OplusE 2013年4月号(第401号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
フレキシブルOE技術
- ■フレキシブルディスプレイの開発と課題
- 九州先端科学技術研究所 八尋正幸,安達千波矢
- ■フレキシブルガラス基板を用いたロール・ツー・ロールプロセス開発
- 大日本印刷 坪井達也
- ■ロール・ツー・ロール方式のUVナノインプリント技術
- 東芝機械 萩原明彦
- ■超フレキシブルで透明なカーボンナノチューブトランジスタ
- 東京大学*,物質・材料研究機構**,相川慎也*,**,塚越一仁**,丸山茂夫*
- ■印刷プロセスで作製可能なフレキシブル発光パネル
- 東京工芸大学 佐藤利文
- ■フレキシブル液晶ディスプレイ
- 東北大学 藤掛英夫
- ■フレキシブル有機ELディスプレイ
- 山形大学 水上誠,時任静士
特別企画 国際画像機器展2012 特別招待講演レビュー
- ■ニュートンの夢がついに実現 ~多波長干渉画像処理が拓く新たなナノ計測の世界~
- 東レエンジニアリング 北川克一
連載
- ■【一枚の写真】大型構造物の遠隔からの微小変形計測
- 和歌山大学 藤垣元治
- ■【私の発言】うまくいかなかった研究・開発からも学べることがあるため失敗とは考えない
- アリゾナ大学 光科学部 眼科光学科 教授 John E. Greivenkamp
- ■【第10・光の鉛筆】16 非点光線束の追跡9 乱視用レンズの誕生
- 鶴田 匡夫
- ■【波動光学の風景】93 95.ヘルツベクトルとの関係
- 東芝 本宮 佳典
- ■【光エレクトロニクスの玉手箱】第2章 電子とは何者?(その1)
- 伊賀 健一,波多腰 玄一
- ■【コンピュータイメージフロンティア VFX 映画時評】
- Dr.SPIDER
- ■【研究所シリーズ】分子科学研究所 フタロシアニン単独薄膜におけるpnホモ接合形成
- 分子スケールナノサイエンスセンター ナノ分子科学研究部門 平本昌宏,新村祐介
- ■【ホビーハウス】レンチキュラー・チェンジングピクチャーの大氾濫
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
フレキシブルディスプレイの開発と課題九州先端科学技術研究所 有機光デバイス研究室*
福岡県産業・科学技術振興財団 有機光エレクトロニクス実用化開発センター**
九州大学 最先端有機光エレクトロニクス研究センター***
八尋 正幸*,**,***,安達 千波矢***,*,**
情報ネットワークの高速化に伴い,いつでもどこでも情報を入手し,活用できるユビキタス社会の到来に伴い,あらゆる場所で電子情報がやりとりできる環境が整ってきている。特に,ヒトにとって最も高速で大容量の情報の入力手段は視覚と言われているように,電子情報を視認化するディスプレイが担う役割はますます大きくなり,活躍の場を広げている。それらの要求に応えるため,近年,プラスチックフィルムに代表される柔軟な基板を用いたフレキシブル電子デバイスの開発が盛んに行われている。フレキシブルデバイスでは,薄い・軽い・割れにくい・曲がる・加工形状の自由度の向上などのこれまでの電子デバイスには無い特徴を持ち,製造プロセスにおいても,電子デバイスの製造にロール・ツー・ロール方式を適用できることから,大面積のデバイスを高速,低コストで製造できる可能性を有している。特に,スマートフォンやタブレットなどのモバイル電子機器分野では,さらなる小型化・薄型化から,フレキシブルディスプレイの早期実現が強く期待されている技術である。また,照明の分野においても,ガラスを中心とした素材,または,円筒形や四角形を基本とするガラス基板から脱却できることから,光る壁紙のようなこれまでに無い応用範囲の拡大やデザインの自由度が増すため,ディスプレイと同様にフレキシブル照明の実現へ向けた研究開発が進んでいる。フレキシブルディスプレイの分野では,電子ペーパーとも呼ばれる基本的に反射型で,メモリー性を有する表示媒体と,自発光型でメモリー性の無い有機EL 素子をフレキシブル化したパネルが代表的である。電子ペーパーでは,その名の通り紙の代替を目指し,紙のような視認性,紙のような携帯性,低コストを実現する技術である。2000 年代前半から,さまざまな方式の電子ペーパーが発表されたが,2013年には,Plastic Logic 社,Intel 社,クイーンズ大学らの共同開発の成果として,「PaperTab」と呼ばれるこのタブレットがInternationalCESで発表された(図1)。表示部には,10.7インチのグレースケールのフレキシブルディスプレイ(電子ペーパー)を採用し,ディスプレイを重ねると画像をコピーでき,また,並べると表示部の拡張が容易に行えるなど,ディスプレイとしての性能だけではなく,フレキシブルディスプレイに期待されている機能が盛り込まれていた試作機であった。
