OplusE 2013年2月号(第399号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
テラヘルツ波光源と応用
- ■テラヘルツ波技術の最近の展開
- 慶應義塾大学 神成 文彦
- ■非線形光学効果を用いた周波数可変テラヘルツ波光源の開発
- 理化学研究所 南出 泰亜
- ■高強度テラヘルツパルスによる非線形物理学と測定法の進展
- 筑波大学 服部 利明
- ■テラヘルツ時間領域分光による生体高分子の低振動スペクトルの観測
- 神戸大学,山本 直樹,富永 圭介 量子ナノ構造とテラヘルツ電磁波:東京大学生産技術研究所*,東京大学ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構**,平川 一彦*,**
- ■電気光学サンプリング法を用いた超小型テラヘルツ波プローブ
- 情報通信研究機構*,スタック電子株式会社**,諸橋 功*,関根 徳彦*,寳迫 巌*,野口 博志**,今荘 義弘**
- ■テラヘルツ波ケミカル顕微鏡と応用開拓
- 岡山大学,紀和 利彦
- ■テラヘルツ波TOF(time-of-flight)トモグラフィー
- アドバンテスト 今村 元規,西名 繁樹
連載
- ■【一枚の写真】太陽フレアの発生原因となる磁場構造
- 名古屋大学 太陽地球環境研究所 草野 完也
- ■【私の発言】企業現場で培った光学知識・技術を大学教育に活用
- アリゾナ大学 光科学部 準教授 高島 譲
- ■【第10・光の鉛筆】14 非点光線束の追跡7 OstwaltとTscherning
- 鶴田 匡夫
- ■【波動光学の風景】91 93.球座標でのマクスウェル方程式
- 東芝 本宮 佳典
- ■【コンピュータイメージフロンティア VFX 映画時評】
- Dr.SPIDER
- ■【研究所シリーズ】理化学研究所 太陽光励起Nd,Cr共添加レーザーの開発
- 光グリーンテクノロジー特別研究ユニット 和田 智之,小川 貴代
- ■【ホビーハウス】店頭を賑わす光学のしかけ―安い商品と高い商品
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
テラヘルツ波光源と応用慶應義塾大学 理工学部 神成 文彦
従来の遠赤外線領域に対応する1~10THz(1THz=1012Hz,波長域は数十μm ~数mmの領域)の周波数帯のテラヘルツ電磁波は,今世紀に入って以来,その発生方法のみならず時間分解分光および半導体のキャリアダイナミクスの研究において目覚ましい進歩を見せてきた。最近,さらに高出力なテラヘルツ波発生法が見いだされ,テラヘルツ非線形光学応答計測などのさらなる展開が可能となってきた。このようなテラヘルツ波の研究の契機になったのは,フェムト秒レーザーパルスを用いて半導体光伝導スイッチからのテラヘルツ波発生の成功と電気光学効果を用いた波形計測法の構築である(図1)。この手法によって生成されるテラヘルツ波は,フェムト秒レーザーパルス波形に対応した(正確にはパルス包絡線の2回微分)半サイクル的テラヘルツパルスとなり,非常に広帯域なコヒーレントな電磁波になる。この手法で得られる典型的なテラヘルツ波の電場強度は100kV/cmくらいである。この広帯域テラヘルツ波によって吸光分光を行い計測された透過パルス波形のフーリエ変換を行うと広帯域の吸収特性が容易に得られる。この波長可変光源を必要としない「テラヘルツ時間領域分光法」の開発と応用がこれまでの当該分野を牽引してきたと言っても過言ではないであろう。THz 周波数帯には,分子の回転スペクトル,巨大分子の振動モード,超伝導ギャップ,半導体中の励起子の束縛エネルギーなど,物性的に重要な励起モードが存在する。
一方,わが国におけるテラヘルツ波研究の特徴として,上述のフェムト秒レーザーを用いたテラヘルツ波発生とは別に,非線形光学結晶LiNbO3 (ニオブ酸リチウム)を用いた光パラメトリック効果によってチューナブルで狭帯域なテラヘルツ波発生法の研究がある。広帯域な波長可変性を用いることでテラヘルツ帯の分光計測が可能にある。利点は,比較的大型のフェムト秒レーザー装置は不要であり,半導体レーザー励起小型マイクロチップレーザーを用いて装置を構築できる点にあり,分光イメージング応用に向けた製品化ではむしろ先行している。
フェムト秒レーザーを用いたテラヘルツ波発生法として,現在では化合物半導体結晶の2 次非線形効果である光整流効果が広く使われているが,高い非線形光学定数をもつ材料の選定と位相整合条件の達成が高出力化に必要となる。最近,LiNbO3を用いた新しい位相整合法が実現され>1MV/cm 以上のピーク電界振幅が達成できるようになった。 この結果,単に計測のSNが向上するだけではなく,固体中の非線形光学効果の研究が急速に加速されつつある。例えば,固体の絶縁破壊強度は~500kV/cmであるが,短時間に1MV/cmの電界を印加することで,固体中にホットキャリアを生成しそのダイナミックな相関特性を観測したり,電子~格子相互作用の結果として大振幅でかつコヒーレントな格子振動を励起することも可能となる。後者は,光誘起相転移につながるであろう。
また,興味深いのがテラヘルツ波の磁場利用である。これまでは,半導体,誘電体をはじめ物質の誘電的応答計測が注目されてきたが,テラヘルツ波の磁場を利用した時間領域分光による磁性体の研究も急速に進んでいる。強磁性体のスピン波をテラヘルツ波の磁場でコヒーレントに制御することが可能となっている。
サイエンスとしての強力な武器としてのみではなく,テラヘルツ波を用いたイメージセンシング用の機器開発も進められており,国内外の7 社から市販されている。
海外の空港に設置されているミリ波帯での危険物検査は,パッシブ計測であり人体から黒体放射として発生されている波長1~10mmのミリ波計測を用いてイメージ化している。テラヘルツ波はこの波長よりも1 桁ほど短い領域であるが,アクティブ計測によって生体物質を検出し画像化するテラヘルツカメラの製品化が進められている。課題は,通常の熱放射によるノイズを低下させる必要があるため,液体ヘリウムなどによる冷却が必須となる。また,光源の小型化も進められなくてはならない。半導体を用いた量子カスケードレーザーさらにはその常温動作や,導波路の開発はそのためにも重要な開発項目である。
本誌では,以上の最近のテラヘルツ波関連の展開を象徴するような光源開発,分光応用,製品開発を取り上げご執筆いただいた。テラヘルツ波研究の今後の発展に関しては,応用物理学会がまとめたアカデミック・ロードマップ(以下のURL)を参照されたい。
http://www.jsap.or.jp/jsap75/academic_03.html
広告索引
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