OplusE 2012年3月号(第388号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
最新AFM技術
- ■特集にあたって
- O plus E編集部
- ■ブルカー社の最新AFM技術
- ブルカー・エイエックスエス 後藤 千絵
- ■ナノメーター世界の動態を動画撮影する高速AFM
- 金沢大学 安藤 敏夫
- ■カンチレバーの最新技術動向と今後
- オリンパス 北澤 正志
- ■電子顕微鏡におけるAFMのマニピュレーター利用
- 静岡大学 岩田 太,新潟大学 牛木 辰男
- ■一次元回折格子のピッチ校正の最新動向
- 産業技術総合研究所 三隅 伊知子
- ■AFM技術を受け継いだフォトマスク修正
- キヤノンマーケティングジャパン 浜崎 智広,加藤 直樹
連載
- ■【一枚の写真】遠くの信号は効率よく,近くの信号はそれなりに
- 生理学研究所 窪田 芳之
- ■【私の発言】10年,20年…100年というロングレンジで研究開発を考える
- 東京大学 石原 直
- ■【第10・光の鉛筆】3 ストローベルの定理再考3 分光器の明るさ尺度としてのエタンデュ
- 鶴田 匡夫
- ■【波動光学の風景】第80回 82.境界回折波東芝
- 東芝 本宮 佳典
- ■【コンピュータイメージフロンティア VFX 映画時評】
- Dr.SPIDER
- ■【研究所シリーズ】物質・材料研究機構 液滴エピタキシーを用いた高均一量子ドット形成と赤色量子ドットレーザーへの展開
- 先端フォトニクス材料ユニット 定 昌史,間野 高明,佐久間 芳樹,迫田 和彰
- ■【ホビーハウス】外観からは分かりにくい商品
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
最新AFM技術OplusE編集部
原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)は1986年に,IBMチューリッヒ研究所のGerd Binnig,Calvin F. QuateとChristoph Gerberにより発明され,現在では,ナノテクノロジーの中核を担うツールとして広く科学技術の分野に普及し,使用されている。多くの計測事例では,計測物を大気中に置いた状態で行っている。この場合,計測物の上に水の分子が付いており,真空中での計測の場合とは異なり,ファンデルワールス力等の本当の意味での原子間力を計測に使用しているとはいえない場合があると考える。そのため,AFMというより,走査型プローブ顕微鏡(ScanningProbe Microscope:SPM)と表現した方が適した場合が多いかもしれない。しかし,SPMと呼ぶものには計測方法にいろいろなものがあり,ここでは表面形状の測定に使われているSPMをAFM(と呼ばれて使われる事例が多い)として,特集「AFMの最新動向」と題して報告する。
AFMの魅力は,なんといってもその解像力にある。光の波長に依存する光学の顕微鏡に比べて空間分解能が非常に高く,超高真空中では,原子以下のレベルの形状観察を可能としている。また,大気中での測定に特化することで,装置の大きさを小型にすることができ,多くの会社から販売されている。AFMの特集は本誌では初めてのことである。AFMを非光計測の範はん疇ちゅうととらえて,「敵視」する方もいるかもしれないが,ここでは光計測の「よきライバル」として,最新技術の紹介を行う目的で特集し,6件の記事の執筆をそれぞれ第一線で研究・開発されている方々にお願いした。
まず,ブルカー・エイエックスエス?の後藤千絵氏には,「ブルカー社の最新AFM技術」という題目で記事をお願いした。この会社では,AFMの世界では大変有名な米DI(Digital Instruments)社で開発した技術を,米Veeco社を経て,製品として販売を行っている。この記事の中で,機械物性,電気物性,化学組成識別に関する計測の紹介をいただいた。さらに,AFMの問題点と認識されている,計測時間の短縮を可能とするFastScanの技術に関しても説明いただいた。
次に,金沢大学の安藤敏夫先生には,「ナノメーター世界の動態を動画撮影する高速AFM」という題目で記事をお願いした。安藤先生の研究室では,特に生体分子の動態を動画撮影することを目的にAFMの高速化に長年取り組んでこられている。高速AFM装置はすでに完成されており,タンパク質の機能解明に向けた応用研究が現在進んでいて,この高速化を可能にした技術と得られた映像をいくつか紹介していただいた。
3番目にオリンパス(株)の北澤正志氏に,「カンチレバーの最新技術動向と今後」という題目で記事をお願いした。シリコン製カンチレバーの構造,特性について述べ,高アスペクト比探針など最近の開発製品について触れていただいた。そして,高共振周波数カンチレバーへの取り組みについてもご紹介いただいた。さらに,シリコン探針の先端にカーボン細線を選択成長させたカーボンナノファイバー(CNF)探針付きカンチレバー技術に関してのご説明も行っていただいた。
4番目に静岡大学の岩田太先生と新潟大学の牛木辰男先生に,「電子顕微鏡におけるAFMのマニピュレーター利用」という題目で記事をお願いした。観察には走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を使い,微細加工用にAFMを使用したマニピュレーター技術に関する内容であり,細胞の切断など顕微解剖への応用例を示していただいた。カンチレバーの代わりに,マイクロニードル(解剖針)やナノピンセット,ナノはさみなど,さまざまなナノツールに交換することができる複雑なマニピュレーションを可能とする技術を開発されている。
5番目に産業技術総合研究所の三隅伊知子氏に,「一次元回折格子のピッチ校正範囲」という題目で記事をお願いした。半導体製造現場で高性能・高品質な半導体デバイスを歩留まりよく製造するためには,信頼性の高い参照標準が必要であり,公称ピッチ25nmの一次元回折格子を開発してピッチ校正を行い,各種検査装置の参照標準に適用可能であることが確認できたとの技術紹介である。さらに国際標準化の例として,SPMの基本的な寸法校正の現状に関しても紹介いただいた。
最後に,キヤノンマーケティングジャパン(株)の加藤直樹氏には,「AFM技術を受け継いだフォトマスク修正」という題目で記事をお願いした。この記事は,アメリカのRAVE LLC社が製造する,先端フォトマスク欠陥修正装置の技術に関する紹介である。大きな特徴は,一つのプローブでAFMスキャンと欠陥修正を行うことにある。EUV(Extreme Ultraviolet)リソグラフィー用フォトマスクのように複雑な構造のものにおいては反射率の低下が非常に憂慮されることになるため,今回,紹介いただいた技術がその問題解決策の一つになり得ることができるとのことである。
AFMが発見され,今年で26年目であるが,その関連技術は常に進歩しており,本特集のようにいろいろな領域への展開が見受けられる。しかしながら,まだまだ「観察」としての使われ方が多く,「計測」として使用されるためには多くの研究課題が残っていると考える。本誌においては,今後もこの技術動向を常に見守っていき,適時,特集として報告していきたいと考える。