OplusE 2012年2月号(第387号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
医師からみた光医療最前線
- ■特集にあたって
- 防衛医科大学校 医用工学講座 石原 美弥
- ■皮膚科・形成外科におけるレーザー治療最前線
- 大城クリニック*,日本医用レーザー研究所** 大城 貴史*,大城 俊夫**,佐々木 克己*
- ■下肢静脈瘤レーザー手術の治験が通るまで
- 福島第一病院 心臓血管外科 小川 智弘
- ■光線力学的療法(PDT)の現状と将来展望
- 国際医療福祉大学 山王病院呼吸器センター*,東京医科大学 外科学第一講座**,奥仲 哲弥*,坂庭 信行*,臼田 実男**,池田 徳彦**
- ■レーザー・光技術の整形外科領域への応用と展望
- 東海大学 医学部外科学系整形外科学*,防衛医科大学校 医用工学講座**,佐藤 正人*,石原 美弥**,菊地 眞**,持田 讓治*
- ■光の放射線科利用の可能性:他のモダリティとの比較より
- 江戸川病院 放射線科 浜 幸寛
- ■次世代の画像診断装置としての光音響画像化技術開発と医師の期待
- 防衛医科大学校 防衛医学研究センター異常環境衛生研究部門*,防衛医科大学校 医用工学講座**,藤田 真敬*,平沢 壮**,石原 美弥**
特別企画
- ■日本光学会年次学術講演会(OPJ2011)報告
- 大阪大学 大学院情報科学研究科 谷田 純
連載
- ■【一枚の写真】オプティカルフローの厳密高解像度検出が可能に
- 東京大学 安藤 繁
- ■【私の発言】エンジニアリングとサイエンスのバランスを考える
- 東芝リサーチ・コンサルティング フェロー 波多腰 玄一
- ■【第10・光の鉛筆】2 ストローベルの定理再考2 Toraldo di Francia の証明とAbbe・Helmholtz の正弦条件
- 鶴田 匡夫
- ■【波動光学の風景】第79回 81.平面波展開による回折計算
- 東芝 本宮 佳典
- ■【コンピュータイメージフロンティア VFX 映画時評】
- Dr.SPIDER
- ■【研究所シリーズ】産業技術総合研究所 高精度リニアエンコーダー校正装置 ―サブナノメートル測長技術の開発―
- 計測標準研究部門 長さ計測科 長さ標準研究室 鍜島 麻理子
- ■【ホビーハウス】インテグラルフォトグラフィの3Dカードを手作り
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
医師からみた光医療最前線防衛医科大学校 医用工学講座 石原 美弥
レーザーの生体への応用は歴史が古い。1960 年のメイマンによるルビーレーザー発振の成功は医療・医学の世界でも大いに注目され,発明後数年のうちに,あざ治療,網膜凝固治療などの臨床応用が始められた。臨床医は常に最大限の努力と能力を発揮して,目前の患者に医療を施している。それでも,現存の診断手法と治療技術を駆使するだけでは対処できない,あるいは,完全に機能を回復できない疾患がある。しかし,医療は待てない。日本では外来,検査,手術,術後管理に加え,多様な教育業務に日々忙殺されている。その中で,研究マインドを持って収集した最先端の情報に経験と知識を重ね合わせ,医療の現場にフィードバックしている。医師のこのようなひたむきな姿勢は1960 年代から現代まで変わらないと,医師ではない筆者が医学部に在籍していて実感する。
「医工連携」という言葉が浸透して久しい。1970 年代にはアメリカでバイオメディカルエンジニアリングという名の学部や学科がスタートした。20 世紀に発展・成熟した工学技術(電気電子工学,機械工学,材料工学,情報工学,細胞工学,遺伝子工学など)を医療に融合させることで,高度な医療技術の創成を目指す学際領域である。日本の医工連携については,黎れい明めい期を作り上げた偉大な先輩方の功績により,例えば日本生体医工学会は会員約4,500 名,日本医療機器学会は会員約3,500 名という数字が物語るように,この研究分野が確立された。しかし,医療機器産業の実態は厳しい。これにはさらなるブレークスルーが必要と考える。