一方,有機EL(organic electro-luminescence)では,2001年ごろパイオニア(株)が対角3インチ,表示ピクセル数160×120ドット,厚さ200 μm,パッシブ駆動方式,256階調表示のフレキシブル有機ELの開発を行っていた。当時のフレキシブル有機EL 開発は,有機ELが水分や酸素によって劣化することから,フレキシブル基板(プラスチック基板)のガスバリアー性の向上に力が注がれていた2)。現在では,ソニー(株)が極めて柔軟性が高く,細い棒状に巻き取ることが可能な厚さ80μm,精細度121ppiの対角4.1インチ,有機TFT(thinfilm transistor;薄膜トランジスタ)を用いたTFT1駆動フルカラー有機ELディスプレイを「巻き取れる有機ELデバイス」として開発した3)。ソニーのデバイスでは,駆動回路に柔軟性に優れた有機材料を用いたTFTを用い,曲率半径4 mmの棒に巻き取ることが可能であり,有機ELにおいても,高い試作レベルでフレキシブルディスプレイの開発が盛んに行われている。図2に両社のフレキシブル有機ELを示した。
フレキシブルディスプレイを駆動するTFTには,有機半導体や酸化物半導体を用いたTFTの開発が盛んである。特に,酸化物半導体では,α-In-Ga-Zn-O(α-IGZO)が,高移動度アモルファス半導体として優れたトランジスタ特性を示すことが明らかとなり,フレキシブル基板上への適用を目指して,さらなる開発が行われており,PET(ポリエチレンテレフタレート)基板上にα-IGZO(組成比 1.1:1.1:0.9)を活性層として室温で成膜し,Y2O3ゲート絶縁膜としたトップゲート型透明TFTでは,移動度8.3cm2/Vs,しきい電圧1.6V,オンオフ比103を達成している4)。α-IGZOでは,ゲート絶縁膜やパッシベーション膜にSiNxを用いることによって,安定性の確保が可能となってきたことから,電子ペーパーおよび有機ELの駆動回路素子として,実用化に向けた開発が進んでいる。 フレキシブルディスプレイを支える基板は,プラスチック基板,鉄またはステンレス薄膜基板,薄膜ガラス基板などが提案されているが,プラスチック基板の開発に最も期待が大きい。フレキシブル基板への要求仕様は,有機ELでは,水分透過率10-6 g/m2/day程度以下,平均表面粗さ2nm 程度以下と非常に高いが,市場の拡大を期待して各社開発を進めている。図3に企業より提供いただいた無機性バリアー膜を含まないながら4×10-5 g/m2/dayのガスバリアー性を有するフィルム上へ作製した有機ELの発光状態を示した。本有機EL 素子では,ガスバリアー性の付与により,ガスバリアー性の無いフィルムよりダークスポット(非発光点)の成長は抑制される効果があったものの,ガスバリアー層およびハードコート層の塗布時に生成した凹凸(特に凹部)に起因するダークスポットが多数見られ,ガスバリアー性だけではなく,平面平滑性の確保も重要であることが分かる(図3)。
製造コストと低環境負荷のためのプロセス改善は,フレキシブルディスプレイ開発にも避けては通れない開発事項である。製造コスト削減のためには,現在の真空チャンバーを用いた枚様式等の成膜から,ロール状のプラスチック基板に連続して印刷するロール・ツー・ロール方式や,高速および位置合わせ精度に優れたフレキソ印刷方式の製造プロセスの確立が必須である。
フレキシブルディスプレイの開発には,これまで主にパネルメーカーが取り組んでいたように思われる。しかしながら,有機ELがゆっくりとではあるが確実に市場に供給されるようになり,材料メーカーも部材の本格的開発を開始した。今後,各要素技術の融合が進み,フレキシブルディスプレイの開発は加速されることが期待される。また,フレキシブルディスプレイのすそ野の広い普及には,フレキシブル回路,フレキシブル蓄電池等の開発も必要であるが,すでに本格的な研究開発が始まり,完成度の高いフレキシブルパネルの試作品が発表されるようになり,商品としての価値を見いだしやすくなってきたことから,開発は加速度的に進み,キラーアプリの創出と共に早い時期に実用化されると期待される。
参考文献
- http://www.plasticlogic.com/
- A. Sugimoto, A. Yoshida, T. Miyadera : “Development of a film-type organic electroluminescent (OEL) Display,”PIONEER R&D, Vol. 11, No. 3, pp. 48-56 (2001)
- http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/201005/10-070/
- Kenji Nomura, Hiromichi Ohta, Akihiro Takagi, Toshio Kamiya, Masahiro Hirano , and Hideo Hosono : “Roomtemperature fabrication of transparent flexible thin-film transistors using amorphous oxide semiconductors,” Nature, Vol. 432, No. 7016 pp. 488-492 (2004)
広告索引
- (株)インデコ401-007
- (株)インフラレッド401-010
- エドモンド・オプティクス・ジャパン(株)401-997(表3対向)
- オーシャンフォトニクス(株)401-002(表2)
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