時であります。こんな時こそ,本特集が今後の微小光学産業テーマの発掘や元気発揚のきっかけになるようにと祈りたいと思います。