2008 年の特集号「バイオと光技術」以来,4 年ぶりに本誌より“ 医療と光技術”に関する特集号の依頼を受けた。その際に,本特集が上述したブレークスルーの一助となる機会になれば良いと思った。つまり,「あれを作ってほしい」,「これを作ってほしい」という医師からのニーズを工学側が実現するという,従来型の医工連携から脱却するための特集号にしたいと考えた。真の医工連携をかなえるには,工学側が医療の中に入り込んでいく必要があると常々考えており,そのためには,まず医療の現場を知る必要があると思う。このような背景により,本特集では「医師からみた光を使った医療」という切り口を考案した。医師がどのように光技術をとらえ,どのようにかかわっているかを直接知る機会にするという狙いである。そこで専門領域が異なる6 名の医師に原稿をお願いした。臨床の最前線で活躍されていて,これからの日本の医学会を支えていく中堅で選りすぐりの6名の医師である。今回の趣旨をお伝えして執筆をお願いしたところ,「多忙」と一言で済ませるのは気が引けるほど早朝から深夜まで身を削って多用な業務をこなしている方々にも関わらず,ご快諾をいただいた。
この場を借りて,厚くお礼を申し上げます。
本特集の6 編の構成と,選択した意図は以下の通りである。
皮膚科・形成外科は,もっとも多くの種類のレーザーを使用している診療科である。症例数が多く,関連学会でも信望が厚い大城クリニックの大城貴史先生に,皮膚科・形成外科におけるレーザー治療の現状として,トピックスや治療戦略について概説をお願いした。
平成22 年に下肢静脈瘤りゅう治療のためのレーザー装置が承認された。この治験の計画から実行まで携わった医師である福島第一病院心臓血管外科の小川智弘先生に,下肢静脈瘤の血管内レーザー手術の保険認可までの長い道のりのご紹介をお願いした。
光線力学療法(PDT)は,薬剤と光を組み合わせた夢のような癌がん治療として1994 年に初めて認可された。PDTの現状と将来展望を関連学会のオピニオンリーダーである国際医療福祉大学山王病院呼吸器センターの奥仲哲弥先生にお願いした。
放射線科における画像診断技術の発展は目覚ましい。悪性腫しゅ瘍ようにおける画像診断の果たす役割と現状について,他のモダリティと比較して光技術に勝ち目があるのかなどの観点から,光を使った分子イメージング研究に造詣の深い江戸川病院放射線科の浜幸寛先生に概説をお願いした。
整形外科領域に役立つ光・レーザー技術の一例として,東海大学医学部外科学系整形外科学と防衛医科大学校医用工学講座との共同研究の成果を,東海大学の佐藤正人先生にご紹介していただいた。完全なニーズ指向型の研究であり,医療現場のニーズを工側が理解し,工学的な着想に基づいた実用的技術を医側が十分に理解する体制が構築できた例である。
光と超音波のハイブリッドモダリティとして注目されている光音響画像化技術(光超音波画像化技術)は,真に医療に役立つのか,役立つポイントは何か,防衛医科大学校で実施している光音響画像化技術の研究開発に参画している防衛医学研究センターの藤田真敬先生に原稿を依頼した。
本特集号の意図は,上述のようにブレークスルーの一助となるための「医療現場の声を聞く」ことである。これを,視点を変えてとらえれば,国の施策に関連できるように思う。総合科学技術会議では科学技術基本政策として国家戦略の柱に2 大イノベーションを挙げ,その1つに「ライフイノベーションで健康大国を目指す」がある。少子高齢社会,医療関連経費支出の増大,医療保険制度の見直し,格差医療(医療の過疎化)などのキーワードから見えてくる日本における医療関連のさまざまな問題を抱えている現況を,どうにかしなくてはという国の姿勢が見えてくる。本特集号で取り上げた話題は,このイノベーションを起こすための種にはならないだろうか。
いずれにしろ,「医師の熱い思い」に加えて,工学的な着想に基づいて開発した技術を現場の医師が理解する準備は十分整っていると感じていただきたい。
真の医工連携をかなえて,日本が元気になればと願う。